1-5 四番台一回戦 真琴 vs 葵(二)
続く第二セット、葵のサービス。
ここで真琴は、手を変えてみる事にした。
葵のサービスを、それまでの安定して返すためのツッツキではなく、まるでカットをするかのような大振りのツッツキで返した。
強烈な回転がかかったボールが、葵のバックハンド側に降り立った。
流石の葵も一旦は様子見、ツッツキで返してくる。
やや浮き上がるが、回転の激しい真琴のツッツキと、
低く、正確に、攻めにくいコースを突いてくる葵のツッツキのラリーが、しばらく続いた。
先に攻撃のタイミングを掴めたのは、葵だった。
ラケットを体の正面で巻き込むようにテークバックを取り、上に向かって振り上げる。
高めの弧線を描くドライブが、真琴のバック側に迫る。
真琴はカットはせずに、バックハンドドライブで応戦した。
回り込んでフォアハンドを狙えば、冷静にフォア側を付かれて動かされるし、
カットで凌ごうとすれば、今度はストップで前に動かそうとしてくる。
消去法のような対応策だが、他にやりようも思いつかない。
しかし、ぐたぐだと撃ち合っている余地もない。
あまりに苛烈で安定したドライブに、徐々に打ち負けていく感触があった。
どこかで葵を出し抜かないと、とは思うものの、
その糸口が掴めないまま、失点を繰り返す。
5-0。
大きく息を吐きながら、真琴は天を仰いだ。
真琴はサービスからの展開のイメージを膨らませるが、葵の牙城は崩せる気がしない。
三球目、五球目まではイメージ通りに出来るものの、それだけの展開では全く足りない。
イメージしないよりは良いが、イメージしたところで、
安定感抜群のブロックとカウンターにより、結局はラリーに持ち込まれる。
そうなるともう、その場その場で飛んできたボールに対応する、地の力必要だ。
山吹葵とは、そういう相手だ。
真琴は葵の方に向き直って、台を正面に、バックハンドサービスを構える。
しかし、にわかに横向きになって、フォアハンドサービスに構え直した。
そして自分の身長の倍ほどの高さにまでボールを投げあげて、
落ちてきたボールの下側を切りつけた。
なんとかなれ、の気持ちを込めた、ハイトスサービス。
ボールを高く投げあげると、落下するボールの勢いがサービスに乗るため、回転が強くかかりやすい。
一方で真っ直ぐ投げあげることも、落ちてきたボールをコントロールする事も難しくなる。
リスクもリターンも大きいサービスだ。
強烈な下回転のかかったボールが、葵の側のエンドラインにまで届く。
葵は下に大きくテークバックを取って、真上に持ち上げるようなループドライブで返す。
真琴は、このループドライブを狙っていた。
ボールを体のやや右側に捉えると、ラケットを横に滑らせながらカウンターを仕掛けた。
一セット目の一点目、奇襲で奪った初めての得点。
その立役者となった、シュートドライブ。
真琴は、それをもう一度持ち出した。
ボールは唸るように大きく曲がり、葵のバックハンドに飛び込んでくる。
しかし、葵もまた、ラケットを体の正面に巻き込んで、テークバックを取っていた。
狙うはもちろん、真琴のドライブのカウンターだ。
ボールは軌道を右へ右へと曲げながら、葵の真正面へと吸い込まれていく。
金属音が鳴り響く。
次の瞬間には、真琴のミドル側にボールが突き刺さっていて、真琴は、それに触れる事すら出来なかった。
6-0。
真琴は内心、頭を抱えた。
これ以上、葵に通用させられるプランが思いつかない。
それでも真琴は意地でくらいつくものの、葵の勢いは止まらない。
先にドライブを仕掛けても、撃ち合っても、カットで凌いでも、ツッツキでミスを狙っても、葵は難なく対処してくる。
撃ち合えば負け、ミスを誘っても効果はなく、台から下がって粘ろうとすれば、前後に動かされて体力を奪われる。
ひたすら、それの繰り返しだった。
11-2。
結局、真琴がこのセットで取れた点は、たったの二点だった。
後の無くなった第三セット。
出し惜しみしている場合ではないが、生憎、もう手の持ち合わせがない。
三球目、五球目までのプランなら幾つかあるが、それだけで得点を決められた事は殆どない。
どれだけプランを立てたところで、五球目のその先の、プランの立てられないラリー戦を制しなければ、勝ちの目を見い出すことなんて出来なかった。
なら、翻っていつも通りやるしかない。
奇を衒うわけじゃなくて、相手よりミスの少ないプレーをするしかない。
それが何よりも難しいことだが、小手先の戦術が通用しない以上、その他に道などない。
真琴は台に対して正面に向き、バックハンドでサービスを構えた。
体の正面でボールを切り付け、葵のバックハンド側へとサービスを送る。
葵はツッツキでバック側に返してきた。
真琴はバックハンドドライブを狙ったが、甘い攻撃になったらば、葵は容赦なく叩いて来るだろう。
そんなビジョンが頭をよぎると、真琴はラケット面を上に向けた。
半端な攻撃で隙を見せるよりは、チャンスを待ったほうが分がいいだろう。
ツッツキで凌ごうとしたが、間に合わせたような面の向きになってしまい、ボールが少し高めに浮き上がった。
待ってましたと言わんばかりに、葵は体の正面で手首を巻き込んでテークバックをとる。
それを上へと弾き出すように振り抜いて、ループドライブを仕掛けてきた。
真琴は台から少し離れて、カットで凌ぐ。
何度か打ち合っても勝てなかったから、もうカットで凌ぐしかない。
これも、フットワークに自信の無い真琴にとっては、怖い選択だった。
カットで凌ぐために後ろに下がったところに、ストップで前に動かしてくるだろうことが、容易に想像出来たからだ。
フットワーク練習に、真面目に取り組まないけなさそうやなぁと、真琴はどこか呑気に考えていた。
案の定、葵はストップで前に動かしてきた。
真琴は慌てて前進しながら、やぶれかぶれに払って攻撃を試みる。
払いは葵のバック側を正確に撃ち抜いた。
しかし、葵の反応は早かった。丁寧に面を合わせて、ブロックを的確に決める。
体側に食い込むような厳しいコース。
真琴は体をどかしながらなんとかフォアハンドを振るが、ラケットは空を切り、ボールは後ろへと飛んでいく。
敵わない。
相手にするには、基礎の力が全然足りない。
練習の時から分かっていたつもりだったけど、この三セット中、ここまで何も通じないのは想定外だった。
5-11。
結局爪痕を残すことの出来ないまま、この試合は葵が制することとなった。
真琴「知ってたつもりやったけど、やっぱバケモンやったわぁ」
葵「誰がバケモンだ!」




