4 応えたい
私の離れそうな気持ちを知ってからのあなたは、また甘い言葉を巧みに使いながら、私の気持ちを縛り付けてゆく。
あなたはズルい。
そう。
きっかけはあなたから。
それなのに、いつの間にか私のこころを占領しようとしている。
あなたの希望に添いたい。
こころに気持ちに応えたい。
気づけばそう思っていた。
だけどその甘い日常は長続きしなかった。
それは些細なこと。
今思えば、本当にくだらないこと。
きっかけはあなたから。
そう。
あなたはズルい。
お互いの意志が上手く伝わらなくて、どんどん誤解を生んでゆく。
キミは、
『あなたの言葉にこころに応えたい』
そう言ってくれていた。
私も同じ気持ちだった。
それは今も変わらない。
キミはどうなの?
もう、はぐらかすのはよして。
時間のいたずらか、それとも魔法がどこかでかけ違われたのか、次第に気持ちが、すり減った歯車が空回りするようになる。
言葉足らずなキミが私をイラつかせ、私の態度があなたをイラつかせる。
『売り言葉に買い言葉』
やがてはくだらない言い合いに発展していく。
本心からじゃない言葉たちが勝手に踊り出してゆく。
お互いに引っ込みがつかないところまで噛みついた。
正直キミの言葉にはがっかりした。
そこまで辛辣なセリフを吐くひとだとは思っていなかったから。
一気に気持ちが冷めてゆく。
だけど、それでも永遠に繋がりを絶つことはできなかった。
キミはズルい。
私の心が離れそうになると、またいつもの人なつっこさで囁く。
私は甘い。
彼の言葉が私をがんじがらめにしてゆくのだということに、気づかぬフリをした。
でないと、辛すぎたから。
だけど以前のような関係とは少し変化していって、なんとなくではあるが、お互い気を使い合ってぎこちなくなっているように感じる。
そんな中、次第に連絡が途絶えるようになり、会話もあまりできない日々が続く。
お互い忙しいことを理由にしていたのかもしれない。
初めはほんの小さな水たまり。それが段々と大きくなってゆき、苦水はいつしかグラスから溢れかえる。
私はいつ溢れかえるか解らないグラスを眺めては、またひとつため息をつく。
そっと目をつぶり、空のグラスを想像しては、溢れかえらぬようにグラスに蓋をして、自分の心に蓋をする。
だから思い切って彼に聞いてみた。
一体どういうつもりなのかと。
でも、答えは予想通り。
会えない日々があまりに続くと、心は疲弊してゆく。
どんなに忙しくても、たった一言でも連絡ぐらいできるはず。
彼にとって私って、そんなひと言の時間もつくれない程度のものなのか。
彼の愛情に対する不安と、彼の周りにいるだろう見えない相手への嫉妬から感情が細々と刻まれてゆき、彼の何気ない言葉に心が粉々に砕かれてゆく。
もう疲れた。
正直イライラする。
次第に私の方から少し距離を置くことにしていった。
もうそろそろ。
そろそろ『じゃあね。さよなら』と別れの言葉を切り出そうかと。
すると彼は……。
お読み下さりありがとうございました。
次話「5 甘水」もよろしくお願いします!