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23 リピィとフレイヤ

「大司教様方、これから『永遠の聖女』の真実をお見せします」


 キリル様はそう言ってから、リピィに手を向ける。

 そして、ポッドに横たわっているその身体に向けて炎の魔術をいきなり放った。


「な、何をする、貴様!?」

「そこの人たち、邪魔はしないでね」


 キリル様を止めようとした大司教様たちに向かって、ノエルが軽く指をはじく。

 見えない何かが大司教様たちの顔や頭に当たったらしく、数名が『うっ』と叫びながらその場所に手を当てた。


「力加減が狂っちゃうといけないから、じっとしていてくださいね」


 ノエルの脅しでみんなが後ずさる。そうしながやも、こちらをすごい形相で睨んでいた。


「さあ、とくとご覧ください」


 それほど、時間もかからずにキリル様は大司教様たちにそう告げた。

 そしてリピィの身体を彼らがよく見えるように、厳しい表情をしながらもとても優しい手つきで抱き起こす。


「なんじゃと!?」

「まさか、そんな……」


 果たして、そこにあったものは――。


「本当に人形であったというのか……」


 キリル様が大切そうに抱えているリピィの身体は炎によって人工皮膚が溶かされ、骨格にあたる金属部分があらわになっている。


 大司教様たちは、その場に崩れ落ちる者もいれば、茫然と立ち尽くすものもいた。

 中にはキリル様と同じ志を持っていた人もいたのか、頷いている人もいる。


 宇宙船の残骸の中で、私は自分自身が何者だったか、すべてを思い出した。

 リピィであったころの私は、人間に仕えるアンドロイドだったのだ。あの事故が起こった時、ご主人様たちをポッドで避難させたあと、最後に自分もポッドで脱出していた。


 人間ではなかった私は、プログラムで動いていただけで、たとえ、人間とほぼ変わらない言動ができていたとしても、魂があるはずもない。


 コミュニケーションがとれるだけの機械。その私が、なぜ、フレイヤとして生まれ変わっているのだろうか。原因については、まったく見当もつかなかった。


 ノエルから言われたように勘違いの可能性も考えて、記憶を探ってはみたけど、思い出したことはすべて、間違いなくアンドロイドだったということだけだ。


「『永遠の聖女』がこうなってしまった以上、国王陛下にはわしから報告させてもらう。あなた方も、教会の今後の方針を話し合う必要があるでしょうから、部外者は退出しますぞ。フレイヤとノエル、それから、キリル殿」

「いえ、私は部外者ではありませんし、司教として教会のために何ができるか考えたいと思っていますから、ここに残ります」

「大丈夫ですか?」


 教会に敵対してしまったキリル様がひどい仕打ちを受けないとも限らない。


「ええ、私もノエルさんほどではありませんが、実は攻撃魔法の心得がありますから」

「えあっ!?」


 大司教様たちがびくっと肩を揺らした。『英才』と呼ばれるキリル様だから、嘘ではないだろう。


「それに、私の意見に賛同してくださる方もいらっしゃいますから、心配はいりませんよ」


 それは、ポッドの蓋を開ける手伝いをしてくれた人たちがそうなのかもしれない。


「でしたら、いいのですが……」


「それより、リピィ様の身体をこんな風にしてしまってすみません。できるだけ傷つけずに眠りについていただきたかったのですが」

「そんなことは気にしないでください。リピィは、何百か何千年前にはもう、動きを止めていたのですから。こんなにきれいな状態で残っていたのが奇跡みたいなものですもの」

「そうですか。では、教会の方が落ち着いたら、必ずフレイヤさんに会いに行きますから、それまで待っていてくださると嬉しいです」


 キリル様が首からかけている黄水晶のペンダントを握りしめながら私に微笑んだ。


「それは……」


 私はそんなキリル様に返事ができないでいた。

 リピィがアンドロイドだと思い出してから、私は自分がキリル様やノエルとは違う生き物のような気がしていたからだ。


 リピィだった頃は、人間と同じような感情があったとは思えない。それはすべて、私を製作した技術者が埋め込んだプログラムによるものだった。


 フレイヤである私はいったい何者なのだろう。そして、この感情が作られたものでないとは誰が言えるだろうか。


「お姉様のことはわたしにまかせて」

「ええ、よろしくお願いします」


 名残惜しそうな視線を向けるキリル様に、私は目を合わすことができない。


 そのまま、父やノエルと一緒に衛兵たちに案内され、私はその場を後にした。


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