「ボトルシップ」深淵から覗かれたい!スピンオフ
「姉さん、何やってるの?って言うか、やらかしてるの?」
「え…。」
一瞬びくりとして、琴葉の手元が止まる。
「あの、いつも任せ切りだし、たまには掃除でもと思って…。」
「あー、うん。見たら分かるけどさ。」
嘘だ。この手元は掃除以外の何かとしか思えない。琴葉の右手は思いっきりピンセットを握りしめていて、その先端の小さな木切れに左手で接着剤を着けようと、プルプルしていた。
「ご、ごめんね。こんなつもりだった訳じゃ…。とにかく、ごめんなさい!」
三歳年上の姉、琴葉が一生懸命謝ってくる。可愛い。本当に申し訳なさそうで、逆に申し訳ないのだが、暇潰しに作ったボトルシップに俺はそれほど愛着を持っていなかった。
ボトルシップとは、琴葉の手元で今まさにバラバラになっている、それである。瓶の中に船が入っている筈が、見るも無惨に半壊して、幽霊船の様になっている。おそらく、落として崩れた箇所を直そうとすればする程、別の部分が壊れていったのだろう。
これは俺、奏多がふと思い付いた暇潰しで、以前に街で見掛けた物を参考に、そこらの枝や何かで適当に作ったものだ。手先が器用な俺にとっては、それ程難しい作業でもない只の暇潰しでしかなかったが、周りで余りにも褒めるので、何となくその拍手喝采に応えるべく、商品棚の適当な場所に飾っていただけだった。正直言って、この山奥暮らし。暇な時は本当に心底、暇である。
勿論日がな一日琴葉を眺めていられるなら、暇など感じようもない。が、実際はそうもいかない。琴葉には琴葉のやりたい事や、やるべき事がある。それで自室にこもっていたり、出掛けていたりもする。そして何より、弟が姉をずっと眺めていたら、戸惑わせてしまう事請け合いだ。特に琴葉は俺達が血縁ではないと忘れているのだから、余計な心配を掛けかねない。
「良いよ。続きは僕が修理しておくね。」
「え、でも…。」
「姉さん、直す自信ある?」
「お願いします。」
賢明な判断だった。
「あの、」
「もう詫びは良いよ。」
「あ、ごめんなさい。お詫びじゃなくて。」
お詫びじゃないとお詫びする琴葉、可愛い。
「どうしたの?」
「コルクックさんから頼まれ事があるの。そろそろ行かなくちゃいけなくて。」
「分かった。片付けておくから、行ってきて。」
「あ、違う。片付けが済んだら行くって言うつもりで…。」
「良いよ。適当にひっくり返して出してきたから、何処に何があったのか覚えてないでしょ。」
琴葉が振り返る。
「……あ。」
接着剤か何か探したのだろう、琴葉の背中越しに、戸棚や食器棚がしっちゃかめっちゃかになっているのが見える。
「図星だね。行ってらっしゃい。」
こんな欠点を晒しておいて、琴葉の商才は馬鹿に出来ない。こんなに間の抜けた出発をしておいて、一度に十万ギルも稼いで来たりするのだ。一月に二十万ギルもあれば安泰と言われるエクランシア王国で、これは抜きん出ている。まあ、場所柄、大口の仕事自体が少ない上に、現物払いもあるので、直ちに貴族の様な暮らしとはいかないが。何にしてもギャップが本当に可愛い。いざ仕事となった時の真剣な眼差しも本当に綺麗だ。
「いってきます。夕飯前には戻るわね。」
「いってらっしゃい。気を付けて。」
玄関口まで琴葉を見送る。
さて、散らかった棚を片付けたら、琴葉が気に病む事のない様にボトルシップの修理に取り掛かろう。どうせなら、前とは少しデザインを変えてみるのも面白いかも知れない。琴葉はきっと喜んでくれるだろう。
そして夕飯には琴葉の好きなパンを焼こう。琴葉の好きな香草で焼いた肉に、琴葉の好きなサラダも添えよう。食後には果物と香茶と共に一日を振り返る話をしよう。
俺は姉を愛してる。