四話
魔物。この世界にはそう呼ばれる存在がいる。そう言う私たち『集合体』も、分類上では魔物にあたる。
魔物とは、その身体に魔石を持っている生物のことだ。魔物の他には、魔石を持たない動物や、魔石を後天的に手に入れた魔獣なんかがいる。
ちなみに母曰く、人間は動物で、人間が魔石を取り込んで生まれた魔人は魔獣なんだとか。この世界にも人間はいるのか、と思うと同時に人は人じゃないの? と思って聞いたら心底不思議そうな感情と、なに言ってんだこいつ? みたいな感情が伝わってくると同時に
[じゃあ君は犬のことを、魔物でも魔獣でも動物でもなく、犬族って呼ぶの?]
と言われた。
……確かにそう言われてみれば、私は犬のことを動物と呼ぶ。そして猫も象も鼠も、犬と同じく動物と呼ぶ。身体の大小や知性や体色など、そんなものは全部無視して。
だったら、そこに二足歩行で、しかも知性の高いだけの生物、人間を入れてもいいのではないか? 所詮、動物や魚類などの分類も、人間のエゴで作ったものだから。
と、なんだか納得してしまったので、人間も動物の一種という風に覚えることにした。
閑話休題、ただ母から聞いた話だけでは、魔物も動物も魔獣も、大した違いはないと思うかもしれない。でも、魔石の有無、そして先天的に魔石を持っているかどうかで性質などが全然違うらしい。
まず魔石とは、高濃度の魔力の塊であると同時に、魔力を扱う上でその動きを補助する触媒である。そしていざという時は魔石から魔力を搾り取って使うこともできる。ただ、魔石の魔力は回復速度が遅く、そして高濃度の魔力、すなわち他の魔物などの魔石を取り込まなければ回復しないから、魔物はめったに魔石から魔力を取り出そうとはしないらしい。
そして耐性を持たない者にとっては、魔石の魔力は猛毒となり得る。
だから動物は、魔石の魔力のこもった魔物の肉を食べることができない。動物が後天的に魔石を手に入れた存在である魔獣は、本来魔力に耐性を持たないはずの動物が魔石を取り込み、運良く生き残った結果生まれた、かなり珍しい生物である。
その性質上、魔獣は動物の延長線上にある。本来動物の持つ姿形からは大きく逸脱しない。そして、特定の種族がいない。どんな動物が、どんな魔石を取り込んだのかによって性質が全く異なるから、せいぜいが犬型の魔獣、鳥型の魔獣、虫型の魔獣と言った風にしか区別できない。全てがオリジナルな生物なのである。
しかし魔物は動物にルーツを持たない。だから魔物は、一見すると摩訶不思議な姿をしていることもある。私たち『集合体』が良い例だ。こんな肉塊のような見た目をして、尚且つ複数の生物で一個の生物として機能する動物はなかなかいない。
ちなみに、魔物にはオリジナルな個体は少ない。きちんと、『兵士』なら『兵士』、『医師』なら『医師』、フィクション作品から引用するがオークならオーク、という風な種族がある。例外は、『兵士』として生まれるはずだった私のように、変異した者しかいない。
魔物や動物や魔獣は、強さも全然違う。魔力は身体能力を強化することも、直接の攻撃手段とすることもできるため、単純に総量が多い生物の方が有利である。
そのため一概に全てが当てはまる訳ではないが、動物が一番弱く、次に魔獣、最後に魔物の順で強くなっていく。特に、動物と魔獣の間にはかなりの差がある。ちなみに魔獣と魔物の間には大した強さの違いはない。
なぜ差が出るのかというと、それは魔石を持つ生物の特徴にある。魔石を持つ生物は、他の生物の魔石を取り込むことで大きくその力を上げることができるからだ。動物はなにかを食べるだけではその力を引き上げることはできないが、魔物は魔石を食らうだけでその力がどんどん増していく。魔石を取り込める生物とそうでない生物の間に差が出るのは火を見るよりも明らかなことであった。
ここまで長々と説明をしていたが、つまりなにが言いたいのかというと
[弱いままだとすぐに死ぬから、強くなるために魔物を狩らないといけないの]
簡単に言うと母にそう言われたのだ。ちなみに生まれて五日目のことであった。三日目に身体の動かし方を覚え、四日目で少しコツを掴んだかな? と思った翌日、目が覚めた私に言った言葉がそれであった。
……あの、生まれたばかりの私を連れての狩りって、相当難易度高くありません?
私の言葉は当然のように無視された。そして、母は他の『兵士』を纏い操作しながら、洞窟内を徘徊し始めた。
い、意外とスパルタなんだね、お母さん……。
なかなか本編に行けぬ! 説明回が続きます。もうしばらくお付き合いください。
五話は日曜日(8/8)に投稿します。