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18 思い出した記憶

 とうとうキリル様に『永遠の聖女』が私の前世であることを告白した。それから数日後。


 私は今、キリル様の隣で、目の前にある古代遺跡と呼ばれている宇宙船の残骸を眺めている。


「中は柱が脆くなっていて危険な場所もありますから、進入禁止の綱が張ってあるところには絶対に入らないでください」

「ああ、それはわかっています。迷惑をかけるようなことはしないから大丈夫ですよ」


 これから船内に入るため、私たちは教会から派遣されている管理担当者から遵守事項の説明を受けていた。


「案内役は本当に必要ありませんか?」

「今回はそれほど奥まで進むつもりはないですから」

「さようですか。ではこちらからお入りください」


 宇宙船の通路にキリル様とやって来た私は、入口を守っている警備兵から怪訝な視線を向けられる。

 ここは人の入場が制限されていて、キリル様が教会で司教という役職についているから私も入ることが許されたけど、本当なら貴族令嬢など、何かあって責任問題になっても困るし、危なっかしいから断られるらしい。


 ただ、私みたいに古代遺跡に興味を示す令嬢がそれほどいるとは思えないけど。


「今日は私のわがままを聞いてくださってありがとうございます」


 リピィの記憶が戻ったことで、古代遺跡と呼ばれている宇宙船のことが気になっていた。私が、ふとそのことをキリル様のつぶやいてみたら、案外簡単に『それでは行ってみませんか』と返事をもらえて、見学できることになったのだ。


「フレイヤさんが一緒なら、今まで見落としていたことを発見できる可能性もありますし、私も楽しみですよ」


 機械については素人だから私に説明できるか怪しい。だから、あまり期待はしないでほしい。


「キリル様は光の魔術も使うとこができるんですね」


 私はキリル様が掲げている杖の先を見つめた。それは淡い光を放っていて、これから私たちが進もうとしている宇宙船の内部を照らしている。


「これは光の魔法ではありませんよ。隣国で製作された魔道具で、魔力を送ると先端が光る仕様になっているんです」


 リピィ時代でいうところの懐中電灯みたいなものらしい。電力の代わりに魔力を使用しているところはこの星ならではだ。


「もう少し中に入ったら、明かりをもっと強くしますから、フレイヤさんは直接その光を見ないように気をつけてください」

「ええ、私は初めて見ましたけど、魔力がある方たちは欲しがるんじゃないんですか」

「そうですね。ただ、とても高価なものですし数もあまり出回っていないですから、いまはまだ入手が難しいと思いますよ。これも教会の備品ですしね」

「そうなんですか」


 魔道具で明るくなった宇宙船の船内は、私の想像していた状態とはまるで違って、分厚い壁の部分だけを残し、ほとんどが焼け落ちていた。


 この星で存在するはずのない物、いわゆるオーパーツは焼け残ったものが発掘されているらしいけど、ほとんどが不完全な状態、または破片なので、何に使われていたものかわかっていない。


 それらを私が見たところで、小物以外は元が何だったのか当てることはできないと思う。


 それでも何か知っているものがないかと、きょろきょろしながら歩いていたせいで、突起物に足をとられて私は前のめりに転びそうになってしまった。


 気がついたキリル様が腕をつかみ、自分の方へ引き寄せてくれたので、大丈夫だったけど、距離が近い。近すぎる。


「ほとんどが坂になっていますから足元に気をつけてください」

「こ、これは地盤沈下だと思われているんじゃないですか。床がほとんど斜めですもの」


 とにかく、気持ちを静めて焦っていることを誤魔化さないと。そう思いながら私はてきとうなことを口走った。


「そうですね。まさか、空から落ちてきた船だとは夢にも思いましませんから」

「本当にそうだったんですか……あっ」


 キリル様が私の腕から手を離したと思ったら、今度は手を取った。


「こんなところで倒れたら危ないですよ。ですから、こうしていた方が私も安心です」

「申し訳ありません」

「いいえ、ここにフレイヤさんを連れてきたのは私ですからね」


 そんな会話をしたあと、私たちはゆっくりと奥へと進んでいった。


 だけど、どこまでも黒ずんだ金属の壁が続くだけで、ここまでは特別目を引くようなものはない。


 宇宙船は内部を広くするため何もかもが合理的にできているだろうから、操縦室とか、エンジンルームまで行かないと特殊なものはないのかもしれない。

 その部屋が焼けずに残っていればだけど。


「フレイヤさん、このところどころにある小さな部屋はいったい何ですか」


 キリル様に聞かれたので、私はその小さな部屋と言う場所を覗いてみる。


 確かに二メートル四方の小さな空間だ。穴の開いているこちら側の壁と天井部分がなくなっていて、見上げると遥か上まで空洞が続いていた。


「たぶんこれはエレベーターです」

「エレベーター?」

「その箱が上下左右に移動して上の階や隣接している施設に人や物を運ぶ装置です。その箱の部分だけ残ったみたいです」

「やはり、この遺跡――いや、この船にある物は、それがどんな使われ方をしていたのか、見たことも聞いたこともない我々に想像できるわけがないですね」

「そうなのかもしれません。でも、ここの船はほとんど原型をとどめていませんから、記憶がある私でも想像するのは難しいですわ」


 リピィ(わたし)の暮らしていた星は、機械化が発展しすぎて、移動も人との交流も、自分はその場からまったく動かずにできるようなところだ。

 だから、無人の星で、手つかずの自然を楽しむ旅行が流行っていた。

 まさか、初めての宇宙旅行でこんな事故にあうとは、リピィ(わたし)も本当に運が悪い。


 感傷的になっていたからだろうか、突然、ある記憶が鮮明によみがえった。


『早くこれで脱出をしてください。きっと誰かが救出に来てくれますから』

『嫌よ、一人でこれに乗るなんて怖いわ』

『すぐにスリープ状態に入りますから、次に目覚めた時は助け出されたときです。恐怖はほんの一瞬です。ですから早く』


 あの日私の目の前は炎の色と熱で真っ赤に染まっていた。


 この宇宙船はワープに失敗したため、内外部の両方で大規模な爆発が起こって、この星に衝突する前に、周りはすでに火の海だったことを私は思い出す。


 リピィ(わたし)だけがきれいな状態で残っていた理由。


 たぶんそれは、ポッドで脱出するタイミングがよかったからだろう。


 早めに脱出した人たちは宇宙空間で漂っているか、大気圏の突入でポッドごと燃え尽きてしまったんだと思う。


 私は、この星に宇宙船が墜落する直前、全体が炎に飲み込まれる状況の中、他の人よりかなり遅れて、本当にギリギリ外部へと放り出された。


 確認はしていないけど、きっと発掘されたのも、宇宙船の残骸からではなく、離れた場所だと思う。


 そこまで考えて、私は突然、とても重大なことを思い出してしまった。


 なんてこと、私は――私は――私は――――


「あああ」

「どうしたんですか、フレイヤさん。大丈夫ですか。しっかりしてください」


 思考不能になった私を、キリル様が抱きしめているけど、その感触と温もりがとても遠く感じる。


 気がつかなければよかった。

 何もかもが偽りだったなんて。


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