06 私は死にたくありません
「次回から儀式を行う日程をフレイヤさんには事前にご連絡します。できれば、状況の確認をしたいので、その時は私のそばにいてほしいのですが」
「それはこの前のように儀式の場にいろということですか?」
「はい。おそらくその方が安全だと思います。不測の事態が起きても私が対応しますから」
儀式――私と『永遠の聖女』との距離は関係ないのだろうか。
近ければ近いほど、あっちの身体に引き寄せらたりはしないのか、そこのところがわからないから、とても不安だ。
だけど、キリル様が助けてくれるって言っているし、家で心配しているよりはいいのかな。
それに、英才と呼ばれているキリル様が私に気を配っている分、集中力が落ちて成功率は下がるだろう。
よし、決めた。
「わかりました。キリル様を信じてその日は教会に伺いますわ」
儀式中に突然意識がなくなると危ないから、私のためにソファーを用意してくれるらしい。
今までも倒れた時に、何かに頭や身体を殴打して怪我をすることがあったから、配慮してもらえるのは有り難い。
「術式も何がフレイヤさんに影響しているのか、教会に戻ったら見直してみます」
そうキリル様が約束してくれたけど、私とのつながりが果たしてわかるのだろうか。
向こうから『永遠の聖女』はあなたですね。と言われたら話が早いのに……。
そんなことは難しいと思うから、あまり期待はせずにいようと思う。
その後、私の様子もできるだけ見に来ると言って彼は帰っていった。
それにしても、教会は『永遠の聖女』に過度の期待をしすぎだと思う。
女神の末裔なんてとんでもないことだ。実際は何の力もない、ただの女の子なのだから。
しかも、百年以上も力をつぎ込んで取り組み続けているところに残念なお知らせだけど、あれは絶対に目覚めたりしない。
それは、万が一儀式が成功して、私があの身体に戻ったとしてもだ。
「だって、死んでいるんだもの」
だから、この身体から魂が完全に離れてしまえば、どうなるかわからない。
向こうで生き返ることができなくて、またこっちに戻ってこられるならいいけど、魂が抜けたせいで、この身体も死体になってしまったら、そのまま浮遊霊状態になって彷徨い続ける可能性だってないとは言えない。
たぶん、教会の偉い人たちは、腐敗もせず、ミイラ化もしないまま、みずみずしい姿を保っているから、あれを眠っているものと判断しているんだと思う。
だけどそれは、あのガラスの棺と呼ばれているポッドがそういう仕様だからだ。あの身体をガラスから出してしまえば、死んでいることは一目瞭然だと思うんだけど。
「でも、よくあんなきれいな状態で今までよく残っていたわよね。こうなったら、教会に忍び込んでガラスを割っちゃおうかしら」
警備がすごくて絶対にできるわけないけど、私にはそんなことしか思いつかなかった。
「万が一成功しても、大罪人として結局は処刑されそうよね」
私はそんなことを考えながら、ノエルの部屋のドアをノックした。
ドアを開けたノエルの姿は、好奇心を抑えきれない様子だ。
「お姉様。早く入って、お話を聞かせて」
両手で私の手を掴んで、ソファーセットの方に引っ張るノエル。
「そんなに慌てないで。それにたぶん期待されているような内容ではないわよ」
「そうなの? 『麗しの神官様』はいったいどんな用事できたの?」
ノエルは私の横に座って、話しを強請った。
「私の病気のことよ。キリル様が言うには、私が倒れるのは病気ではなくて『永遠の聖女』の目覚めの儀式が関係ありそうなんですって」
「この前の儀式?」
「ええ。術が私に干渉しているらしいの。それを調べたいみたい。魔術が使えるかとか、幽体離脱できるのかとか聞かれたわ」
「幽体離脱? なんだ、わたしはてっきりお姉様のことが気になって会いに来たのかと思ったわ」
それは間違ってはいない。確かに『気になった』とは言われた。だけど、それが色っぽい意味ではなかっただけだ。
「ノエルじゃあるまいし、そんなわけないわよ」
「お姉様っていつも謙虚よね。わたしは『麗しの神官様』とお似合いだと思ったのに」
あの人の隣に並んだりしたら、私なんて引き立て役にもならないと思う。でも、これからはそんなことは言ってられなかった。
私の未来はキリル様の手にかかっていると言っても過言ではないのだから。