一話
大幅改訂しました。
流れはあまり変わってないと思います。
暖かい。
唐突に意識が戻ると同時に、ふとそんな感想が頭をよぎる。
(……あれ? ここはいったい……?)
少し混乱しているようだ。勉強のしすぎで寝落ちでもしたのだろうか?
なにか情報を得ようと辺りを見回そうとして、気づく。真っ暗だ。日本で生きていれば滅多に出会うことがない、本当の、純粋な闇だ。
ますます頭が混乱してくる。私は、こんなに暗くなる部屋には居なかったはずだ。夜だったとしても、そしてカーテンを閉めていたとしても、その隙間から街灯の光が差し込んでくるはずなのだ。
蛍光灯のスイッチを探して手を伸ばす。……が、おかしい。手の感覚がない。
どころか、しっかりと意識をすれば身体全体の感覚がおかしくなっているように感じる。頭の中は、すでに疑問符でいっぱいだ。
だから、身体がどうなっているのか少しでも確認するために、更に意識してみる。
手は、ない。先ほどと同じだ。腕も、ない。片方だけでなく、両方とも感覚がない。通りで手の感覚がない訳だ。変なところで納得。現実逃避とも言う。
次は脚。しかし脚も見つからない。首……も動かないらしい。
(な、なんだ? なにが起こってるの?)
ますます混乱していく頭。だって、そりゃそうだろう? ただ寝ていた(寝たという明確な記憶はないが)だけなのに、気がついたら真っ暗闇の中で、手も脚も首も動かない。人間の頭が処理できるレベルをとうに越えている。
次いで、恐怖が押し寄せてきた。前に、人間は光のない空間にいると発狂する、ということを聞いたことがある。
私のいる空間はまさしく闇。光なんて微塵もない。こらえきれない恐怖が押し寄せてくる。きっと手足が無いこともそれに滑車をかけているのだろう。手が、足が、ほんの少しでも動いてくれれば少しは気が紛れてくれるだろうに、どちらも今の私にはない。あるのは、背中を突く岩のような冷たい感覚だけで。
(あぁ……あああ……あああああぁ!)
どうやら喉もないらしい。心の底から叫び声が上ってきたのに、声が出ない。
やがて私は恐怖で失神したのか、それとも発狂してなにかが壊れてしまったのか、唐突に意識が闇の中に呑まれてしまった。
■
目を覚ますと、目の前には異形の化け物がいた。
「ウギャ!(うわぁ!)」
あ、どうやら今は喉は無事らしい。人間とは思えないけれど、なんとか声は出た。あ、それとなんか目も見えてる!
(……って、そんなこと考えてる場合じゃないって!)
私は声が出た嬉しさもどこかに投げ捨て、ノリツッコミをした後、目の前の化け物から少しでも離れようと試みる。が、どうやら喉と目は無事でも、手足は無事ではなかったらしい。思うように……というか全く後ろに下がれない。
と、私が必死にもがいているうちに、化け物は私が動いていることに気づいたらしい。化け物がその身体を蠢かせ、振り替える。そして大口を開けて私に迫ってきた。
(ああ、もうだめだ)
が、しかし、人間よくわからないところで冷静になることがあるらしい。
唐突に頭がスッキリとして、世界の真理を発見した賢者のような達観した思考で(現実逃避とも言う)化け物を観察する。
化け物は、本当に化け物としか言い様のない姿をしていた。言葉で表すばらば、そう、スーパーで買ってきた豚肉や牛肉で山を作り、そこに乱雑に目玉やら触手やらを配置して、それを腐らす寸前まで放置いていたような見た目をしている、と言えばいいか。まあ、結局一言で化け物と言えば済む姿をしている。もしくはナメクジを多数集めて、壁状に押しかためたようなものと言えばいいかもしれない。
私がよくわからないことを考えているうちに、化け物は私の目と鼻の先まで来ていた。
なんとか現実逃避をして恐怖感を無くそうとしていたけれど、どうやら現実逃避では、もうこの恐怖感を抑えることはできないようだ。
ーーそして、私は化け物に食われた。
と思ってたけどなんか意識がある。
(……あれ?)
首を傾げようとして首が無いことに気がつくが、そんなことはきっと些細な事だろう。
(なんで私は……はっ!?)
その時、恐るべき考えが浮かぶ。すなわち、
(こいつまさか、獲物をいたぶりながら少しずつ食べていくような質の悪いタイプの化け物!?)
否定する材料はなかった。こんなヘンテコな生物(本当に生きているのかはわからないが。だって肉塊だし)がいること自体、非常識なのだ。その生物が、どんな特性を持っていても不思議ではない。
と、その予感を裏付けるように、化け物の口内から一本の触手が生えてきた。先端には鋭い針が生えている。嫌な予感しかしない。
触手は私の考えたことに対して、まるで正解! とでも言っているかのように、楽しげにゆらゆらと揺れながら近づいてくる。
ゆっくりと貪るように食われるのは、きっととても痛いだろう。痛いのは嫌だ。どうせ死ぬのなら、一思いに殺して欲しい。
奥底から沸き上がる恐怖心が、身体を動かそうとする。でも、手足がない身体では後ずさることもできなくて。
ーーそして私は化け物とひとつになった。
二話の改訂版は日曜日(8/2)に投稿します。