22 謁見
国王に謁見できたのは城に滞在し始めて三日目のことだった。
「おお、そなたらが魔王を倒せし勇者か。面を上げよ。直答を許す」
ターニャとライナスと三人で跪いていると、深みのある低い声をかけられ促されるままに顔を上げた。
そこにいたのは、アレクと同じ金色の髪に王冠をのせた壮年の王だった。玉座に座すその姿は、国王の名にふさわしい威厳が感じられる。陰険なクレファンディウスの王とは大違いだ。
そして王の隣には、アレクがにこやかな顔で立っていた。
正装なのか、白い騎士服を身に纏ったアレクはとても凛々しい。
「陛下。紹介させてください。向かって右から冒険者のターニャ。戦士のライナス。そして異世界から召喚された聖女のアズサでございます」
事前の打ち合わせで、ライナスが魔族であることは伏せておくことになった。無用な混乱を防ぐためだ。
そしてアレクの言葉に、周囲からどよめきの声が上がる。
警備を担当している近衛兵たちが、目を剥いて私を見ているのが分かる。きっとその中の何割かは、私のことをライナスの従者だと思っていたに違いない。
ちなみに国王たっての希望で、私たちは特におめかしすることもなく旅装のままだ。
といっても間に二日もあったので、洗濯して清潔な状態ではある。
「ほほう。『疾風のターニャ』か。その年で女だてらに二つ名を持つとは大したものだ。さすが白金クラスの英雄よ」
その言葉に、私は王が私たちについてしっかり調べさせていたことを知った。
「恐縮です」
ターニャは普段のキャラクターが嘘のように、取り澄ました顔で受け答えしていた。冒険者となれば依頼主が貴族であることもあるので、もしかしたらこういう場には慣れているのかもしれない。
「そして戦士ライナスよ。我が息子アレクにも勝る剣の腕を持つと聞いておる。滞在中に、ぜひ我が騎士団に稽古をつけてくれまいか」
広間にまたどよめきが起こった。
確かにアレクの剣の腕は一流なので、それに勝るという言葉が人々の驚きを誘ったのだろう。
実際にはライナスは剣以外にも何でもこなすオールラウンダーだ。特に欠点らしい欠点はないが、人間ではないからか協調性と常識という点において大きな欠陥を抱えている。
ライナスがなかなか返事をしないので肘で小突くと、彼は諦めたように小さく返事をした。
「了解した」
最後に王は私を見ると、優しい目をして口を開いた。
「そして異世界より召喚されし聖女よ。此度の魔王討伐。まことに見事であった。この国を代表して、礼を言う。ありがとう」
万感の思いを込めた言葉は、王が嘘偽りなくそう思っていることが痛いほど伝わってきた。
自分の跡継ぎである息子が旅に同行することを許したほどだ。グランシアの王がどれほど魔族に対して危機感を覚え、対応を苦慮していたかはその行動からして明らかだ。
うまく言葉にならなかった。
こんな風に真正面から感謝されたのは初めてだ。
クレファンディウス王から裏切られ、私がしたことは何だったのだろうと虚しくなることもあった。どうしてこんな思いをしなければならないのかと。
けれどそれが、ようやく報われた気がした。
私が苦労して成し遂げたことは、やはり無駄ではなかったのだ。日本へ帰ることは未だ叶わないけれど、少なくとも私はこの世界に住む人々を救うことができたのだ。
顔が燃えるように熱く、少しでも気を抜けば涙が零れそうだった。
そんな私を、旅を共にした仲間たちが心配そうに見ている。
「ありがとう……ございます」
言葉につかえながらどうにかそれだけ言うと、私は顔を隠すために俯いた。きっと涙をこらえてひどい顔をしているに違いないから。
「うむ。かれら英雄の業績を讃え、四人には勲章を与えようと思う。これを記念して余が主催する夜会を開く。危機が去った喜びを皆で分かち合おうぞ!」
広間に歓声が上がった。
その中で私は一人、俯いてグランシア王の優しさを噛みしめていた。