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04 勘違いが恥ずかしすぎる

 応接室に『麗しの神官様』と二人きりで残された私は、黙ったままソファーに座って彼が口を開くのを待っていた。


 対面してはいるけど、ほぼ初対面の方と目を合わせるのもどうかと思ったので、私は彼の胸元あたりに視線を向けている。

 しかし、一向に話し始める気配がない。


 どうしたのかと思って、視線を少し上げて『麗しの神官様』の顔を見たら、なぜか私は白金水晶色の瞳に睨まれていた。


 やはり、何か怒っているらしい。


 司教様用の洗練されたデザインで藍色をした神官服。その生地に、瞳と同じ白金色の長髪が映えていている。

 だけど、その美しさのせいで、この人は人間味が乏しく冷たい印象を醸し出していた。


 そんな人物から思いっきり睨みつけられたら怖すぎるではないか。


「あの……私が何かしてしまったのでしょうか」


 この状況に我慢ができず、私は恐る恐る尋ねてみた。


「いいえ、大変失礼いたしました。貴女に興味があったので、つい」


『麗しの神官様』は()()()()とか()()()()()とか、どうとったらいいのかわからないような言葉をさっきから言っている。


 それはまるで私に対して好意があるようにもとれるんだけど。


 ノエルならともかく、私がひとめ惚れされるわけがないと思いつつも、ノエルより私を好んでくれる奇特な人が、世界にひとりくらいは、いてほしいと願っていた。


 さっきノエルにはタイプではないと言ったけど、好きだと言われたら、気にならないわけがない。


「初対面でいきなりどうかとは思いますが、フレイヤさんのことを伺ってもよろしいでしょうか」

「はい。お答えできることでしたら」


 今まで面と向かってこんなことを言われたことがなかったから、それだけで胸がどきどきしてしまう。

 しかも相手が、ノエル曰く誰よりも素敵な『麗しの神官様』なのだから。


 ノエルには悪いけど、見劣りする私のことを好きになってくれる人が、他に現れるとは思えない。なるほど、父と母が喜んでいたのはそういうことだったのか。


「フレイヤさんは魔術を使うことはできますか」


 魔術? 『ご趣味は』とか、『好きなものは何ですか』とかではないのね?


「あいにく私は魔術を使うことができません。子どもの頃に適性検査を受けていますから、教会にもそう記録されていると思いますよ」


 この国はある程度の年齢になると、教会で魔術の適性検査を受ることができる。貴族の場合は箔づけのために検査することが多いけど、才能さえあれば平民でも教会で成り上がることが可能らしい。


「貴族家は隠していることもありますから、記録は当てになりません」

「そうだったとしても、私は術で何かを操ったりは本当にできませんわよ」

「そうですか。では幽体離脱のご経験は?」


 は!? 変な質問ばかりだけど、神官の恋愛感覚って普通とは違うのだろうか?

 それともこの人がちょっと変わっているの?


「幽体離脱の経験はありません。神秘的な出来事も、霊体験もすべて未経験です」

「自覚はないと……」


 私の返事を聞いた『麗しの神官様』は、顎に手を当てて悩み始めた。


 彼の質問の意図が不明すぎて、何を考えているのか私にはさっぱりわからない。彼のお眼鏡に叶うためには、魔術が使えて、その上幽体離脱が条件だとだとしたら、せっかく容姿を気に入ってもらえたとしても、早くも不合格だ。


 魔術はともかくとしても幽体離脱が交際相手になぜ必要?


 私が人の好みをとやかく言う権利はないんだけど、彼が醸し出している神聖な雰囲気と相反して、その趣向はなんだか残念な気がしてしまう。


 勝手にひとりで盛り上がって、その反動でがっかりしていると、『麗しの神官様』が顔を上げて私をしっかりと見た。


「少し調べさせていただきましが、フレイヤさんは昨日のようによく倒れられるそうですね。不躾なことを言いますが、それは本当に病気なのでしょうか」


 今度は私の病気のこと?


「原因はわかりませんし、不用意に倒れること以外は身体の不調もありません。ですから病名もついてはいませんが、私にとってはずっと抱えてきた問題なんです。病気ではないと突然言われても困りますわ」


 それで怪我をしたことだってあるのだから。


「すみません。私の聞き方が悪かったですね。では、フレイヤさんが倒れた時の日時は覚えていますか?」

「ええ、最近のことでしたら」


『麗しの神官様』は神官服のポケットから手帳を取り出し確認を始める。


「十六日の午前十時、三日の午後一時、先月の八日の午後一時、どうですか」


 私も自分が倒れた日を思い出してみる。


「日記を見ないと正確にはわかりませんけど、そのころでたぶん合っていると思います。でもどうしてわかったんですか?」


 屋敷の中での出来事を『麗しの神官様』が知るはずもないし、もしどうにかして調べたとしても、そんなことをする意味がわからない。


「やはり、そうでしたか。先ほど申し上げた日時は『永遠の聖女』を目覚めさせるための儀式を我々が始めた時刻です。それが一致しているとなれば、フレイヤさんが倒れる理由は病気などではなく、十中八九、教会の儀式のせいでしょう」


「え!? それは、どういうことなの!?」


 幼いころから突然倒れては、家族に心配をかけてきた、原因のわからなかった病気が、実は儀式のせいってだって言われても納得いかないんだけど。


「あの日――フレイヤさんが見学にいらっしゃった時ですが、私は見たのです」

「見たって何をですか?」

「フレイヤさんの肉体から魂が抜け出すところをですよ。だから、今日はそのことを確認に参りました」


 はあ!? 魂が抜けた!? 


 その理由はわかりたくないけど、たぶんあれだ。


『永遠の聖女』が私だからだと思う。


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