27 和解?
「大体、王様に会えるって喜んで何がいけないの?」
「は?」
「この間の事! 私が浮かれてたら王妃がなんだのって言って急に怒り出してさ。意味わかんない。アレクとの話を聞いてたとしてなんでそうなるの?」
「あれは……」
私の突然の攻勢に驚いているのか、ライナスは僅かに口ごもった。
「王妃になってほしいと言われて浮かれてたのではないのか?」
「はあ? なにそれ」
「だが俺は確かに……」
ライナスの言葉をぶった切り、強い語調で言い返す。
泣いている女の子は強いのだ。
「そりゃ少し前に王妃になってとかそんな話してたけど、アレクのあれは挨拶みたいなものでしょ? そうじゃなくて、私は王様から異世界に帰る方法について話が聞けるかもしれないって喜んでたの!」
「そ、そうなのか?」
「そうよ! 王様が特別に会ってくれるってアレクから聞いて、謁見の時は周りに人もいて込み入った話はできなかったけど、グランシア王国の国王なら異世界からの召喚について何か知ってるかもしれないからって……!」
「わ、分かったから落ち着け!」
興奮しすぎてひきつけを起こしそうになる私の肩を、ライナスが慌てて押さえる。
彼は部屋の中に水差しがないことを確認すると、すぐさま魔術で水とコップを作り出し私に飲むように言った。
言われるままこくこくと水を飲むと、まるで乾いていた大地が潤うような心地がした。どうやら泣いたことで随分と水分を失っていたらしい。
「もっと」
私が空になったコップを差し出すと、ライナスは大人しく追加の水を作り出してコップに注いだ。
ようやく落ち着きを取り戻してライナスを見上げると、彼はまるで叱られた犬のように項垂れていた。伏せられた耳が見えるようだ。
「その……すまなかった」
謝罪を受けて、ようやく誤解が晴れたのだと安堵した。
信じている人に信じてもらえないのは辛い。信じてほしいと思っているだけに、なおさら。
「じゃあ、もう怒ってない?」
「怒ってない」
「ひどいこと言わない?」
「言わない。本当に悪かった。俺は……悔しかったんだ。アズサは元の世界に帰りたいといつもそればかり言っているのに、アレクシスのためになら残るのかと思うと冷静じゃいられなかった」
「どういうこと?」
ライナスの言っている意味がうまく理解できず、私は首を傾げた。
「だから……俺のためには残ってくれないのに、アレクのためならいいのかと嫉妬した」
その言葉に、私は呆気に取られてしまった。
「ライナス……私に残ってほしかったの?」
驚いてそう問えば、ライナスも驚いたように目を見開く。
「そうに決まってるだろう。俺はアズサが行くところならどこへでもついていくと言ったはずだ。だが異世界にまで行けるかどうかは分からないから……」
「ちょ、ちょって待って! それってもし一緒に行けるなら、異世界にまでついてきたいってこと!?」
驚いて問えば、ライナスは素直に頷いた。
魔王を倒した後もライナスがついてきてくれているのは、魔族以外にはてんで抵抗力のない私を心配してくれているのだろうと思っていた。
それがどうだ。ライナスは日本までついてきたいという。
「そ、それは……異世界に興味があるからってこと? 知らない世界を見てみたい的な」
理由を問えば、ライナスは苛立たし気に首を振る。
「違う。俺は異世界だから行きたいんじゃない。アズサと一緒にいたいんだ。どうして分からないんだ。お前は俺が魔族だから人の気持ちが分からないというが、お前も相当だぞ」
驚いたことに、ライナスに鈍い認定をされてしまった。
私はどうやら理解したと思っていたライナスのことを、まだまだ全然分かっていなかったみたいだ。
「ご、ごめん」
向こうが謝っていたはずなのに、なぜかこちらが謝る羽目になっていた。なぜだ。
「と、とにかく部屋に戻ろう。今日はもう疲れたよ」
様々なことが起きて疲れ切っていたのは本当だ。
けれど部屋に戻ろうと提案した理由はそれだけではなかった。このまま二人でこの部屋にいるのは、どうにもよくない気がした。
たまに優しいライナス。何を考えているのか分からない魔族のライナス。
一番最初に旅の仲間になった彼のことを私は心のどこかで庇護者のように思っていたけれど、それはもしかしたら違うのかもしれないと考えを改めた夜だった。