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20 いつものやりとり


 とりあえず素性を誤魔化すのは諦め、彼らに私がその聖女だと思うと告げた。

 彼らは口にこそ出さないものの、不安や疑いの色を隠そうともしない。

 まあ突然こんなちびっこが聖女だと名乗ったところで誰も納得しないのは経験上よく理解している。

 旅の間はそれが有利に働くことが多かったが、こうして味方――というか仲間の部下にまで疑われてしまうのはちょっと切ない。

 とにかく目立つのは避けたいからと、騎士の一団には案内役を残してお帰り頂くことにした。

 残されたのは、頬にそばかすが残るまだ若い騎士だ。

 不安そうにしている彼には申し訳ないが、今から聖女っぽい代役を連れてくるわけにもいかないので私で我慢してもらわなくては。

 ちなみにそれらの話し合いをしている間、ライナスは終始不機嫌で彼らを威圧していた。

 騎士たちがこちらの願いを聞き入れ大人しく帰ったのも、その威圧があったからのような気がしてならない。

 安易に周囲の人を威圧しないでほしいと思いつつ、正直助かったというのが本音だ。あのばっちり武装した騎士たちに護衛されて城まで行くなんて、いくら馬車に乗るとはいえまるで罪人の護送である。そんな事態は絶対に避けたい。

 宿を出た私たちは、青年に御者をしてもらい見事な細工が施された馬車にのった。これまた先ほどと同じように、王家の紋章が彫り込まれた立派な馬車だ。

 ゆきすぎる街の人々は、一体どんな貴人がのっているのかと馬車の中を覗き込もうとしているのが見える。

 これでは騎士たちに帰ってもらった意味がないじゃないかと、私は頭を抱えたくなった。

 まあ徒歩の護衛がいないので、馬車をゆっくり走らせる必要がないのは唯一の救いだったが。

 ともあれ、こんな立派な馬車に乗せられるくらいなら服装ぐらい整えておくべきだったと後悔する。

 目立たなくするための旅装は、馬車に据え付けられたふかふかのベルベットの座席にあまりにも相応しくない。


「相変わらず派手好きだな。やつは」


 ライナスが吐き捨てるように言う。

 彼が言っているのは私たちの招待主であるアレクの事だろう。仲間ではあるのだが、どうも一緒に旅をしていた頃からライナスとアレクは折り合いが悪かった。

 服装も、銀髪金眼のライナスが好んで黒系統の服を身に着けるのに対し、金髪碧眼のアレクは白系統の服を好む。

 偶然長期滞在することになった村で、それぞれ〝黒王子〟〝白王子〟などと呼ばれていたのを私は知っている――ちなみに、その子たちはアレクが本当に王子であることを知らなかった――。

 無事馬車が城に着くと、降ろされた正面入り口は庭園が整備された見事なものだった。

 本当に自分がこんなところに来てよかったのだろうかと不安になる。

 それは御者をしてくれた騎士も同じだったようで、馬車から降りるために借りた手は少し震えていた。


「俺がやる」


 そう言って、ライナスは青年を押しのけ私に手を伸ばす。

 その顔は相変わらずの無表情で、やっぱり何を考えているか分からないのだった。

 その時。


「アズサ! よく来たな!」


 そう言って私たちを出迎えたのは、アレクことアレクシス・フォン・グランシアだった。

 王子様直々に出迎えにくるなんて恐れ多いと思いつつ、久しぶりに見た仲間の顔にほっと安堵のため息が漏れる。

 こちらの習慣であるハグを交すと、アレクの力強い手で抱きしめられた。


「よかった。クレファンディウスでのことを聞いて心配していたんだ」


 どうやらアレクは、かなり早い段階で私たちの窮地を耳にしていたらしい。ありがたいと思いつつも、なかなか離してくれないので居心地の悪さを覚える。


「よう二人とも、昨日振り!」


 そしてアレクと一緒にいたのは、昨日別れたばかりのターニャだった。

 ちなみに再会の感動しきりなアレクの手を、ライナスが抓ったことで私はようやく解放されたりした。

 そういえばアレク以外とハグをしたことはないので、もしかしたら上流階級の礼儀作法の一種なのかもしれない。ライナスはハグと言うか、転移してもらうときに抱きかかえてもらうことならあるが。


「ターニャ!」


 私は悩みが晴れたからか、闊達に笑うターニャに駆け寄った。


「いやー、昨日の騒ぎがアレクから冒険者ギルドに問い合わせがあったみたい。アズサが来てるなら迎えに行くって聞かなくて」


 どうやら昨日のオープンカフェでの出来事が引き金だったらしい。

 私たちからアレクに会う方法はなかったのでありがたいが、できればもうちょっと地味な方法にしてほしかったと思わなくもない。


「それで? 俺たちを突然呼び出してどういうつもりだ?」


 ライナスの不遜な物言いに、私は慌ててた。

 アレクがわざわざ心配してお城まで招待してくれたのに、これではあまりにも失礼だ。


「ライナス! せっかくアレクが招待してくれたのにどうしてそんなこと言うの?」


 ライナスは返事をせずつまらなそうに黙り込む。

 なんでもかんでも感情のままに行動するのは、彼の悪い癖だ。

 今はまだ身内と使用人の人たちしか周りにいないので問題ないかもしれないが、これが貴族や国王がいる場での発言だったら一体どうなっていたことか。

 この世界の常識が乏しい自覚のある私ですらそう思うのだ。

 人間の何倍も生きているくせに、ライナスはどこか子供っぽくて不安になる。戦闘となればこれ以上頼りになる人はいないのだが。


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