05 危険な儀式
交際の申し込みをするために来ただなんて勘違いも甚だしい。有頂天になって変なことを口走らなくてよかった。
でも、『麗しの神官様』の言動だっていけないと思うんだけど。あの言い方では誰でもそう受け取って誤解してしまうでしょう?
でも、それより今は『永遠の聖女』のことが最優先だった。
『麗しの神官様』が見たという現象は、儀式のせいで私の魂が『永遠の聖女』へと導かれているからなのだろうか。そうだとしたら、このままではまずいことになる。
「そんな危険なことになっているのでしたら、儀式を中止してくださいませんか」
「それはできません。しかし、なぜ儀式に貴女の魂が反応したのか、それがとても不思議なので、その理由は知っておきたいと思っています。フレイヤさんには何か心当たりはありませんか」
大ありだ。
だけど、あれは私の前世の身体ですなんて、そんな荒唐無稽な話を誰が信じると思う?
例えば、誰かに『僕は歴史上の英雄の生まれ変わりです』なんて言われたら私は苦笑いをすると思う。
『永遠の聖女』は絶世の美女と言われているんだから、前世くらいはそうであってほしい、そう思っているんだって同情されるのがおちだ。
どう答えたら『麗しの神官様』が納得して、儀式をやめてもらえるんだろう。
「理由なんて聞かれても困ります。身体から魂が抜け出ているのが本当だったら、私はただ恐ろしいだけですわ。もしそれで身体に戻らなかったらどうなることか。そんなひどいことを『麗しの神官様』は続けるとおっしゃるんですか」
私は両腕で自分の肩を抱きしめ、訴えた。
「それは私一人の判断できるものではありませんから、今この場では何もお約束できません。それから、私のことはその二つ名ではなくキリルとお呼びください」
キリル様は『麗しの神官様』と呼ばれるのが嫌いなのか、ただでさえ冷たく見えるその目つきがさらに鋭くなる。
「では、キリル様」
「はい」
「魔術のことを何も知らない私が言うのもなんですが、そもそも、その儀式で使用している魔法陣か詠唱が間違っているのではありませんか。他にも私のように魂が抜けて倒れている人たちがいるかもしれませんよ」
「そうでしょうか。あれは。何十人という希代の魔術師たちに受け継がれ、百年以上もの研究の末、緻密に組み立てられたものです。実際、今まで貴女のように反応した者は皆無ですよ。私は現存している過去からの記録はすべて目を通しておりますが、一人も、貴女のような方は存在していません。それは間違いありませんよ」
「それは教会が知らなかっただけですわよね。私のことだって、昨日見学に行ってなければ気づかなかったはずです」
「――それを言われるとフレイヤさんのことはそうだと思いますが……」
記録があるとかないとか、そんなことは証拠になり得ない。私が突き付けた事実に反論できずキリル様は言葉につまる。
そしてまた悩み始めてしまった。
何かを考えながら彼が下を向いたと同時に銀髪が肩からさらりと落ちた。その姿はまるで美しい女神をモデルにした絵画のようだ。さすが麗しのっていわれるだけはある。
私は思わず見とれてしまったけど、今はそれどころではなかった。
とにかく『永遠の聖女』の儀式は危険だ。
「あの……キリル様?」
「はい」
「教会はなぜ『永遠の聖女』を目覚めさせようとしているんですか? 古代遺跡の中からみつかったというだけで、女性ひとりに教会の総力をつぎ込む理由が私にはわからないんですが。『永遠の聖女』と名付けたのも教会なわけですし、実際にどんな性格かもわかりませんよね」
「はい、それは『永遠の聖女』は女神の末裔だと教会内では言われていますし、事実、何百年も眠ったままなのは普通では考えられません。ですからただの人間ではないことはたしかでしょう。我々は神を信仰していますから、彼女にお導きいただきたいんですよ」
「それは、教会の理想を押し付けすぎではありませんか」
「そうでしょうか。フレイヤさんからしてみれば、儀式を非難したいという気持ちはわかります。ですが、あまり教会を否定するようなことはおっしゃらない方がいいと思いますよ。私の前だけなら、ここだけの話としますのでかまいませんが」
王族の次に権力があると言われている教会に敵対視されたら、メーライド家も侯爵とはいえ、まずいかもしれない。
「言葉が過ぎました。申し訳ありません」
私は謝罪のために頭を下げる。
「私に対してそんな必要はありません。こちらも強く言いすぎました。それはさておき、儀式とフレイヤさんの関係性について何もわからないとなると、どうしたらいいものか」
これって、私が黙っている限り、堂々巡りだと思う。馬鹿にされるとは思うけど、思い切って伝えてみようか。
「キリル様」
「はい」
「さきほど心当たりはないですかとおっしゃいましたが、私が『ある』と言ったら、それを疑わずに聞いてくださいますか」
「すみませんが話によります」
「それはそうですよね」
ほぼ初対面の人間が話すことを、すべて信じることなんてできるわけがない。しかも私は普通では信じられない内容を伝えようとしているんだから。
「すみません。思い出したことは大したことではありませんから、やっぱり心当たりはありません」
私がそう言うと、キリル様の眉間に一瞬しわがよったような気がする。だったら口にするなとでも思ったのだろうか。
「でも、私が倒れることの原因が儀式だというなら、それが見えるキリル様に力になっていただきたいのですが」
「それはかまいません。こちらこそ解明したくてお伺いしたのですから」
「本当ですか」
「はい。フレイヤさんが幽体離脱しないように、何かいい方法を一緒に考えましょう」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
とりあえず、教会とのつながりができた。
これで情報の入手はできそうなので、キリル様に見捨てられないよう、これからは言動に気をつけようと思う。