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【揺花草子。】(日刊版:2025年)  作者: 篠木雪平
2025年03月
70/337

【揺花草子。】[#4792] 光がさす。

Bさん「阿部さん。今日は3月11日。」

Aさん「んん。そうだね。」

Cさん「14回目になるわね。」

Aさん「あれからもうそんなになるんですね。」

Bさん「ここ数年毎回言っているかと思うんだけど、

    さすがに10数年も過ぎると当時の記憶、と言うか世の関心は

    だいぶ薄れてきていて、あの日の出来事を振り返る機会も

    随分減って来ているんじゃないかなと思う。」

Aさん「そう・・・かも知れない。」

Cさん「当事者である私たちは全然そんな事はないし、

    たぶん3月11日にはこの先も一生あの日々を思い出すでしょうし、

    少なくとも私たち自身から記憶が薄らいで消えてしまうとは

    とても思えないけれども、

    当事者でない多くの皆さんにとっては過去の出来事に埋没していくのは

    無理からぬところだと思うわ。」

Aさん「ええ・・・。」

Bさん「何しろこの国は災害が多い。

    去年も年明け直後に大きな地震に見舞われた地域があったし、

    この冬も全国各地で雪害が相次いでいる。

    災害ってわけではないけど数年前の感染症の流行は

    今なお社会のあちこちや人々の暮らしぶりに暗い影を落としている。

    一生のうち1度でも遭遇すれば

    生涯忘れないであろう記憶になるレベルの災害を

    人によっては2度3度と経験していると言う事だってあると思うんだ。」

Aさん「んん・・・確かに。」

Cさん「これも前から言っている事だと思うけど、

    災害の当事者でなかった人が言ってみれば『他人事』である出来事を

    一生ずっと記憶し続けるのは土台無理だと思うし、

    当事者にずっと寄り添い続けてくれとお願いするのも

    ちょっと厚かましいんじゃないかと思うのよね。

    多かれ少なかれこの国で過ごしている人は

    その生涯で何らかの災害に見舞われているでしょうし、

    震災の当事者ではなくとも台風や水害、雪害、大規模火災の

    当事者であるかも知れない。

    みんな一生忘れないような何かしらの傷をどこかで負っていて、

    だから自分たちだけが被害者だと言うわけではないと言う事は

    覚えておかなければいけないわ。」

Aさん「それはなかなか厳しい意見ですね。」

Bさん「もちろん今なお生活が立ち行かないだとか、

    酷く傷つき大切なものをたくさん失ったとか、

    そう言う人たちには然るべき支援は絶対に必要だよ。

    そしてそう言う人たちはまだまだたくさんいるし、

    その後もいろんな災害が繰り返し発生している事を鑑みると

    支援の対象となる人々はむしろどんどん増えているようにも思うけど。」

Aさん「うーん・・・確かに。」

Cさん「それでもみんなこの国でしっかり生きていかなきゃいけない。

    みんなたくましく、穏やかに、楽しく生きようとしている。

    あの日体験した暗闇が明ける事すら想像できなかった日々でも

    希望を胸に抱いて夜明けを迎えたように、

    明日はきっと良くなるはずだと思うだけで

    この難局を乗り越える勇気が湧くんじゃないかしら。」

Aさん「そうかも知れません。」

Bさん「災害が多いのはぜんぜん嬉しい事じゃないけれども、

    逆説的に言えば、災害の経験が多く積み重ねられた結果

    災害対策が洗練されて来ていると言うのはあると思う。

    もし仮にもう一度あの頃と同じ災害に見舞われたとしても、

    今度はもっとうまくやれると言う場面が色々あると思うんだ。」

Aさん「それはそうだと思う。

    災害の種類は違っても支援が必要な人々へ対するフォローは

    共通する部分もあるし、

    そう言うのはこの10数年でだいぶ改善されていると思うよ。」

Cさん「日本はとりわけ自然災害が多い国だと思うけど、

    かと言ってほかの国で災害が起きないわけじゃないわ。

    日本が積み上げたノウハウが他の国の災害援助などで

    役立てられている場面も良く見るし、

    困っている人をより効率よく適切にフォローする事ができれば

    とってもいい事だと思うのよね。」

Aさん「そうだと思います。」

Bさん「何にせよ、辛く厳しい中にも希望はきっとあるはずだと、

    その事はぼくらはちゃんと忘れないようにしたいな。」

Aさん「うん、そうだね。」


 明日はきっと今日よりいい一日。

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