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02 私は私を守りたい

 私は気がつくと自分のベッドに寝かされていた。父たちがいつもの発作だと思って倒れた私を連れて帰ってきたんだろう。


「フレイヤ様お加減はいかがですか?」


 私付きの侍女のターナが、目を覚ましたことに気がついたようだ。


「私は大丈夫よ、ターナ」


 私はベッドから起き上がり、手をあげたり、左右に振ったりして身体を動かしてみた。動きはスムーズだし、痛いところも、倦怠感もない。


「ほらね」

「でしたら、フレイヤ様がお目覚めになったことを侯爵様に伝えてまいります」


 ターナが部屋を出て行くのを見送ってから、私はベッドから出て部屋にある姿見の前で、じっくりと自分自身を観察した。


 鳶色の瞳に銅色の髪、間違いなく見慣れている私の顔だ。実際に肩から垂れ下がっている一房を手に取ってみる。何度確認したところで、それは銅色であって、鮮やかな赤毛とは似ても似つかない。


「いつも通りだわ」


 倒れる直前の意識の飛び方も、こうやって目が覚めたあとの感覚も、それまでと変わったところはなかった。


 ただ一つ、植え付けられた新しい記憶を除いては。


「夢だと思いたいけど……」


『永遠の聖女』が何者であるか、自分自身が理解している以上、夢ではないことが嫌でもわかる。

 その記憶の内容が、いくら侯爵家の娘だからといっても知り得る内容ではないからだ。


 それはたぶん、王族や教会の大司教さえも持っていないような知識だと思う。


「古代文明……そう思われるだけの年月がたっているということなのね。はぁ」


 思ってもみなかった事態に私がため息をついていると、部屋のドアが大きく開いて、ひとつ違いの妹のノエルが飛び込んできた。


「お姉様、起きていて大丈夫なの?」


 はしばみ色の瞳に薄い金髪。

 私の顔を覗き込んだ、その愛らしい顔が曇っている。


「ええ、いつもと同じよ。心配をかけてごめんなさいね」

「ううん、今日は大声をあげながら倒れたから驚いちゃったけど、なんでもなかったならよかったわ」

「えっと……あの場で倒れたらいけないって思って、ギリギリまで我慢していたからじゃないかしら……」

「そうだったの? 病気なんだから、無理しちゃだめよ。でも、せっかくお姉さまが楽しみにしていた『永遠の聖女』だったのに、残念だったわね」

「そうだわ。あのあとどうなったの? 儀式の邪魔になったりしてない?」


 私が思っている通り『永遠の聖女』が私の前世の姿だとしたら、儀式は絶対に成功していない。私がこの身体で目覚めたことがその証拠だ。


「うーん。たぶん大丈夫だったと思うわ。教会の人たちの中にはこっちをチラッと見た人もいたけど、そのまま儀式は続けていたし」


 私の叫び声が、儀式をしていた人たちに届いてしまった自覚はある。混乱をしてはいたけど、『麗しの神官様』がこちらを見ていたのに気がついてはいたから。


「わたしたちはそのまま部屋を退出したから実際にはどうなったかはよくわからないけど、お父様のところに『永遠の聖女』が目覚めたって報告はきていないみたいだから、結局今回も失敗したんじゃないのかな」

「私のせいかしら……」

「きっと違うわよ。今までだって一度も成功したことがないんだから」

「だったらいいんだけど」


 私たちがそんな話をしていると、両親と兄もやってきた。

 ノエルと同じ説明をしたら安心していたけど、ところかまわず発症する本当に厄介な病気で困る。


 今回は前世の記憶が戻ったのと同時だったから、叫び声まで上げてしまったし、儀式を最後まで見ることができずに家族のみんなには迷惑をかけた。


「本当にごめんなさい」

「私たちはフレイヤが無事ならそれでいいんだ」

「そうよ。病気なんですもの、それは仕方がないわ。貴女が気にする必要はないのよ」

「『永遠の聖女』を見ることはできたんだし、あのままあそこにいたとしても、神官たちの詠唱をただ聞いているだけだっただろうからな」


「『永遠の聖女』は目覚めなかったの?」


 それだけはどうなったか、一応知っておきたい。


「教会は必死になっているが、そう簡単なことではないようだからな。念のため確認はしておいたが、フレイヤのせいではないそうだから大丈夫だぞ」

「だったら、よかったわ」


 邪魔をする気はなかったけど、万が一成功されても、それはとても困る。

 魂はこの肉体に宿っているのだから、切り離されてはたまらない。


 私は侯爵家の生活も、フレイヤの身体も気に入っている。それがたとえ不治の病気を患っているとしてもだ。


 だから今の生活を壊されないようにどうにか阻止したい。だけど、躍起になっている教会を止めることは、誰にもできないと思う。


 私が私を守るためには、いったいどうしたらいいのだろう。


 そんな風に悩んでいた時だった。麗しの神官様が私を訪ねてきたのは。


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