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ドライバーズ・ハイ  作者: げっと
1章 部内リーグ戦
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1-0 部内リーグ戦

「早速だけど、リーグ戦をやりたいと思います」




 全員を集めてのミーティングで、葵はこんなことを言い出した。




 とうとう来たか。烈火の顔が、不意に引き締まる。




「ちょお早ない?赤坂さんらぁもまだ入ってきたばっかやん」




「私ももうちょい練習してからでもいい気がしてるんだけど、春の総体が近いんだよね。だから、団体戦のメンバーを早めに考えておきたくて」




 春季総合体育大会…略して春の総体と呼ばれる大会は、いわゆるインターハイに繋がる予選大会だ。




 就職や進学を控えた三年生にとっては、恐らく最後の大会になる大切な大会だ。




 今のメンバーに三年生はいないが、それでも大切な、一つの区切りとなる大会であるに違いはない。




「とはいえ、リーグ戦も割と時間かかるし、まだみんな慣れないところあると思うんだ。だからそうだな…来週の土曜日にしよう」




 烈火達は一同揃って頷いた。優奈はびっくりしながらも、「まぁ、みんながええならええか……」と呟きながら、結局反対し続けることはなかった。




 実のところ、烈火も七海も真琴も、リーグ戦に反対する理由はなかった。




 むしろ、自分達がどのくらいの実力なのか、推し量る為の基準は欲しかった。




 ここ数日の練習から見立てた限りだと、葵除く三人に、敵わない訳ではないと、三人ともが思っていた。




 しかし、勝てるかどうかは別の話だ。だからこそ、勝っておきたい。勝って、自分の力が通用することを、証明しておきたいのだ。




 帰り道、駅舎の中。烈火、真琴、七海の三人は電車を待ちながら、いつもの様にお喋りをしてい時のこと。




 烈火はリーグ戦について、不意に気になった事があって、真琴に尋ねた。




「そういや団体戦ってさ、六人で出るもんちゃったっけ?」




「せやなぁ」




「……一人足りんくない?」




「気付かれたないとこに気付かれてもたぁ」




 真琴はやわらかに笑みを浮かべながら、説明を始めた。




 卓球の団体戦は、シングルス四戦、ダブルス一戦にて行われる。




 中学生の試合では、ここに被りなく一人ずつ参加するため、六人で出場することになる。




 これが高校生になると、ダブルスの二人が、シングルスを兼ねて出場出来るようになるのだ。




 そのため、最低でも四人いれば、団体戦に参加出来るわけである。




 今の部員は全員で五人なので、その通りにオーダーを組むなら、一人は補欠になるということだ。




 ここで葵の、部長の一言を思い出す。団体戦のメンバーを決めておきたいと。そのためにリーグ戦をやるのだと。




 補欠になりうるのは、一人だけだ。




「事実上のドベ決定戦……」




 七海が呟く。皆一様に息を飲む。空気が一気に重たくなった。烈火の表情も、不意に引き締まる。三人の間に、しばらくの沈黙が訪れる。




 けれど、真琴は笑みを崩さない。くすくすと笑いながら、




「ま、そんでも私、れっちゃんとななちゃんにゃあ負けやんけどなぁ」




 いつもの間延びのした、何ら変わらない口調で言った。




「ほぉ……」




「言ったな……?」




 二人がきろりと真琴を睨む。烈火と七海は、一瞬だけ結託した気になった。次の瞬間には、




「まこまこにもれっかにも負けやんし」


「まこちゃんにも七海にも負けへんからな」




 なんて同時に言うものなので、今度は七海と烈火がおでこを突きあわせて睨み合う事になった。




 ばちばちと火花を散らしあう内に電車はやって来て、二人は真琴に引っ張られるように電車に乗せられる。




 電車に乗ってからも、七海も烈火も一歩も譲り合うことはなく、おでこを突き合わせたまま威嚇しあう。そんな二人を、真琴は面白そうに眺めていた。




 次の日の練習は、七海も烈火も気合が入っていた。




 二人はランニングでも、競うように前に出るし、基礎練習のラリーでも、妙にピッチを上げたがるし。




 特に中陣まで下がってのドライブラリーの練習なんかは、お互いに全力で腕を振り回して、鬼気迫る勢いでドライブを返しあっていた。




 その勢いたるや、その様子を見た優奈が、目を白黒とさせるほどだ。




「二人とも、どしたんや……?」




「昨日からそんな調子なんですわぁ。少なくともれっちゃんのほうは、明日にはバテる思うんで、あんま気にしやんでください〜」




 優奈は首を傾げた。そうじゃない気がするけれど、付き合いの長い真琴が言うのなら多分大丈夫なんだろう。そうじゃない気がするけれど。




 次の日の練習は、真琴の言う通りになった。もらい火のようにお互いに競い合っていた烈火も七海も、いつもの通り……よりも少し元気のなさそうな感じがした。




 真琴も優奈も、そんな二人を阿呆やなぁ、と笑っていた。真琴は微笑ましげに、優奈は苦虫を噛み潰しながら。




「ま、阿呆なくらいがいいんじゃない?張り合いないよりかは全然よかろ」




 隣に並んだ葵が、そんなことを言っていた。すると刀を返すように、




「それってウチに対する当てつけか?」




 なんて優奈が問うのを、葵は一分にも躊躇わずに答える。




「まさか。ストップもブロックも上手いし、頼りにしてるよ」




 どうだか、と言って優奈はそっぽを向いてしまった。そんな二人の様子を、真琴は隣から眺めていた。




「優奈先輩って、めんどくさい人ですねぇ」




「それを本人に()()()()()言ってみせる奴がおるか」




「はい、ここにぃ」




 小さく手を挙げながら笑う真琴に、優奈は頭を抱えた。




 この五人の中から、四人を選抜する。そのためにリーグ戦を行う。




 団体で勝つために、この五人の中から、より強い四人を選ぶ必要がある。一人だけが、どうしてもお留守番になってしまう。




 その事が、葵は少し心苦しかった。けれど、やらねばならない。それが、勝負の世界というものだ。




 やがて来た、土曜日の練習。基礎練習もそこそこに、葵はリーグ戦表を取り出した。




 普段は使わない、三ツ星(スリースター)の書かれたピン球を台に置く。あみだくじで対戦相手を決めたあと、各々に台についた。




 かくして、部内リーグ戦が幕を開けた。



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