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歌姫な僕と、名探偵な貴女 ~花散る帝都~  作者: フミヅキ
第一章 歌姫と探偵は花やぐ帝都にて出会う
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両陛下のご関係

 その時、金管楽器がファンファーレを奏でた。それを合図に舞踏会が始まる。


 残念ながら、足の不自由なラフカはダンスに参加できないが、踊りのお誘い代わりにたくさんの老若男女が話しかけてきた。


「あなたは今日の『リューゲリアの蕾』ですよね? あの歌には感動しました」

「なんて美しい!」

「とても素晴らしい歌でした。本業も歌い手なのですか?」

「普段はどこで歌っているのですか?」

「わたくしにあなたを崇拝することをお許しください」


 中には花束を片手に話しかけてくる者もいた。自尊心を刺激されたラフカは少し立ち直り、やって来る人達に笑顔を振り撒き始める。こんなに多数の人達から好意を向けられたらレンが嫉妬してくれないかしらと隣の様子を窺ってみるが、レンもまた笑顔だった。


「皆がラフカを気に入ってくれて、私も嬉しいよ。ラフカの歌は本当に素晴らしいからね」


 満足そうに微笑むレンに、ラフカは口を尖らせる。


「ラフカ……? どうかしたのか?」

「なんでもなーい」

「そうか?」


 急に不機嫌になったラフカを、レンは不思議そうに見つめながら言葉を続ける。


「ラフカ、申し訳ないのだけれど、私は少し他の人と話をする必要があるんだ。君は舞踏会を楽しんでおいで」

「えー!」


 目を丸くしながら、ラフカは去っていくレンの後ろ姿を見つめた。まさか彼女には誰かダンスの目当ての人がいるのだろうかと、ラフカはこっそりと後をつけて聞き耳を立てる。だが、どうやらレンは、ベリアーダの愛人であるイヴの行方について舞踏会参加者に訊いて回っているようだった。


「あなたは門番の責任者でもありますよね? 私は昨日からイヴという女官の行方を探しているのですが……女官の外出はありませんでしたか?」

「イヴ……ああ、城住み女官の。ここ一週間はどの女官からも宿下がりの申請はなかったな。であれば、城住み女官は城外に出ることはできない」

「こっそり外出したということは?」

「ないな。グリア城には表門と裏門しかなく、出入りする者についてはすべて記録を取らせている。例えば、今日の参加者だってそうだ。君も記録されただろう?」

「なるほど……確かにそうですね」


 レンは難しい顔で考え込む。


(こんな場所でまでお仕事なの!)


 ラフカが不満に頬を膨らませた時、ダンスフロアに大きな拍手が起こった。誰かが興奮気味に叫んでいる。


「皇帝陛下と皇后陛下のダンスだ!」


 ホールを見れば、楽団の奏でるワルツに合わせ、腕を取り合った両陛下が揃いのステップを踏んでいた。


「すごい……!」


 ラフカの口からも思わず感嘆の声が漏れた。


 燃えるような赤髪と輝く金の瞳。同じ容姿の二人が、見つめ合いながら華麗にホールを横切っていく。素人のラフカにもわかる洗練された動きで、二人の呼吸はぴったりと合い、動きがぶれることはなかった。フロアにいる他のペア達が霞んでしまう圧倒的な華やかさ、リューゲリアの花の甘い香りが漂ってきそうな現実離れした麗しさだ。


 皇后ベリアーダが軽やかなステップを楽しむように艶やかに笑うと、冷たい面立ちの皇帝ベリオードの顔にも笑みが滲む。


 ダンスが終わると、ホールは歓声に満ちた。皇帝と皇后は微笑み合い、耳に何かを囁き合ってから、互いの頬にキスをして離れた。


「すごいなぁ。なんだか、住む世界が違うって感じがする」


 ラフカはうっとりと溜め息をこぼしつつ、両陛下は仲がよろしいのだなと、微笑ましい気持ちになった。しかし、皇后の次の行動を見て彼は「ん?」と首を傾げることになる。


 皇帝と別れた皇后ベリアーダが手招きすると、彼女の周囲に女性達が集まりだした。若い女性から年配の女性まで、黒髪で美しい容姿の、どちらかと言えば豊満なスタイルの人ばかりなのだが、皆、やたらとボディータッチが多い。ベリアーダもご機嫌な笑顔で女性達にしなだれかかったり、ハグをしたりしている。


(もしや……あちらのご婦人方は全員、ベリアーダ様の『愛人』なのかしら。ナイスバディな黒髪女性がお好みなのか……)


 夫の同席する空間でこんなにあからさまなことをしてもいいのかと、ラフカは不安に思いつつ、ベリアーダの兄であり夫でもある皇帝陛下の姿を探す。


 ベリオードはホールの一角で近衛騎士団と思しき制服の男子集団を侍らせながら、ダンスに興じる人々を眺めていた。


 近衛の男子達は皆、しきりに皇帝陛下に話しかけつつ、同時にベリオードに熱い視線も送っていた。ベリオードは彼らの言葉に頷きつつ、時には冷たい表情を緩めて口の端に笑みを浮かべたり、近くの男子に耳打ちで返事を返したりすることもあり、そのたびに騎士達は色めき立った。有事にあっては両陛下の盾となり、そのための鍛錬を怠らず、鍛え抜かれた肉体を持つ近衛騎士達が、まるで乙女のように皇帝陛下を見つめ、その言動に一喜一憂している。


(あれってもしかして……皇帝陛下は皇帝陛下でお楽しみがあるってこと……かな?)


 色々な事情が垣間見えるダンスホールで、ラフカはだんだん疲れを感じるようになってきた。


「ちょっと僕、お手洗いに行ってきまーす」


 鼻の下を伸ばして話しかけてきたどこぞの御曹司を軽くいなしつつ、ラフカにはクラッチ杖を突いてホールを出た。

お読みくださって、ありがとうございました。

次回、ラフカが何らかの事件に巻き込まれる予定です(明日更新予定)。

今までのお話をお気に召されたようでしたら、また読みに来ていただけると嬉しいです!


フミヅキ

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