表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歌姫な僕と、名探偵な貴女 ~花散る帝都~  作者: フミヅキ
第一章 歌姫と探偵は花やぐ帝都にて出会う
3/38

あの人からもらったリング

 見世物小屋の天幕に帰って来たラフカはその夜、寝具の中でうっとりと溜め息をつきながら、青い瞳の美しい人からもらった指輪を眺めていた。


 剣を扱うためだろうか、彼女のリングはラフカの細い指にはサイズが大きすぎた。本来は客からのプレゼントはすべて親方に一旦渡すルールだが、ラフカはリングに紐を通してペンダントにして首に下げ、ペンダントトップになったリングを服の中に隠した。


(もし彼女に二度と会うことはなかったとしても、このリングだけは誰にも渡さない。これは僕だけのものだから)


 ラフカは服の上からリングにそっと触れながら目を閉じた。



 ラフカの所属する見世物小屋は、ショーを見せる天幕の裏手に団員が生活するためのテントを併設している。


「ラフカ、こいつは何だ!」


 青い瞳の美しい人に出会った翌日、ケチな親方は目ざとくラフカの首もとに紐がぶら下がっているのを見つけた。親方はその紐を引っ張りあげて彼が隠していたリングを発見する。


「えっと……僕が自分で買ったものだよ!」

「お前はそんなモンを買う金、持ってねぇだろうが! ただでさえ、お前に入ってくる金は少ねぇってのに、ドレスだの香水だのに使っちまってよ。男のくせになあ!」


 怒鳴り声と共に、団長の平手がラフカの頬を襲った。バチンと派手な音が鳴った割にあまり痛くないのは、商品を傷付けずに効果的に支配体制を理解させるための手段だからだ。


(失礼な! 趣味の部分はあるけど、ドレスや香水は自分をより高く売るための投資なんだぞ! それに、散財もしてはいるけど、ちょっとは貯蓄もしてるし!)


 こんなことには慣れっこのラフカは、心の中で毒づきながらも、口をつぐんで殴られるままにやり過ごす。団長はラフカの反抗心を挫くまでは殴るのをやめないからだ。


「なんだ、その顔は! 人の話、聞いてねーだろ!」


 バチンバチンと親方はヒートアップしていく。さすがにラフカの頬もジンジンしてきた。


(僕の商売道具(可愛い顔)が腫れちゃう……)


「すみませんでした……。もう勘弁してください……」


 ラフカは屈辱に震えながら、土下座をして親方への降伏の姿勢を示す。いつもであればこれで手打ちだ。親方は満足げにニヤリと笑う。


「だったら、これは俺が預かるからな」

「待って! そのリングだけは許してください!」


 リングの付いた紐を首から引っ張り上げようとする親方の腕をラフカは慌てて引き留める。その瞬間、親方の顔がピクリと不機嫌に歪んだ。


「まだ自分の立場がわからねえようだな? あん? 殴るだけじゃわからねえか?」

「きゃ!」


 親方はラフカを乱暴に押し倒し、床に転んだラフカからクラッチ杖を取り上げる。ラフカはテント内に積んである行李を掴んで立ち上がろうともがくが、その間に、親方は工具箱を漁ってプライヤーを取り出していた。


「お前の体は昨日の客に付けられた傷がまだ生々しいだろうからなぁ。今日は爪を剥ぐくらいで許してやらぁ」

「嘘……! や、やめてください、やめてぇ!」


 親方は、這って逃げようとするラフカの長い銀髪を掴みながら、彼の華奢な体の上に背面から馬乗りになる。まずは工具で紐を引きちぎって赤い石のリングを手中にしてから、ラフカの腕を掴み、綺麗に整えられた彼の爪にプライヤーの金属の歯をあてがった。


「いやだ! おねがいです、やめてぇ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ