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20 教会の思惑

「この国は教会の権力が強いため、魔術に頼っているところが多いんですよ。だから、いろいろな技術力が他の国に比べて著しく遅れているんです」


 この前キリル様が言っていた、他国から後れをとっていて隣国に飲み込まれる恐れがあるというのは、そういうことなのだろう。


「教会は『永遠の聖女』に望みを託し、もし本当に女神であれば、国の繁栄を願い、もし、古代人の生き残りであれば、古代遺跡に使われていたと思われる高度な技術を手に入れたいと思っているんですよ。他国との差が開けば開くほど、そんな不確かなことに対して血眼になり、ここまでくると、意地になっているとしか思えません」


「でも、お姉様の情報だと、教会がどんなに望んでも、神の力も古代の技術力も手に入らないってことですよね」


「ええ、ですから、そんなことに労力を費やしている暇があれば、他国に追いつけるような力を身につけた方がどれだけ建設的なことか。私はそう思っていますよ。ですから『永遠の聖女』にはどんな状態でもいいので一刻も早く目覚めてほしかったんですよ。それも私の手で。そのためにフレイヤさんには私の味方になってもらいたいのです」


「それはもちろんですわ」


 教会で上に行きたいと言っていたキリル様。きっと、教会の考え方自体を丸ごと改革したかったのだろう。


「『永遠の聖女』が期待している少女ではないことを大司教様たちに突き付けようと思っています。フレイヤさんから教えてもらった内容を吟味した結果、リピィ様が生きていないことさえ証明できればいいのですから、私はガラスの棺と呼ばれているポッドを開放することに決めました。ただ、私がやろうとしていることで、フレイヤさんに精神的な苦痛を与えるのではないかと危惧しているんですが」


「私は平気です。リピィへの執着がなくなれば、私はもう倒れることもなくなるでしょうから、その後どう生きていくかは別として、それはとてもありがたいことですわ」


「では、本当によろしいのですね」

「はい」


「ポッドの開け方はフレイヤさんにしかわからないと思いますから、教会に足を運んでいただく必要もあります。それでもかまいませんか」

「ええ、私はすべてを終わらせたいんです」


 もう振り回されたくない。


「わたしがお姉様についていってもいいんでしょ? 何かあってもわたしがお姉様を守ってみせるわ」

「ありがとうノエル」


「では、そのように計らいます。これから私が教会内で根回しをしますので、それが終了してからお二人を教会にお招きしますね。それでよろしいでしょうか」

「はい」

「お姉様のことは任せて」


 今回の件、私も一番最初にガラスを割っちゃえばいいと思っていた。

 だけど、あれは墜落の衝撃と数百年もの劣化をもしのぐ耐久性があったのだ。そんなものを、私のような非力な人間が割ることなんてできなかった。


 だけど、私はポッドの開け方はちゃんと覚えている。リピィを出すことができれば、あとはキリル様が生きていないことを証明すればいいだけだ。




 それから、一か月。未だに計画は実行されていなかった。


 キリル様がどんな話をしているか私にはわからない。でも、教会の期待値が大きい分、リピィが役立たずであることを認めたくはないのだろう。


 こういうのって、頂点に君臨している人の器にかかっているんだと思う。自分の時代では波風立てたくなくて、このまま手をつけず次代に先送りするタイプだったら、話しは進まないだろう。

 何も連絡がないのは、きっと、難航しているからだと思われる。


 キリル様の心配をしていた私に、兄がもたらした話題はとても信じられないものだった。


「彼ならフレイヤを任せられると思っていたが、正式に婚約する前でよかったよ」

「お兄様は何のことを言っているの?」

「キリル殿のことだ。彼は邪教徒と認定されて教会で拘束されたらしい」


「そんな、嘘でしょ」


 兄の言葉は私にとてつもない衝撃を与えた。『英才』と呼ばれるほどのキリル様が邪教徒として捕らえられてしまった。全部私のせいだ。


 あまりのことで、私はその場で崩れ落ちた。


「お姉様しっかりして」


 ノエルとお兄様がすぐに身体を支えてくれた。さすがに慣れているだけある。


 とりあえずソファに座らされた私は、涙が止まらないその顔を両手で覆った。でも、ここで泣いていても何も解決しないのはわかっている。


 どうしたらいい。

 どうしたらキリル様を救うことができる。


 私は涙を手のひらで拭いながら、顔を上げた。


「お兄様、私は教会に向かいますわ。ですから、お父様たちに私のことを勘当して縁を切るように伝えてください」

「それなら、わたしも。お姉様についていくって約束したもの。ねっ」


 ノエルが私を励ますために笑顔を見せた。


「駄目よノエルは。みんなが心配するわ」

「フレイヤだって同じだ。おまえは私たちが心配しないとでも思っているのか」

「だけど、キリル様を放っておけないわ」


「フレイヤとノエルが乗り込んでいったところで、教会が相手をしてくれるわけがないだろう。行くにしてもせめて父上に相談してからにしてくれ。父上なら大司教様につてがあるはずだからな」


「たしかにお姉様に何かあったら困るわ。お父様にお願いして大司教様に会えるようにしてもらいましょうよ。あとは私に考えがあるの」

「そうだぞ。無策で飛び込んでいったところで、事態が好転するわけもない。そうするんだフレイヤ」


 兄たちが言うことももっともだ。私たちが騒いだところで玄関払いされるだけだろう。


「わかったわ。でも私はキリル様を助け出したいの」


 誰が何と言おうと。


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