知らないオジサンがひまわりの花束で告白してくる
「僕と結婚を前提にお付き合いしてほしい」
そう言って手渡されたのはひまわりの花束。
突然のことで面食らう。
「えっと……なんでひまわり?」
思わず尋ねてしまった。
そもそも告白してきた男性とは面識がなかったし、どこの誰かも分からない。
深夜のコンビニで夜勤をしている時にいきなり告白されて、時と場所をわきまえろとか、お前誰だよとか、色々と突っ込みたいところが沢山あったのだが、真っ先にそこを指摘してしまった。
冴えない中年の男性だった。
私よりも一回り上の世代。
お腹は出てるし、自信なさそうだし、伏目がちで目を合わせようとしないし。
そんな人と付き合えるはずないし、普通に告白されたってNG出すに決まってる。
でも……なんで……ひまわりなのか。
ひまわり……。
「君に……似合うと思って」
照れくさそうに笑う男性は、やっぱり私の目を見ようとしない。
「はぁ……そうですか」
「それで、返事は?」
「ダメに決まってます」
「少しでも考えてもらえませんか?」
「無理です」
私の答えを聞いて、男性はため息をついた。
「分かりました、すみませんでした」
「…………」
「…………」
いや、帰れよ。
しばらく無言のままレジの前に突っ立っていた男性だが、諦めて帰っていった。
それから早朝まで業務をこなし、早番のパートさんに引き継いで退勤。
帰ろうとすると、駐車場の隅にそっと置かれたひまわりの花束が置いてあった。
持って帰らなかったんかい。
置いてきぼりにされたひまわりを見ていると、なんだかとても悲しい気持ちになる。
せっかく花を咲かせたのに、置き去りにされたひまわり。
とても見捨てておけなかった。
気は引けたけど、ひまわりの花束を持って帰ることにした。
花瓶に生けて新鮮な水をそそぐ。
少しだけ元気になったかな。
ぴんぽーん。
チャイムが鳴る。
こんな朝早くに誰だろう?
「はーい!」
「こんにちは!」
そこには小さな女の子がいた。
「え? どうしたの?」
「これ」
「え?」
「うけとって」
よく分からないけど、差し出された小さな封筒を受け取る。
女の子はさっさとどこかへ行ってしまった。
なんなんだろ……。
封筒を開けると、中にはひまわりの種。
そしてよれよれの文字で「ありがとう」と書かれた手紙。
もしかして……今のはひまわりの精?
そんなはずないかと思いながら、机の上のひまわりを見る。
黄色く輝く大輪の花が、少しだけ開けた窓から吹き込む風に揺られていた。