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22 ガラスの棺

 父とノエルに教えてもらったんだけど、昔はこの国も、魔術の力で世界をけん引して台頭していた時期もあったらしい。


 昔は火を熾すことや、井戸を掘ることが人の手では重労働だったし、病気は呪詛や神罰から来るものだと思われていたらだ。


 それが、他国で機械の技術力が目覚ましい発展を遂げてしまっため、それに押されて国力が弱まってしまった。

 それなのに、今だに魔術至上主義で国内の改革がうまくいっていないのには理由がある。


 もともと、魔術師を優遇するために教会という組織に力を持たせてしまったことがその一因だ。

 国の政策について話し合う場にも、教会の重鎮たちの席があるため、新しいことを始めようとする者がいても、技術力が発展することで既存の利権を失いたくない彼らが、何かにつけて反対を続けた。


 神の怒りを買ってもいいのかと言われれば、信心深い者が躊躇するのは仕方がない。それも、教会に敵対する者に対しては、災が神罰のように降りかかっていたから説得力を増していた。


 しかし、実はそれらが、教会主導のもと画策されていたことが露見しつつあるそうだ。


「先を見越している連中は教会から距離を置き始めているからな。現状を把握している能力者は教会には入らんよ」


「今じゃ、そこにある物質を動かすくらいは出来ても、岩を打ち砕いたりとか、わたしがやったみたいな目を見張るような攻撃力がある人はいないみたいなのよ。キリル様は『英才』なんて言われているから、本当のところはどのくらい能力があるのかわからないけどね」


「教会が『永遠の聖女』に固執する理由がわかったわ。どうしても権力を取り上げられたくなかったのね」

「たぶんそうだろうな」


 裏庭に取り残された私たち家族は、あの後、司教様のひとりが呼びに来て教会内の貴賓室へ案内されていた。

 喉を潤すための紅茶などで、もてなされてはいるけど、万が一のことを考えて三人ともそれには手をつけていない。


 私たちがこの場所に移ってから、二時間ほどたったころ部屋のドアがノックされた。


「キリル様!」


 姿を見て飛び出そうとした私の腕を、ノエルに掴まれ、動きを止められた。


「落ち着いて、お姉様。かわいそうだけど、今は感動の再会に時間を割いている暇はないの」


 ノエルがそう言ったのは、キリル様と一緒に、ドアの向こうから大司教様たちが姿を現したからだ。

 教会は神父服が地位によって変わる。大司教様の出で立ちは純白に金糸の刺繍があるから私のような素人でもわかりやすかった。


「結論から先に言うと、いまだに我々は『永遠の聖女』が死んでいるとは思っていない。あの方は神に愛されているから、あの姿を保っておられると確信しているからだ」


 大司教様たちのなかでも一番偉そうにふんぞり返っている人が、私たちにそう告げた。


「それ、間違っていますよ。みなさんが『永遠の聖女』と名付けたあの少女は、死んでいるわけじゃなくて、生きてないんですから」

「ご令嬢、言葉遊びは感心しませんな。言っていることは同じではありませんか」

「全然違いますよ。わからないようだから、それを見せてあげますよ」


「なるほど。貴女はご自分の力にかなり自信がおありのようだが、そうだとしても、おそらくガラスの棺はびくともしないでしょうな」

「教会でも何度となく試しておりますからな。ガラスの棺は、神のご意思でしか封印を解くことができぬのじゃ」


「そっちもそんなに自信があるなら、わたしに試させてくれないかしら? それがもしうまくいけば、教会の望みも叶うかもしれないでしょ?」

「やらせてみたらよろしい。さすれば、己の傲慢さに気づかれることじゃろう」

「こちらのご令嬢も謙虚と言う言葉を覚えるやもしれんからのう」

「じゃあ、早速案内ください」


 ノエルが可愛くおねだりすると、どこからか舌打ちが聞こえた。


 父の知り合いの大司教様が後方でオロオロしているけど、他の大司教様たちの態度は横柄だから、ノエルの魔術力に半信半疑なのかもしれない。

 きっと、裏庭で穴の開いた大木は確認してきたと思うんだけど、それでも小娘と侮っている感じが伝わってくる。



 結局、私がキリル様に声をかける暇もなく『神聖の間』にノエルと一緒に連れられてきた。顔色は悪くなかったから、ひとまず安心はできたけど。


「近くで見ると、やっぱりお姉様に似ている気がするわ」

「きっと、同系列の顔形だからよ」


「じゃあ、さっさと開けちゃいましょうか。そうすれば大司教様たちも納得するしかないもの」

「ええ」


 私とノエルは、リピィの足側にある金属パネルの前で膝立ちになる。そこには九つのマス目があり、リピィの暮らしていた国で使っていた数字が、一から九までふられていた。記憶の中にある解除方法はこれを決められた順番で押すだけだ。

 しかし――――。


「だめだわ。びくともしない」

「わたしにまかせて」


 ノエルが詠唱を始めるとその手のひらに光が集まった。その手でノエルはパネルにふれる。するとギギギっと金属がこすれる音がして、最初の一枚のパネルが中にめり込んだ。


「おう!?」


 うしろで見ていた大司教様たちがざわざわしている。


 あれ、普通なら、押しても元に戻る設計のはずなんだけど……。

 ノエルのやっていることはどう見ても、力づくで押し込んでいるようにしか見えない。大丈夫なんだろうか?


「次はどこ?」

「えっと、このパネルよ」


 ノエルは私が教えた順にパネルを押していった。そうやって、とうとう最後の九枚目のパネルまで本体にめり込んだ。


「どうかしら?」

「解除方法はあっているはずよ」


『神聖の間』では、みんなが固唾を飲んで、ポッドに集中している。


 すると、ポッドからガチっという音がした。本当だった、自動で蓋が開くはずだけど、長い年月で蓋と本体が密着してしまったのかもしれない。


 でも、解除はできたはずだから、持ち上げれば蓋の部分ははずせるはずだ。


「お父様とキリル様、申し訳ありませんが手を貸してくださいませんか」


「ああ」

「はい」


 私たちは、四人でガラスのふたの部分に力を入れて持ち上げようとした。


「私も手伝おう」

「どれ、わしも」


 それを見ていた大司教様の中に手を貸してくれる人もいて、それはやっとのことで全開封することができた。


「なんと!?」

「今までどんな方法を使っても、こじ開けることができなかったというのに」


 この光景に大司教様たちは驚きを隠せずにいた。


 劣化とノエルの力で、タッチパネルが壊れていなくてよかった。


「フレイヤ様!」


 安堵していると、キリル様が私に呼びかける。だから私はそれにしっかりと頷いて見せた。


 さあ、これからが本番だ。


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