表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【30秒で読める怪談】祖母の怪死






東京に住む家族の「あるある」ですが、私の母は東京生まれではなく、地方出身です。


大学へ進学するために東京へ出て、そのまま就職・結婚・出産をし、現在にいたります。


年に1度、お盆か正月に田舎の実家へ帰るのも、よくある話ですよね。


もちろんそれぞれの家庭に事情があり、仕方がないのですが、母は田舎に残してきた両親のことをいつも心配していました。


幸いなことに、母の兄にあたる伯父が実家近くに住んでいましたから、祖父が亡くなったあと、祖母だけになってしまったときも、ある程度は安心していたようです。


幼い頃の私はそんな事情などつゆ知らず、年に一度の帰省時に、祖母の家周辺ーー自然豊かな森の中ーーで、都会では味わえない川泳ぎや「探検ごっこ」をして遊んでいました。


そうして私が8才の頃、祖母が亡くなりました。


突然だったので、とるものもとりあえず、父の運転する車で祖母の家へ向かいました。


祖母の家は、本当に山奥。


森の中の、まがりくねった道路を通ってたどり着くような場所で、コンビニはもちろん、隣人の家へ行くのにも数キロ歩かねばならないほどです。


母が車中でしてくれた話によると、祖母が亡くなっているのを最初に発見したのは、伯父でした。


お葬式の喪主でもある伯父は、山を下りて10キロほど先に家族と住んでいるのですが、なにか胸騒ぎがして、翌朝一番に実家へ帰ると、祖母がちゃぶ台につっぷして息絶えていたそう。


状況が状況だけに一応、通報したみたいです。


しかし警察からも「死後それほど時間はたっておらず、おそらく伯父が胸騒ぎを覚えた時刻に亡くなったのだろう」と言われた、との話でした。


「おばあちゃんももう年だからねえ。いつかこういう日が来るとは思ってたけど。伯父さんは『苦しまないで死んだみたいだ』って言ってたから、その点は良かったんじゃないかな」


車中、母はずっとしんみりしていました。


祖母の家へ着いたときには、すっかり夜。


出迎えてくれたのは、伯父の奥さんです。


私を見るのは久しぶりだったようで、「あらー、大きくなって」みたいなことを言われましたが、すぐに祖母の遺体の方へ案内してくれました。


途中にある和室から伯父が顔を出しました。


「おお、よく来た」


「突然でびっくりしましたよ。この間、会ったときはお元気だった気がするんですが」


「92才だからな。まあ、長生きした方だよ」


父と伯父でそんな会話が交わされている間に、母と私は仏間へ入りました。


祖母の遺体は、新品の布団の上に安置されていました。


前回、会ったのは9ヶ月ほど前。


最後の会話は、「またいらっしゃい。今度はお正月にいらっしゃい」だった気がします。


ついこの間まで、歩いたりしゃべったり食べたり飲んだりしていた存在。


食事を作ったりお風呂に入ったり掃除したりしていた存在。


それが今、息をせず、微動だにせず、ただ静かに置かれている。


「お顔を見てやって」


伯母にうながされて、私は祖母の上にかがみこみ、顔にかかった面布をそっと持ちあげました。


息をのみました。


「ヒャアァァァァーーーーーーーーーーーーー!!!!」


母の絶叫が聞こえました。


どんな死に方をすれば、こんな恐ろしい顔になるのでしょう。


口はガバッと開いて、眼球はどこか上を凝視しています。


白髪は逆立ち、ひたいの皺はナイフでえぐられたように深く刻みこまれています。


まるで地獄へ引きずりこまれているかのような、苦悶に満ちた表情。


伯母が言いました。


「葬儀会社の人が目を閉じさせようとしたんだけど、どうしてもダメで。明日来る人がペンチを持ってきて、なんとかするらしいんだけど……」


母は顔をおおって泣き出しました。


翌日に来た葬儀会社の人も、祖母の顔をスムーズに戻すことはできなかったようで、最終的にはアゴの骨を砕いて口を閉ざさせたようです。


目は開いたままで、ガーゼをのせて保護するしかありませんでした。


なぜ祖母はこんな恐ろしい顔で亡くなったのか?


警察が調べたあとですから、不審な点はなかったのでしょう。


真相を知るのは、祖母だけ。


いずれにせよ、せめて犯罪行為はなかったことを祈るばかりです。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ