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歌姫な僕と、名探偵な貴女 ~花散る帝都~  作者: フミヅキ
第二章 探偵と歌い手は海辺の街を奔走する
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屋敷からの離脱

 その後、部屋の壁や床板を指でノックするように叩きながら調べたヒビット博士は、とある床板の下に回転式のレバーがあることを発見する。


「これかぁぁぁぁ!」


 博士がレバーを回すと、それに呼応するようにラフカ達を閉じ込めていた檻の鉄棒が天井へと戻っていった。


 ラフカと博士はメイドに街区兵を呼ばせ、「魔獣の襲撃があった」こと、自分達はニーシアに呼ばれた客であること、なんとか魔獣数匹は撃退したが犠牲者が出たこと、ニーシアは生き残った魔獣に連れ去られたことを伝えた。


 レンが眠っている状態で、どのように説明すれば最適なのかがわからず、とってつけた言い訳だった。兵士達は貴族の屋敷に急に魔獣が現れたことを不審がってはいたが、早く怪我人に治療を受けさせたいというラフカ達の希望を受け入れた。ラフカ達はレンを馬車に乗せ、ヒビット博士の研究所に向かった。



 博士の手により傷を縫合され、博士お手製の痛み止めと栄養剤を投与されたレンは研究所の仮設ベッドで丸一日眠り込んでいたが、目を開くとすぐに飛び起きた。


「ニーシアは何をするかわからない。急いでグリアに戻って両陛下をお守りしなければ!」

「待ってよ、レン! そんな怪我で動けるわけないでしょ!」


 ラフカが押さえつけなければ、這ってでも旅立ちそうな有様だった。確かに、レンの傷は常人では信じられないスピードで塞がり続けている。しかし、まだ完璧には直っていない。しかも、ヒビット博士の見立てでは、なぜかレンの全身の血管や内臓もだいぶ損傷を受けている様子とのことだった。


「それでも、私は戻らなければ!」

「レン、無茶だよ! その体で動いたら、またすぐ傷が開いちゃう!」


 ラフカとレンが押し問答をしているところに、ヒビット博士がやって来た。


「グワハハハハアアア! 移動が必要なら任せたまえぇぇぇ! 新しい水上交通手段を開発していたところなのだよぉぉぉぉ!」


 そう言って、博士はニヤリと笑う。


「エレーニアから海を渡ってヒース湾に降り立てばぁぁぁぁ、グリアまでのかなりの陸路をショートカットできるだろうぅぅぅ!」

「博士……そこまでして頂くわけには……。それに、ラフカも、これ以上私についてくるのは危険だよ」


 そのレンの言葉を聞いて、ラフカは目を吊り上げる。


「なんでレンはいっつもそうなの! 僕を心配させないでって言ってるでしょ! なのに、どうやったって心配なことやめないから、僕はレンについてく! ずっとずっとどこまでもついてくもん!」

「ワシも今回は協力させてもらうぞぉぉぉぉ! 何しろ、イヴさんの弔いでもあるからなぁぁぁぁ! それに船の走行テストもそろそろ実施したいと思っていたところなのだぁぁぁぁ!」

「レンが勝手だから、僕も勝手についてくだけだもん。ダメなんて言わせないからね、レン!」


 頑なに主張するラフカの様子に、レンは諦めたように溜息をついた。


「わかったよ。だけど、無理は駄目だよ、ラフカ」

「それは僕のセリフだよ!」


 ラフカは真っ赤な瞳に涙を溜めながらベッドの上のレンに抱き着いた。彼女の傷に響かないように、そっと。レンは少し困ったように笑いながらラフカの背中に腕を回し、博士に頭を下げる。


「博士、よろしくお願いします」

「うむぅぅぅ! 準備ができ次第、出航だぁぁぁぁ!」


 博士の宣言に、ラフカとレンは頷き合った。


【第二章 探偵と歌い手は海辺の街を奔走する 終了】

お読みくださって、ありがとうございました。

今回のお話で「第二章 探偵と歌い手は海辺の街を奔走する」は終了となり、次回から第三章となります。逃げたニーシアは何を企んでいるのでしょうか?

ブックマークや評価など頂いた皆様、ありがとうございました。


最近、twitterでの告知を始めてみて、なかなか効果は出ないな……という感触なのですが、このお話を見つけて読んでくださる方、ポイント等で応援してくださる方には本当に感謝です。やる気がアップします!

第三章も引き続き楽しんで頂けたら嬉しいです。

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