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10 理解不能…ですよね

 キリル様の表情が険しいけど、今までと違ってその顔はなんだか困惑気味に見える。


「人間がどうして空から? 古代人は浮遊できるほどの魔力と魔術を手にしていたということでしょうか? それに『うちゅうせん』とはいったい何ですか?」


 質問攻めだけど、飛行機とかヘリコプターなどの空を飛ぶ乗り物すらないこの星で、宇宙船をどう説明したらいいのだろう。


「信じられないとは思いますが、夜空に瞬いている星の中には、ここと同じように人類が暮らしている場所が存在するんです。宇宙船とはその星から星へ移動するための、空飛ぶ船のことですよ」


「空飛ぶ船!?」


 キリル様が立ち上がって叫んだけど、この話を聞けば、たぶん誰でもそうなると思う。だから私はその態度に怯むこともなく、無視してそのまま話を続けた。


「その宇宙船で移動中に事故が起きてしまったため『永遠の聖女』たちは宇宙船ごとこの地に落ちてきたんです。地面に衝突して埋まってしまったようですから『永遠の聖女』以外の乗組員や乗客は救命ポッドが割れてしまったんじゃないでしょうか」


「救命ポッド!?」


「遺体は長い年月の間に分解されて残っていなかったんだと思います。あと、宇宙船の動力は魔力ではなく核融合という無尽蔵のエネルギーですよ。それが何かは説明できませんが」


「フレイヤさんは……」

「はい?」


「私ですら理解不可能な話を、どうやらちゃんとわかっているようですね。こんな話をいきなり創作できるわけがないと思いますので、貴女がでたらめを言っているとは思えませんし」

「ええ、信じてもらえるなら嬉しいですわ。作り話ではありませんが、正直、正気ではないと思われる自覚はありますから」


「フレイヤさんは、その情報を『永遠の聖女』から手に入れたんですよね? だとしたら、やはりどんな手を使ってでも『永遠の聖女』には目覚めてもらう必要があります」


「だから、それは無理だって言いましたよね」


「貴女が……『永遠の聖女』自身が自分は死んでいると思っていたとしても、それは勘違いかもしれませんよ。私には、あの姿がどうしてもそうとは思えないんです」


「なぜ『永遠の聖女』にそこまでこだわるんですか? 彼女は女神の末裔でも、古代文明の生き残りでもありません。ましてや、魔力もなければ知識もない、年相応の女の子なんですよ」


「でしたらなおさら早く目覚めてもらわねばなりません。貴女が『永遠の聖女』と交信ができることがわかった以上、私は諦められませんよ」


 生き返らないって、私が何度も言っているのに、キリル様は頑なにそれを聞き入れようとはしない。

 もう本当にガラスを割っちゃった方がいいと思う。


「そんなこと言われても私は困りますし、いくら儀式を続けても、成果はでないと思いますよ」


 だから、私のために是非とも中止してほしい。


「そうですか。フレイヤさんのお気持ちはよくわかりました。そこまでおっしゃるのであれば、それをふまえて私も考え直したいと思います」


 さっき諦められないって言ったばかりなのに?


「本当ですか?」

「はい」


『英才』のキリル様が理解を示してくれて、こんなバカげたことに心血を注ぎ続けている神官たちを説得してくれるならありがたい。


 そうなれば、私の未来は約束されたも同然。これからは幽体離脱で倒れたりすることもなく、病弱な令嬢と言う名は返上して好きなことができる。


「フレイヤさんの話を聞いて、私は調べたいことができましたので、せっかく教会まで来ていただきましたが、術式の確認は別の日でもよろしいでしょうか」

「私もその方が嬉しいですわ」


 別の日にまた呼び出されたとしても、私は応じたくない。原因はわかりきっているので確認する必要はないし、やっぱり怖いから。


「では、帰りの馬車を用意させます。今日はご足労いただき、ありがとうございました」


 私はどうやら問題なく家に帰してもらえるらしい。


 儀式については、教会がすぐに諦めるとは思えないけど、キリル様だけでもわかってくれていれば、少しは安心できる。


 この時はそう思っていた。




 家に帰るとノエルが玄関まで飛び出してきて私に抱き着いてきた。


「キリル様の御用はなんだったの?」

「『永遠の聖女』の術式の確認だったわ。私に被害が及ばないように考えてくださったようよ」

「お姉様が倒れないように? それで『麗しの神官様』に気にかけてもらえて、優しくしてもらえるならちょと羨ましいわ」


 可愛らしく唇を尖らせてすねてみせるノエル。


「ノエルは何か勘違いをしているようだけど、キリル様に優しくされたことなんて一度もないわよ。むしろいつも睨まれているわ」

「だったら、かわいそうねお姉様」

「そう思うでしょ。でも、教会で私の気持ちは伝えてきたから、たぶんわかってくださったと思うの」


 儀式については考慮してくれそうな雰囲気だった。


「そうなのね……」



 ノエルとそんな話をしてから三日後。

 またしても、キリル様がうちにやって来た。


「フレイヤさんに、これを渡すために今日は参りました。ぜひ受け取ってください」


 そして私が彼から手渡されたものは、なんとキリル様の瞳と同じ色の白金水晶が光輝く美しい指輪だった。


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