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24 夜会スタート


 それから夜会当日まではあっという間だった。

 何があったかよく覚えていない。ただ分かるのは、ライナスと一度も喋っていないということだ。

 正直これはかなり堪えた。ライナスは口数が多い方じゃないけれど、出会ってからはほとんど毎日顔を合わせてなにか会話をしていたのだ。

 けれどここ数日、避けられているのか一度もライナスに会うことはなかった。

 私も拒絶されるのが恐くて、直接彼の部屋を訪ねる勇気は持てなかった。


「大変お似合いですよ」


 アレクがつけてくれた侍女さんが、私にドレスを着せ髪を整えてくれた。どうせ似合わないと言ったのだが、彼女はどこからか私の髪の色と同じ黒髪の付け毛を調達してきてくれたらしい。エクステみたいなものだろうか。

 とりあえず、付け毛を付けてもらったおかげでドレス姿でもあまり違和感はなくなった。慣らしたのがよかったのか、コルセットもそこまで辛くはない。

 ただ、めいっぱい締め付けられているので食事は無理だろう。水を飲むので精いっぱいだ。

 用意されたドレスは白に銀糸で刺繍を入れた華やかなものだ。まるでウェディングドレスみたいで落ち着かない。

 最もこちらの世界には、結婚式のドレスは白という決まりはないようだけれど。


「少し派手じゃないですか?」


 不安になってそう尋ねたのだが、侍女さんは優しく笑うだけだった。


「とても素敵ですよ。自信を持って」


 そう言われると、気が進まなかった夜会も少し楽しくなってくる。

 たとえお世辞だったとしても、似合っていると言ってもらえるのはやっぱり嬉しい。

 会場への入場はアレクが私を、ライナスがターニャをエスコートするという段取りが決まっていた。

 王子であるアレクにエスコートしてもらうのは、グランシア王国と聖女との友好を招待客に示すためだそうだ。

 難しいことはよく分からないが、よく知っている相手なのでそこまで不安はない。

 不安なのはむしろ、久しぶりにライナスに会うことの方だった。


「アズサ!」


 部屋から出ると、ターニャが待っていた。ライナスとアレクも一緒だ。


「これはこれは。今日は私に君をエスコートする栄誉を与えてくれてありがとう。姫」


 アレクが跪いて手の甲に唇を寄せたりするから、私は恥ずかしさのあまりその場から逃げ出したくなってしまった。

 アレクはどうしてこんなに恥ずかしいセリフを恥ずかしげもなく言えるのだろうか。

 慣れか? 慣れなのか?

 言われた方がダメージを受けるなんてなんだかずるいと思う。


「ほんと綺麗だよアズサ!」


 同性のターニャがそう言ってくれると、なんだかちょっと安心できた。

 そういう彼女は、ぴったりと体のラインが出る黒いドレスを身に纏っていた。手には同じ色のレースの手袋をしている。彼女自身は快活で裏表のない性格だが、ドレスを纏った彼女はひどく蠱惑的で私までドキドキした。


「ターニャこそ、すごく綺麗だよ」


 思ったことを正直に述べると、ターニャは照れたように頭をかこうとしたので慌てて止めた。折角綺麗にセットアップされているのに、崩れてしまったらもったいないと思ったのだ。

 そんなやり取りの間も、ライナスはずっと不機嫌そうな顔で黙りこくっている。

 綺麗だと言ってくれないかと少しだけ期待したが、無駄だった。

 そもそもライナスは美しい顔なんて鏡で見飽きているだろう。

 変な期待をしちゃだめだと自分に言い聞かせ、夜会の会場である大ホールに向かう。

 通常の招待客が使う通路ではないため、廊下に他の招待客の姿はない。けれど沢山の人の気配がが少しずつ近づくにつれ、緊張で体が硬くなるのが分かった。

 あんなに優雅に歩くようにと指導されたのに、一歩歩くごとに体が石になっていくようだ。

 そういえば魔族の中にも体を石に変えるやつがいたなとか現実逃避めいたことを考えていたら、私をエスコートしてくれているアレクがにっこりとほほ笑んで言った。


「硬くなることはないよ、アズサ。君は王の賓客なんだから、誰も君の行動に難癖付けることなんてできない。みんな芋だと思うがいい」


 私が緊張しているのが伝わったのだろう。

 緊張をほぐすようにアレクが言うが、上品な顔に満面の笑みをのせて『芋』などと言われてしまってはこちらは苦笑するしかない。

 それでもおかげで少し力が抜けて、気持ちが楽になった。


「アレクシス・フォン・グランシア殿下、聖女アズサ様、戦士ライナス様、冒険者ターニャ様のお越しです」


 いい声をした侍従が私たちの名を叫ぶ。

 すると会場に詰め掛けた人の視線が、一気にこちらに向くのが分かった。

 まずは四人で国王に挨拶に行くことになっている。勲章の受勲と夜会を開いてくれたことにお礼を述べるのだそうだ。


「うむ。今日は存分に楽しんでくれ」


 国王に直接話すチャンスはまだめぐってきていない。挨拶の順番が詰まっているのか、この場では一言交わしただけで終わってしまった。

 夜会が終わって落ち着いたら、約束通り時間を取ってもらえると願おう。

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