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01 永遠の聖女

「いったいどういうこと!?」


 そう叫んだあと、私は全身から力が抜けて、その場に崩れ落ちた。


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 意識が途切れる直前、私の頭の中を満たしたのは自分でも信じられないような記憶の数々だった。 




 その日私は、メーライド侯爵家のコネを使って、ずっと見てみたいと思っていた『永遠の聖女』復活の儀式に初めて立ち会うことになっていた。


『永遠の聖女』とは、古代遺跡の地中から、棺ごと発掘された女性のことだ。


 実際は、この世界の技術では製造不可能だと言われている、まったく濁りもつなぎ目もない透明なガラス製の箱に入っていて、棺に入っているとはいっても、それはそう見えるというだけ。


 教会の見解では『永遠の聖女』はガラスの箱の中で眠っているだけで、死んでいるわけではないそうだ。


「本当にそんなことが可能なのかしら」


『永遠の聖女』は教会が厳重に保管していて、なかなか目にする機会がない。それを、父が知り合いのつてで大司教様に頼み込んでくれて、儀式を見学する許可がやっと降りた。


「ありがとうお父様。ずっと見てみたかったの。すごく楽しみだわ」

「フレイアのためなら、これくらいなんてことはない」


 実は私は、原因のわからない病魔に侵されている。こうやって何事もなく過ごしていても、突然意識がなくなり倒れてしまうのだ。


 そのため昔から家族には過保護にされていて、私がわがままを言っても、父はできる限り聞き入れてくれた。

 だから今回も『永遠の聖女』を見てみたいという私の願望を無理をして叶えてくれたのだと思う。


 侯爵家の権力を使って私たちが見ることを許されたその儀式は、高度な魔術を駆使して『永遠の聖女』を目覚めさせようというものらしい。



「皆様はこちらへお願いいたします」


 教会に到着すると父の知り合いの司教様がやってきて、普段なら立ち入ることができない教会に奥深くへと案内された。


 私は家族と一緒に、司教様の後をついていき、廊下の先にあった、人ひとりがギリギリ通れるほどの狭い階段を上がる。


 一番上まで行って入口をくぐると、そこは儀式が真下に見えるバルコニーだった。そういっても、とても狭い場所だったので、私たちは横並びで覗くのがやっとのようだ。


 それでも上からということもあって、その眺めはとてもいい。


 コネとは言っても、私たちはガラスの棺に近づくことはできないので、怪しげな儀式を両親と兄、そして妹の五人でここから見学することになっている。


 教会の関係者以外は、あと一組の貴族家がいて、私たちと同じように、向かい側にあるバルコニーから見下ろしていた。


「あれが『永遠の聖女』」


 その女性は胸の前で手を組んだ状態でガラスの棺に納まっていた。真っ赤に燃えるような髪の色が印象的だ。


「なんという神々しさなの。さすがは美しさの基準になった女性ですわね」

「教会が目覚めさせたがるのもわかるな」

「聖女はあの中で何百年も眠っているのだというが、古代文明の技術の高さには本当に驚かされるばかりだ」

「本当ね。今にも目を覚ましそうだもの」


『永遠の聖女』の復活の儀式は、これまでも何度となく行われているそうだ。


 だけど、魔力が足りないのか、魔法陣に不備があるのか、なかなかうまくいかなかったらしい。

 しかし、ここにきて魔術の英才と呼ばれる存在が現れたことで、長年の悲願が叶いそうだという。


 私が儀式の準備を見下ろしていると、その『英才』または『麗しの神官様』と呼ばれている司教様が、ちょうど私のところから真正面に見える場所に姿を現した。


 彼は髪も瞳も白金水晶(プラチナクリスタル)のような色をしていて、その姿は美しく神秘的。

 最近はよく令嬢たちの話題にものぼっている。


 容姿も目を引くけど、才能もあってあの若さですでに司教だというから、噂の的になるのも当たり前のことだ。


「もうすぐ儀式が始まりそうだぞ」


 魔法陣の上に設置されている棺の周りを取り囲んで、神官たちが魔術の詠唱を始めた。難しいことはよくわからないので、とりあえず私はその様子をじっと見つめている。


 すると、観察することに集中し過ぎたせいか、頭がなんだかくらくらし始めた。


 父たちが儀式を見ながら何か会話をしているけど、そんなことはまったく耳に入らない。


 まずい、これは私が倒れる際の前兆だ。


 でも、今ここで騒いだら儀式の邪魔をしてしまう。だから私は必死にバルコニーの柵にしがみついた、ところがその瞬間。


「あれ?」


 なぜだろう、私はあの赤髪の女性を知っている。いや、今思い出したというべきか。詠唱が始まったとたん、私の頭に、知るはずのない記憶が流れ込んできたのだ。


「いったいどういうこと!?」


 そう叫んだとたん、私の意識はそこで途絶えた。


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