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歌姫な僕と、名探偵な貴女 ~花散る帝都~  作者: フミヅキ
第三章 探偵と歌い手は帝都で躍る
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一人の探偵事務所

 探偵事務所に戻ってきたレンは抜け殻のようだった。


「ラフカ……君は疲れただろうから、早く部屋で休んだ方がいい」

「レンも疲れてるでしょ。休みなよぉ」

「いや……事務所を空けていた間に溜まった仕事を少しでも片付けないと」


 そう言ったレンは書棚からファイルを取り出しパラパラとめくり始めた。しかし、ラフカが自分のことを心配そうな目で見つめていることに気付いた彼女は困ったように笑う。


「少し……こうやって仕事で気を紛らわしたいんだ。落ち着いたらちゃんと休むから、心配しないで」

「ちゃんと休む? 約束してくれる?」

「うん、約束するよ」

「嘘ついたら針千本飲ますよ!」

「わかってるよ」


 返事に真剣みが感じられなくて、ラフカはさらに畳みかける。


「じゃあ、今日はぐっすり眠って、明日、出勤時間になったら、ここで会って『おはよう』って言うんだよね?」

「ああ」

「約束だよ!」

「ああ……」


 ファイルを覗きながらとはいえ、だんだんと生返事になっていくレンの返答に、ラフカは大きな不安を覚えた。



 翌日、出勤時間になっても探偵事務所にレンは現れなかった。


(きっと旅疲れでまだ寝てるんだよ。レンはお寝坊さんだなぁ)


 無理矢理にそう考えて不安な気持ちを紛らせながら、ラフカは事務所の掃除を始めた。ハタキで棚や窓枠に溜まった埃を払い、箒で床を掃き清め、机やテーブルを雑巾で拭く。二人の留守中に溜まった汚れがきれいになっても、まだレンは事務所に降りてこなかった。


「レン……」


 ラフカはしばらくレンの机に座って頬杖を突き、彼女がファイリングしていた昔の新聞記事の切り抜きを読み始める。それらを読み終えてもレンは降りてこなかったので、ラフカは意を決して立ち上がった。杖をついて一階の事務所を出て階段を上り、レンの部屋の扉をノックする。


「レン……? まだ寝てるのぉ? ねえ?」


 返事はなかった。


「大丈夫、レン? まさか、突然怪我が苦しくなって動けないとかじゃないよねぇ……?」


 ラフカは恐る恐る扉を引いてみた。なぜか鍵が掛かっておらず、扉は楽に開いた。


「レン……?」


 ラフカは恐る恐る部屋の中を覗いたが、そこにはレンの影も形もなかった。


(レン……まさか一人でニーシアを探しに行った?)


 ラフカはショックを受けつつ、「やはり」という気持ちもあって唇を噛んだ。


 結局、レンは夕方になっても帰ってこなかった。依頼にやってきた人には探偵の不在を詫び、依頼内容だけ聞いて帰ってもらった。そんな静かな探偵事務所に、一人の男が飛び込んでくる。彼は近くの診療所から来たと言った。


「アンタんとこの探偵が怪我をして担ぎ込まれたぞ!」


 ラフカは慌てて事務所を飛び出した。

お読みくださって、ありがとうございました。

ラフカの心配や疑問は増すばかり。レンは何を抱え込んでいるのでしょうか。

ほぼ毎日更新していますので、また続きを読みに来ていただけたら嬉しいです。

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