駅地下
男は町往く女に声をかけてやましいことをしようと企んでいた。駅に程近い繁華街で終電を逃した女ばかりを狙っていた。
しかし結果はさんざんなものだった。
それでも男は日付が変わっても諦めずに声をかけ続けた。
人通りがなくなり、ついに帰ろうと家に向かっていた男は前から来る女のから声をかけられた。
「もしかして終電逃しちゃいました?」
女の頬は赤らんでいて、呂律も少し怪しかった。
どうやらどこかで飲んできたらしかった。
「ええ、その通りです」
適当に話を合わせて、うまいことやろうと思った男は続けて言った。
「家は遠いのにタクシーは通らないし。女性ひとりじゃ夜道は危険ですからね。どこかで朝まで休憩しませんか?」
「それなら私の家に来ますか?」
女が家はすぐそこだというので、男は付いてくことにした。
「ずいぶんと駅近かですね」
「ええ、駅地下なんです」
男は路地の影に飲み込まれてしまった。
陽の光の一欠片すら届かない地底で、電車が通る振動を感じながら男は眠ることすらできずに、いつか地上を出ることを願うのだった。