第3話 俺の家族
「話はよく分かった。ブライス、お前の対応は間違っていない。よくやった。それに対し‥‥カルマン!! また女漁りか? 仕事にすら間に合わなかったあげく、この始末どうするつもりだ!」
「も、申し訳ありません!!」
村民達と大焼肉パーティーを楽しんだ俺は、後片付けを彼らに任せると屋敷に戻った。するとルバートに食堂へ有無を言わせず連れて来られてしまう。家族全員揃ってたから、たぶん今回の件だと思ったが、案の定だったな。
「カルマン兄貴も昼間からお盛んな事で。その有り余る性欲を別方面に活かして欲しいもんだな」
皮肉たっぷりにカルマン兄上を笑うのは、ガタイが良すぎるロガ兄上。力自慢なだけあって筋肉の盛り上がりが凄い。魔物討伐や開墾作業で大活躍しているだけの事はあるな。鑑定スキルで見ても武勇と統率が高いし。ただ、政治や知力は低すぎるが。
「やかましいぞ、ロガ! 魔物討伐をすぐに終わらせたからって、調子に乗るんじゃない」
「やかましいのはお前だ、カルマン!! 7歳のブライスにすら諭されて恥ずかしくないのか!? このままだと廃嫡するしかなくなるぞ」
「ち、父上。廃嫡だけは勘弁して下さい! これからは心を入れ替えて働きますので、それだけは‥‥」
廃嫡の言葉に顔を青くするカルマン兄上。長男という立場しか拠り所がない人だ。それが失われたら取り巻き達もいなくなるだろうし、執着するのも分かる。だったら性根を直せとは言いたくなるが。
「あなた。カルマンも反省してるようだし、許してあげて。カルマンに早く嫁か妾を迎え入れなきゃ。実家にも催促してるのだけど、なかなか色良い返事が来ないのよね」
「奥様。領民達にも声をかけているのですが、なかなか見つかりません。もはや奥様を頼りにするしかございませぬ」
出たな、元凶。カルマン兄上とロガ兄上の母にして、子供を甘やかしまくるリュナ様だ。ロガ兄上は苦手なのか距離を置いている。
あと、ルバート。明らかに皮肉だよな、それ? まあ、味方のはずの本村落女性達からも嫌われている位だ。カルマン兄上の春は遠いだろう。
「駄目だ。本村落の大人達からもカルマンに対しての扱いで不満が出ている。かくなる上はカルマンを修行に出す他はない。リュナよ、君の父上は了承してくれた。カルマンを王国騎士団に入隊させる!」
王国騎士団。誇り高き精神を持ち、厳格な規律と過酷な訓練で名高い。そこにカルマン兄上が入るって、大丈夫なのか? 強きを助け弱きを挫くを地で行く男じゃ、途中で逃げ出す可能性大なんだが。政治はともかく武勇がかなり低いんだぞ?
「父上、本気ですか!? 私はこのマフラディー男爵家の嫡男なのですよ」
「だからこそだ。曲がった性根を叩き直すいい機会だからな。義父上も会うのが楽しみだと言っていたぞ」
どうした父上? やけに今日はまともじゃないか。今まではカルマン兄上をリュナ様と一緒になって甘やかしてたのに。とか思ってたら、リュナ様が声を荒げた。
「あなた! 嫡男たるカルマンを外に出すなんてありえませんわ。何よりもそう仕向けた存在を許せません。知ってるんですよ、私達以外に女性を囲ってるのは!!」
「父上、それは誠ですか!?」
「マジかよ、親父!」
父上が女を囲ったのか。しかし、よくまあ母上達がいるのにそんな事が出来たな。リュナ様と俺の母であるルシアはあのアルデーニ子爵家の娘だぞ。この辺りじゃ有力な貴族で王国騎士団の師団長を務めている家柄だ。実の娘達をないがしろにしたら子爵の不評を買うだろうに。
「‥‥相手はアルデーニ子爵家の者で名はマリアンだ。リュナとルシアの従姉妹にあたる。既に我が子を身籠っていてな。子爵からも面倒を見てくれと頼まれた。いずれはこの屋敷に住まわせる。すまぬがリュナ、君の部屋を譲って欲しい」
おいおい、なんか修羅場めいた話になって来たな。アルデーニ子爵は何を考えている? 自分の娘を可愛くないのか、あるいは見限ったか。それともマリアンという女性に何かあるのかな。しかもリュナ様の部屋を譲れとなると、正妻の地位すら奪われると言う事だ。考えを巡らしていると、言われた本人が荒れ始めた。
「あなたも父上も何を考えているのです!! 私達は男子を3人産み、貴族の女としても責任を果たしております。それなのに何故このような仕打ちを!」
「ふん、簡単な事よ。もはや何の役にも立たんからだ。‥‥お前より7年ほど遅れて嫁いできたルシアはともかくとしてな。アルマン! さっさと旅立つ準備をしろ。明日にでも義父上の下に向かってもらう」
「あなた! まだ話は終わってませんわ!!」
「父上、お考え直し下さい!」
そう言って父上は食堂を後にした。後を追いかけ、必死に追いすがるリュナ様とアルマン兄上。残ったのはロガ兄上と俺に母上なんだたが、何が原因だろう?
リュナ様は浮気をしていないし、兄上達は父上の子供で間違いない。俺が血が繋がっていない子供なのも多分ばれてないはず‥‥。となると、アルデーニ子爵家で何かあったか?
「ロガ兄上。今回の件は何か聞かされていました?」
「いや、俺も正直何が何だか分からんぞ。ルシア様は何か聞いてます?」
「そ、それはその‥‥」
どうやらロガ兄上もこの話を知らされていなかったらしい。母上は何か知ってるようだな。とか思ってたら、ルバートが血相を変えて戻ってきた。
「ロガ様! どうか旦那様方をお止め下さい。我々では手が出せませぬ」
「はあ、面倒臭えな。分かった、やってやるよ。ルシア様とブライスはここにいな」
そう言ったロガ兄上とルバートは食堂を出ていく。と、母上が俺を優しく抱きとめた。
「ブライス。今日の事はよくやりました。領民の事を大切にするあなたを私は誇りに思います。それとごめんなさいね。こんな事に巻き込んで。リュナお姉様も私も妾の子。しかも母上の寵愛は失われ、今は修道院に入っています。だからこそ、父上はマリアンをここに入れたのでしょう」
「お祖母様はどうしたのです? まさか、アルデーニ子爵の不興を買ったとか?」
「‥‥恥ずかしい事ですが、あなたには言わねばなりませんね。遊興や贅沢品等の支出が尋常でなく、父上が家から追い出したようです。しかも不正にも手を染めていたとか。昔から姉上と同じく金遣いの荒い方でしたから」
「ちなみにいくらくらい?」
「金貨500枚とか。正妻であるレイナ様による長年の調査で明らかになったみたいです。私達に対し、実家は何の援助もしなくなるでしょうね。故に旦那様はお怒りなのです」
‥‥お祖母様相当やらかしてるわ。これは身の振り方を早く決めないといけなくなったな。母上の事もあるし、何とかしないと。父上や兄上達は自分で上手くやってくれ。さすがに俺も助ける余裕ないから。