後悔先に立たず 【月夜譚No.142】
球技大会で怪我をするとは思わなかった。保健室の白い天井を見上げながら、彼は小さく息を吐いた。
ほんの少しの気の緩みだった。バスケットのゴールにシュートを決めて着地した際、足を捻ったのだ。そのままバランスが取れずに倒れ込んで、膝を擦りむき、軽く頭も打った。
一応養護教諭に診てもらって、問題はなさそうだということだったが、念の為に今日はもう試合に出ずにここで休むように言われた。放課後には病院に行くことも勧められた。
彼はバスケットボール部に所属していた。大会の出場種目を決める時もバスケットボールしか考えていなかったし、クラスメイトもそれが当然のように思っていただろう。
それがまさかのこの様だ。学校内の小さな大会、部活で出場する全国などと比べたらお遊びだ、とどこかで思っていたのかもしれない。
クラスメイトに、チームメイトに、一体どんな顔をして会えば良いのか。どんな目を向けられるのか。……考えるだけで気が滅入る。
こんなことなら、他の種目に出場しておけば良かった。彼の中の小さな後悔は、言葉にもならずに誰もいない保健室の空気に消えた。