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蠢く蟲の姫  作者: こまこま ろにの
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十六話

 キメラ擬きがすやすやと眠っている。


 あれから何体かキメラ擬きを補食した私たちの体調は、すでに万全と言ってもいいくらいに回復している。が、だからと言ってそれは目の前にいる無防備な獲物を逃がす口実にはならない。次にいつ獲物を見つけられるかわからない生活をしている今、見つけた獲物は狩らなければ、余裕の無くなったときに死ぬのは私たちの方だから。


 だから私たちは、キメラ擬きを狩るために動き出した。


 ■ ■ ■


 大量に発生した虫型の魔物を討伐しながら、【幸運の羅針盤】は奴らが出てきた痕跡を探していた。


 と、その時大きな羽音が複数聞こえてきた。


「またキラービーか! 何度も何度もうぜぇなぁ!」


 戦士風の男が叫ぶ。


 キラービー。それはこの魔の森に生息する主要な魔物の一種で、小さく強く、そしてなにより数が多い。だから、怪力だけが取り柄のグラブリンを狩れるからと言ってこの森に入った低級の冒険者が、この蜂の魔物に食い殺されましたって話は彼らの所属する街では珍しくもなんともない。


 が、彼ら【幸運の羅針盤】のランクはB級。この森の攻略難易度も、推定B級。適正レベルである。

 キラービー程度の群れは、めんどくさいということを除けば簡単に蹴散らせる相手である。


「切り裂け、《飛刃》!」


 実際に、戦士風の男が叫びつつ、その剣をひと振りしただけで、複数匹のキラービーが真っ二つに切り裂かれた。飛刃とは気を武器に溜めて、武器を振るう瞬間に解放することで、不可視の斬撃を放つ技だ。

 が、キラービーはそんな一太刀で殲滅できるほど少なくはない。キラービー全てを追い払うのに、男は何度か剣を振る羽目になった。


「気だって無限にあるわけじゃねぇんだぞ!」


 気。それは身体能力や、魔力の質や量で魔物に劣る人間が、それらの脅威に対抗すべく生み出した技である。他にも、人間は魔力の質を高めるために魔力を練り込む方法を編み出した。魔力を練れば質が高まり、その分魔法の威力が上がるが、その分魔力の総量は減ってしまう。だから魔力を練り込む必要はあまりなかったのだが、昔誰かが気というものを見つけた。

 気とは、体内で魔力を練るとき、特殊な方法で練ったときに発生する副産物的なものである。もちろん魔力は体外に放出していないから魔力効率は良いし、魔力を練って量が減っても、質が高まるため魔法として放出する場合にも影響はない。


 気を見つけてからは、誰もがその使い方を模索した。より強力に、より効率的に、より使いやすく。

 そうしていくつも世代を越えて研鑽された気は、今では魔力と並ぶほど研究が進み、使い勝手のいいものとなった。もちろん使い手も魔法並みに増えている。


 が、気はなにも利点だけがあるわけじゃない。魔力を使い過ぎたら気絶するように、気を得るために魔力を練り過ぎた場合、高濃度に練り込まれた魔力によって身体が蝕まれる。高濃度に圧縮された魔力は、魔物の持つ魔力と似たような効果があるためだろう。


 だから、気も無限じゃない。無限にあったとしても、それをいくらでも使えるわけではない。その前に身体が魔力に耐えきれなくなり、朽ち果てる。もし高濃度の魔力に耐性があった場合は、人ならざるモノに変化してしまう。

 虫型の魔物の発生源になにがあるかわからない以上、いらない消耗はしたくなかった。


「おいカール! ここは走って一旦撒こうぜ!」


 戦士風の男、アンガスは叫ぶ。


 魔の森の魔物は確かに腕力は強いが、そのかわりになぜだか皆一様に鈍足なのだ。その足の遅さは低級の冒険者でも逃げ切れるほどだ。あまり奥に入らず、囲まれないように行動さえしていれば、この魔境から生きて脱出することは、実は容易いことなのだ。

 なぜそれなのに低級の冒険者が多数キラービーに殺されるのかというと、奴らはあまり浅い部分まで出てこないからだ。だから知らない間に、ここまでは大丈夫だ、まだ浅いところにいる、と思って深くまで潜ってしまった冒険者が、ついにはキラービーと出会って囲まれてしまうからだ。

 魔の森の魔物は、逃げるだけならともかく、いざ戦おうと思った場合はB級以上のランクが必要になる。


 声をかけられた金髪の男、カールはうなずく。


「そうだな。俺たちの今回の仕事は魔の森の魔物の殲滅じゃない。あくまで新種の魔物の発生源を探ることと、できればそいつらの親玉を倒すことだ。イザベラとパウラも問題ないよな?」


 イザベラと呼ばれた青髪の女はにこりと笑い、言った。


「カールが決めたことなら、あたしは付いてくよ」


 パウラと呼ばれた赤毛の女は眠そうな目を向けてうなずいた。


「そっちの方がめんどくさくなさそうだしね。いいよ」


「よっし。そんじゃあさっさと親玉見つけて、なんか証拠でも見つけて、帰って旨い物でも食いに行こうか。さすがにもう硬いパンは食いたくねぇしな」


 カールがそう言うのと同時にアンガスが剣を振り、辺りのキラービーを蹴散らした。そして一行は魔物を撒くため、走り出した。

次回は火曜日(9/8)に投稿します。

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