19 もう一人の仲間
「誰だ?」
ライナスが警戒もあらわに低い声を出す。
幸い兜を外しているので、私からでも来訪者たちの顔を見ることができた。
ただ、知っている人は一人もいない。年齢は様々だが、皆一様に口を引き結びただ事ではない迫力があった。
揃いの鎧を着ているところから見て、冒険者ではないだろう。そんな突然の訪問に驚いていると。男たちの中から代表らしい年かさの男が進み出てきた。
「我々は、王宮からの使者である。両名には王宮までご同行願いたい!」
驚いたことに、彼らは城からの使者だった。
どうやら敵意はないようなので、ライナスの陰に隠れつつ扉に近づく。
そして近くまで来ると、彼らの鎧には確かにグランシア王国の象徴である蛇の尾を持つ獅子の紋章が刻印されていた。
彼らが王宮からの使者だというのは、ほぼ間違いないだろう。
だが、警戒を解くことはできなかった。なぜなら私たちは今、クレファンディウスから追われる身だからである。
冒険者ギルドの支部長はああ言ってくれたが、グランシアの国としてはクレファンディウスとの摩擦を避けるため私たちを差し出すことも十分にあり得た。
もし彼らの目的がそれであるならば、彼らには従わずさっさとこの国を出るべきだろう。
対応を決めかねていると、ライナスが私にまで聞こえるような大きな舌打ちをした。
訪ねてきた使者たちは一様に驚いた顔をする。
城に仕える騎士はみな貴族出身だと聞いたことがあるから、まさか平民にそんなことをされるとは思っていなかったのだろう。
といっても、ライナスは厳密には平民ではない――どころか人間ですらないのだけれど。
ともかく、事を荒立てたくない私はライナスの体を押しのけて自分が前に出た。
こういった交渉事は得意ではないが、少なくともライナスに任せておくよりはましだろう。
なにせ彼は、人間のほとんどすべてを取るに足らないものと認識しているので。
「あの、理由をお聞きしてもいいでしょうか?」
とりあえず疑問に思ったことを率直に尋ねてみる。
もし彼らが私を捕縛するつもりなら、ノックなどせず部屋になだれ込みとっくに私たちを縛り上げていたはずだ。
まあライナスが大人しく縛られるかどうかは、この際置いておくとして。
私が顔を見せると、使者たちの顔にわずかな戸惑いが広がった。
「ええと、こちらには魔王を打ち滅ぼした聖女様が滞在していると伺ったのだが……聖女様はどちらへ行かれたのだろうか?」
彼らの困惑の意味を知り、私はがっかりした。
ライナスが顔を背けて肩を震わせている。多分笑っているに違いない。
「聖女様をどうするおつもりですか?」
つい責めるような口調になってしまったのは許してほしい。そりゃあ、こちらの世界には髪の短い女性はまれということは分かっているけれども。
「あなた方は聖女様の従者か?」
「まあそのようなものです。それで、あなた方は誰の使いでここに来たんですか? 私たちがここに宿泊していることはターニャしか知らないはずなのですが、まさか彼女に何かしたわけじゃありませんよね?」
ターニャが彼らに引けを取るとは思えないが、母親を人質に取られたという可能性もある。
念のため警戒を解かずにいると、男の困惑はより一層深いものとなった。だが、彼は最後まで威厳ある態度を崩さず、こう宣言した。
「はあ……我々はターニャ殿から聖女様の来訪を知らされた我らが主――アレクシス・フォン・グランシア殿下の命で聖女様のお迎えに参った」
知り合いの名前に私が安堵するのとは対照的に、視界の端でライナスが盛大に顔を顰めているのが見えた。