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19 突然の告白

「何ですか、この魂の抜けた状態のお姉様は!?」


 ん? 魂の抜けた状態?


 気がつくと私はソファに背中をあずけて、だらしない姿勢で座っていた。

 ここは? ノエルがいるってことは我が家の応接室か。


「それがずっと一緒にいた私にも、なぜこうなったのかわからないんです」


 向かい側にはキリル様もいる――私はいつの間に帰ってきたんだろう。


「古代遺跡で突然こんなふうになってしまって、話しかければ一応反応はするのですが、心ここにあらずといった感じで会話が成立しません」


 心ここにあらず?

 二人で私の話をしているようだ。


「なんだ、みんな知っているんじゃないの」


「え!? 正気に戻った? 大丈夫なのお姉様?」

「フレイヤさん? 知っているって何をですか?」

「私が誰かを好きになることがないってことですよ。ノエルや家族に対する愛しいという気持ちも……きっと条件反射だわ」

「はあ!? 何言ってるのよ! 馬鹿なこと言わないで!

「私は事実を言ったまでよ」

「そんなわけないわよ。誰に何と言われようと、それがお姉様であったとしても、わたしにはお姉様に愛されてる自信があるわ」


 ノエルが立ち上がって、目の前で怒鳴り散らしている。そんなことでは、いつまでたっても淑女にはなれないのに。


「あの時、宇宙船でいったい何があったんですか? フレイヤさんが心を痛めるようなことがあったのなら、不用意に連れて行かなければよかったですよ」 

「大丈夫です。私には痛む心なんてありませんから。でも、なぜ私はフレイヤなんでしょうか?」

「もう! 本当に意味がわからないから、一から全部話してよ。わたしはお姉様に何が起こっているか知りたいし、助けたいの。キリル様は何か聞いているのよね?」

「まあ、多少は。ですが、私にも今のフレイヤさんの発言はまったく理解できていません」


 ノエルが私の横に座り直して、両手で私の手を包み込む。それは暖かくて、とても優しかった。


「話してくれるまでこの手は離さないわよ」


 そう言ったノエルの手に力がこもる。そのためガシッと掴まれた私は、身動きができなくなってしまった。


「そうね。今後のことを考えたら、迷惑をかけるノエルたちには話しておいた方がいいかもしれないわ。私は普通ではないのだから」

「お姉様の言う、普通ではないって、たぶん自虐的な意味で言っているんでしょうけど、今はそれに突っ込んでいる余裕がないわ。ほら、早く全部吐いちゃってよ」


 ノエルが頬を膨らませながら私を急かす。


 だから私は、たぶん『永遠の聖女』の生まれ変わりであること、それから私の前世は他の星から宇宙船でやって来たということなどを掻い摘んで伝えた。


 ただ、それは事実なのだろうか。

 自身の転生については不明な点が多すぎてよくわからない。


 宇宙船の事故を思い出して、新しい記憶がよみがえったせいで、私は自分が何者か、はっきりとわかってしまった。そのため余計にそう思うのだ。


 なぜ私はフレイヤに生まれ変わっているのだろうか。


「そんな……だってお姉様はお姉様だわ。何かの間違いか勘違いじゃないの」


 ノエルが驚いているのは、私の前世云々ではなく、私の正体を知ったからだ。


「フレイヤさんが嘘をついているとは思いませんが、長い年月の間に記憶の改ざんが起きているのかもしれませんよ。もう一度よく思い出してみてください」


 二人が信じられなくても、現実を覆すことはできない。


「そう言うことで、私のような異分子は人との関りを断った方がいいと思っています。でも、さすがにフレイヤの身体では一人で生きていけないので、メーライド侯爵家においてもらい、余生は屋敷内だけで過ごすことにしようと思いますわ」

「極端すぎるのよ、お姉様は。前世は前世でそんなこと今は関係ないわよね。それを知らなかったころと同じように生きていったらいいじゃない」

「でも、私は思い出してしまったんだもの。今更なかったことにはできないわ」


「フレイヤさん」

「はい」

「短い間とはいえ、私は貴女のことをずっと見てきました。だからはっきりわかりますよ。貴女の考えていることが杞憂だということを」


 キリル様まで私を説得するつもりらしい。


「私は貴女が好きです」

「え?」


 なんか、さらっと、キリル様はとんでもないことを口にしたけど、私の聞き間違いではないだろうか?


「女性と一緒にいて、楽しいと思えることなど、今まで一度もありませんでした」

「そ、それはリピィの記憶に対してですわよね。誰も知らない知識がなかったら私なんて……」

「いえ、フレイヤさんは私の容姿ではなく、私の人格を見ていましたよね。だから、私が喜ぶ話を選んでくださっていたのは知っています。それに私の表情の動きで感情を読めた者なんてほとんどいませんよ。そんなところも含めて、私はフレイヤさんのことを愛おしく思っているんです」


 思いがけないキリル様の告白で、心臓が大きく脈打った。


「私だって――キリル様のことが好きです。それは間違いないですけど、ただ、好きって気持ちがどういうことか、私にはわからないんです」


「そんなこと、わたしだってわからないわよ。好きなものは好き。それだけでいいじゃない。理屈なんて関係ないわ。お姉様がキリル様のことを特別に思っていることは、決しておかしなことじゃないんだから」


「そうなのかしら」

「そうなのよ。わたしがお姉様を大好きなのだって、ものごころついた時にはすでにそれが当たり前になっていたから、()()()()()()()()()()なんてわからないわ。でも、()()()()()()()は、いくつでもあげることはできるわよ」


 力説するノエル。

 ノエルとキリル様と私の『好き』は本当に同じものなんだろうか?


「フレイヤさん」

「はい」

「すみませんが、もののついでみたいな告白ではなく、もう一度、私の目を見て貴女の本音を聞かせてくださいませんか」

「あっ」


 勢いにまかせて伝えてしまったけど、そんなことを言われたら、恥ずかしくなるのは必然。自分で顔が火照っているのがはっきりとわかった。


「そんな顔ができるフレイヤさんが、何を心配しているのですか。もしそれでも、納得いかないと言うなら、いっそのこと前世を断ち切ってしまいましょう」

「それは、どういうことですか?」


「フレイヤさんの話を伺ってから、ある考えが浮かんだんです。うまく行けば、フレイヤさんだけではなく、私も、たぶんこの国のためにもなることですよ。ですがその前に、私の話を聞いてもらいたのですが、よろしいでしょうか」

「それはかまいませんが」


 ノエルも席をはずさなくていいというので、それから私たちはキリル様が何を目指していたのか、すべての計画を知ることになった。


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