十五話
魔物を狩り、その肉を疲弊した『兵士』が食らい、そして魔力は私が取り込む。
当初ではそこら辺の小石よりも小さかった私の魔石は、今では直径が一円玉くらいまでは大きくなった。
それに伴い、私の身体能力や魔力が一気に上昇した。
まず身体能力の方は、最初は動きが緩慢で人間でも簡単に捉えられるくらいだったが、今では一般人相手なら、一緒に走ればほとんど勝てるだろう。
魔力の方は、なんと身体を分解しなくても『集合体』全体を回復させられるようになった。一回きりだし、全快にはならないけれど。
前は言い忘れていたけれど、魔力を用いての回復は自分にかけた場合は身体強化系に含まれるが、体内で肉体の修復という仕事を行っているので、魔力消費が激しい。だからそう何度も使えるものではないのだ。
しかしいくら私が強くなったとしても、それ以前に母の方が遥かに強いので、私の力を当てにする日はしばらく来ないだろうけれど。
私はそう思いながら、キメラ擬きの魔石を噛み砕いた。瞬間、口の中に旨みが……広がらない。まるで味のしないあめ玉のように、ガリガリとした食感を残して消えていく。が、なぜだろう、美味しく感じるのだ。
魔石は不思議な物だ。味はしないし、匂いもない。しかし、なぜだかこの無味無臭の物体が美味しくってたまらないと思ってしまう。
これは私だけがそう思っているわけではなく、母も味はしないけど美味しいと言っていた。
強くなるのに必要な高濃度の魔力を、身体が無意識のうちに求めているのだろうか? 本当のところはわからないけれど、美味しい物を食べて強くなるのならば、それに越したことはない。
私たちはキメラ擬きをすべて腹に収めると、新たな獲物を探しに、洞窟内の徘徊を開始した。
■
一方その頃、魔の森の中に四人の人影があった。
金髪で大きな槍を持ち、部分的ながらも鎧を着ている端正な顔立ちをした男。
青い髪をした、シーフのように身軽な服を着て、しかしその手には杖を持つ女。
茶髪で盾と剣を持ち、野性的な笑みを浮かべている戦士風の男。
赤毛で、いかにも魔法使いですといった出で立ちの、とんがり帽子が特徴的な女。
彼らは魔の森の凶悪な魔物を蹴散らしながら、とある目的を果たすべく、歩き回っていた。
「こいつら、いったいどこから湧いてきたんだろうな?」
と、戦士風の男が蛹状の魔物の角を持ち上げ、言う。
「どうでもいいけど、早く終わらせて帰りましょうよ」
と、青髪の女がめんどくさそうに言う。
「早く帰って新しい術式を……あ! なんか閃いたかも!」
と、あたりの警戒もせずにどこからかノートを取り出した魔法使い然とした女が。
「どうでもいいけどケガだけすんなよ? ポーションとかもったいないし」
と、金髪の男が言う。
彼らはボガイヤの街のB級冒険者である。
B級冒険者とは、人外の域に片足どころか両足を突っ込んでしまった超人が至ることのできるものだ。
つまり、彼ら全員が超人である。そこいらの適当な樹木程度であれば簡単にへし折れるし、やろうと思えば岩でも素手で砕ける。B級冒険者同士が本気で戦えば、辺りは更地になると言われているほどだ。
が、しかしそれほどの力を持った者たちの中に、一般常識が通じる存在はほとんどいない。つまりは、ある程度以上の力を持つ者の中には奇人変人がいる……どころか、ほとんどが変人の類いなのである。
そういう彼らも我が強く、ギルドの緊急依頼も受けないことがあるなど、問題行動も起こす。
緊急依頼とは、ギルドが身分を保証するかわりに、街などに危険が迫った時に発令される、強制力のある依頼である。だから、実力不足などの明確な理由がない限り、絶対に受けなければならない依頼だ。
彼ら四人はボガイヤの街の唯一のB級冒険者であった。それ以上の冒険者はこんな辺境の地にはいない。実力のある冒険者はダンジョン国という、ダンジョンの多数ある国へと流れて行ってしまう。
だから彼らは調子に乗っていた。街では彼らを止められる存在などいない。だから平気で緊急依頼をばっくれるし、それを咎められる存在もいない。
今回は金欠になりかけていたところに大金を積まれたから受けただけであって、普段であれば受けることもなかっただろう。
彼らは先ほどから出てくる、新種の虫型の魔物を討伐しながら、少しずつ奥へと進んでいく。
次回は金曜日(9/4)に投稿します。