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21 魔術師

 私がキリル様を助けたい気持ちが本物であることを知った父が、親しくしている大司教様と面会する機会を作ってくれた。


 どこかでこっそりと会うのかと思ったけど、意外にも教会の敷地内にある一室に招かれたので、私は父とノエルの三人で指示された場所に馬車で向かった。



「忙しいところ時間をつくってもらって申し訳ない」


 父の知り合いは、白い顎髭が見事な年配の男性で、恰幅もよく、いかにも教会の重鎮という雰囲気を醸し出していた。


「ご心配いただかなくても結構ですじゃ。さて、お知りになりたいことは、キリル・フェニックスについてでしたかな」

「キリル様は今どちらにいらっしゃるのですか?」

「教会内で監視付きの軟禁状態じゃが、元気じゃよ」

「軟禁ですか……邪教徒認定されたと伺いましたけど?」


 邪教徒認定されたとなれば、処刑とまではいかなくても、改心するまで、ひどい扱いを受けると聞いたことがある。


「いいや、あやつは大司教会に乗り込んで、ちと暴言を吐いただけじゃからな。邪教徒というのは悪意ある何者かが流した噂であろう」

「では、邪教徒として処罰されたりはしないんですね」

「そうじゃ。司教の地位ははく奪されるやもしれんが、極刑なんてことはあるまいよ。しかし、あやつはもう少しうまくやると思っていたのじゃが、何を焦っておったのじゃろうかのう」


「私はキリル様を助けたいんです。何かできることはありませんか」

「そう言われても、教会内のことじゃからなあ……」

「ねえ、大司教様」


 ノエルがいつものように、可愛らしく甘えた声を出した。


「なんじゃね?」

「教会って、魔術がすごければすごいほど、敬われるんですよね?」

「そうじゃな。神から寵愛をうけておる者とされておるからの」

「だったら、わたしを教会のトップにしてほしいな」

「なんじゃと?」

「教会の人に、いろいろ聞いてみたんですけど、わたしよりすごい人がいないみたいなんですよね」

「「「え?」」」


 その場にいた三人の声がそろった。

 ノエルが顎に自分のこぶしを当てて可愛らしいポーズをとっている。

 どこから突っ込めばいいのやら。


 ノエルの能力を私だけが知らなかったの?


「お父様?」

「いや、わしも聞いとらん」


「今まで隠してたんだもの。信じられないかもしれないから、やって見せた方がいいわよね。ここだと危ないから外に出てもいいかしら?」

「危険な術を使用するつもりじゃったら、裏庭を使ったらどうじゃ」

 

 さっきは私たちと一緒に驚いていた大司教様が落ち着きを払っているので、ノエルの言っていることを、大袈裟に思っているのかもしれない。


 だって、私はまったくわからないけど、危ない術なんて使って大丈夫なの?


 大司教様に案内されて四人で移動したその場所はかなり広い場所で雑木林の向こうにレンガの壁が見えるので、きっと周りは囲まれているのだと思う。


「ここじゃったら、好きなように術を使ってもらってかまわんよ」

「では、早速。あ、そのへんの木を傷つけちゃっても大丈夫ですか?」

「ああ、わしが許可する」

「ありがとうございまーす」


 ノエルは右手の手のひらを上に向けて詠唱を始める。しばらくすると、ノエルの手のひらの上に赤い霧のような物が出現したかと思うと、それが集まって卵ほどの大きさの光の玉になった。


「なんじゃ、あれは!?」


 その時になって初めて大司教様が焦り始めた。


「せーの」


 ノエルが光の玉を私たちから五メートルほど離れた大木に向かって放り投げる。それはバシュンっと鈍い大きな音を立てたかと思うと、そのまま幹に穴を開けて大木の向こう側に消えていった。

「あら、穴が開いちゃったわ。ちょっと威力が強かったみたい」


「ノ、ノエルさん!?」


「大司教様ったらこんなことで驚かないでくださいね。今のなんてほとんど力を込めてないんですから」

「なんじゃと?」


「このくらいのことなら、わたしのお友達もできますよ。ちなみに、みんなわたしの配下に置いてますから、やろうと思えば力づくで教会を乗っ取れちゃうかも? たぶん国王陛下は教会のトップなんて誰でもかまわないだろうし。私みたいな従順そうな女の子の方が喜ばれるんじゃないかな。なんてね」


 えへ。


 っていくら可愛く言っても、ノエルの言動は恐ろしすぎるから。


「でも、そんなこと面倒くさいですし、わたしとしては、『永遠の聖女』の件を片付けて、キリル様を奪還出来たらそれでいいんですよね」

「ま、待ってくだされ。それは、私の一存では無理ですじゃ。すぐに大司教会を招集するので、少しだけ時間を下され」


「できるだけ早くお願いしますね。それから、わたしは面倒くさいから、この件が終わったら教会には一切かかわるつもりはありませんので。あ、でもー、わたしの大事な人たちに何かしたら話は変わりますけどね」

「しょ、承知したのじゃ」

「大司教殿。うちの娘が迷惑をかけて申し訳ない」

「いや……」


 大司教様は私たちを裏庭に残して、その身体に似合わないほど、驚くべき速さで大聖堂の方向に走っていった。乗っ取るとか言われちゃったから、焦るのも仕方ない。


 ノエル、なんて恐ろしくて頼りになる子なの。


「ノエル、おまえって子は」

「お父様、ノエルは私のためを思ってやったことなの、すべて私のせいだわ」

「まあ、やってしまったことは仕方がないからな」


「お父様はわたしがやったことに対して、あまり困惑してないのね」

「ノエルの力か? それとも教会への言動か?」

「どちらもよ」

「魔術の方は、貴族の中に、たまにノエルのような者が現れるのは知っている。それにノエルが色仕掛けで仲間を集めていたことは気づいていたしな」


「教会に対しては?」

「近頃、城の方では教会の在り方が問題になっておってな。あくまでも国王陛下の名代として権力が渡されていることを、忘れておるような態度が散見されているようだ」

「もしかして、ノエルはそれを知っていたの?」

「どうだったかなぁ」


 誤魔化かした?

 ノエルの人脈ってどうなってるの?


「でも、これでキリル様には誰も手を出せなくなったし『永遠の聖女』のことも計画通りよね」

「おう、そうだ。『永遠の聖女』の件とは、お前たちはいったい何をやっているんだ」

「それはね。お姉様が倒れていたのって、教会で使っている魔術の不備だったんですって。それをやめてもらおうと思ったのよね」


「何を勝手にやっているかと思えば。まあ、ノエルほどの魔術使いなら、わしなどに相談をする気もおこらないか」

「やだ、お父様。そんなわけないじゃない。ちょっと、調子に乗っていたかもしれないけど。こんな騒ぎを起こすつもりなんてなかったんだもの」

「そうか――とりあえずノエルの脅しのおかげで、ついでに教会の改革もできそうだ。今日のことは陛下に報告するからな」

「えー、流れでトップにしろなんて言っちゃったけど、何か押し付けられたら面倒くさいから嫌だよ」

「そこは、わしがうまくやっておくさ」


「ノエルも、お父様も、ありがとう」


「わしはここへ連れてきただけだがな」

「わたしはお姉様のためならなんでもするわ」


 みんなの協力でキリル様を救うことはできそうだ。


 これで、すべてうまくいくといいんだけど。


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