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3 答えたい

 それからは本当にいろんな話で盛り上がった。

 お互いの趣味の話をしてみたり、たまには恋バナなんかも。


 その中で、彼女のことを大事に想っていることが語られ、それを私も微笑ましく見ていた。


 私には当時付き合っている人はいなかったので、これといって話すことはなかったが、彼の楽しそうに話す様子を見ているだけで、こちらも楽しい気分になっていた。



 だけど彼はあまりに社交的すぎて、私に投げられた言葉も、にわかに信じがたくなるときがある。

 『きっと誰にでも言っているのだろう』

 そう思えてきたのだ。



 そんなある日。

 彼から言われた。


『大好き』


 彼女がいるのに、また何を言っているのだろうとは思ったが、この頃には私の方も少なからず好意を抱いていたのかもしれない。だって、その言葉が以前とは違う意味で嬉しかったから。


『大切な人』


 どういう意味なのか計りかねた。

 親友として? それとも……。

 彼女とは最近うまくいっていないと語っていた彼。


 だから言われた言葉を何度も何度も頭の中で反復する。


 でもその時は、それだけで幸せな気分になった。


 その後それぞれ社会人になり、学生時代のようにサークルに行けば彼がいるという状況ではなくなる。お互い忙しさも相まって、たまに食事に行く程度の付き合いになってしまったのだ。

 でも、たまに話すのはとても楽しかった。



 それからしばらくして。

 彼に言われた。


『愛してる』


 その頃彼は彼女と別れたと聞いた。


『愛してる』


 嬉しかった。

 そう言って強く抱きしめてくれた。

 私はまだ『愛』が何なのかも解らなかったが、その言葉に酔いしれた。


『愛してる』


 あなたの声が言葉がこだまする。


『愛してる』


 だけど、その意味を聞きたかった。

 彼女と別れて寂しいから、そのすき間を埋めるために私に向けられた言葉なのか。

 それとも私を本当に愛おしいと思って発せられた言葉なのか。

 それとも経験豊富な彼の暇つぶし?

 それとも……。


 考え出せばキリがない。

 グレーな気持ちにとらわれて、彼からのどんな言葉セリフも不信な響きを滲ませる。


 だから私は、社交的な彼は誰にでも囁いているのかと疑った。

 学生時代とは違う世界に、すっかり馴染んでしまったのかと。

 社会に出て嘘が、口からのでまかせが上手くなったのかと、ついマイナス思考が押し寄せる。


 信じたかった。

 確信がほしかった。

 だから何度も何度も繰り返した。意味の無い質問を。


 たったひと言が聞きたくて。



 そしてそれが私にだけ向けられた言葉だと聞いて、信じてみようと思った。


『私も愛してる』


 あなたの言葉に気持ちに答えたいと応えたいと、心から思うようになっていく。

 日に日にあなたへの思いが想いが溢れ出す。



 きっかけはあなたから。

 あなたはズルい。


 私が恋の魔法にかけられていくのを、どんな気持ちで見ていたのかしら。

 毎日毎日あなたの声が聞きたかったし、もっと頻繁に会いたかった。


 そしていつしかグラスの甘水あまみずは、今にも溢れ出しそうに。

 そう気づいた時にはもう。

 もう引き返せないほどにあなたを想っていたなんて。



 きっとあなたは私があなたに夢中になっていくのを悟ったのでしょう。


『釣った魚にエサはやらない』


 そんなあなたの態度が、また私の胸を突き刺す。

 正直傷ついた。



お読み下さりありがとうございました。


次話「4 応えたい」もよろしくお願いします!

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