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18 招かれざる客


 翌日、私とライナスは旅に必要な物資を買うべく市場を訪ねた。

 日本へ帰る方法を探す旅というと、言うのは簡単だがなんのあてもない旅だ。それがどれくらいの期間になるのか、どちらの方角へ向かえばいいのか、とんと見当がつかない。


「とりあえず、保存食と水を買っとけばいいかな。グランシア王国なら街道もしっかりしてるし、その都度買い足せば何とかなると思うよ」


 ターニャからの受け売りだが、グランシア王国は周辺諸国と比べて街道がきちんと整備されているため、人や物の行き来が活発なのだという。確かにそう言われてみると、クレファンディウス王国で見たより市場の品揃えは豊富だ。冒険者の数が多いのも、彼らを護衛に雇う商人が多いことに起因しているのかもしれない。

 干し肉と固焼きパン。それに水を買い込み、宿に戻る。本当はビタミンを摂取するため野菜を取りたいところだが、野菜は日持ちしないので旅の間はどうしてもこれらの食材がメインになる。

 せめて日本みたいにサプリメントがあればいいのにと思うが、それは贅沢というものだろう。

 大陸の地理が大雑把に記された布の地図を広げ、うんうん唸る。旅の最中に立ち寄った国では、異世界人に関する話は聞かなかった。それは期間が短かったからなのか、それともそんな話自体存在しないのか、判断がつかないが。


「これからどうするつもりなんだ?」


 荷物の整理を終えたのか、ライナスが話しかけてきた。

 旅の荷物は彼が異空間とでもいう場所に収納してくれるので、持ち歩く必要がない。

 ただライナスとはぐれてしまうと一気に命の危険にさらされてしまうので、最低限の食料や水は自分で持ち歩くようにしているのだが。


「どうしようね?」


 私は少し色あせた地図を睨みながら言った。

 ちなみに、この世界に世界地図のようなものはない。あるのかもしれないが、少なくとも私は見たことがなかった。

 国の地理情報というのは国同士の戦争において非常に重要な意味を持つ。なのでどの国も、自国の地図ぐらいは所有しているかもしれないが厳重に管理されておりそう簡単に見ることはできない。

 なので世界地図なんて夢のまた夢。ドラゴンの逆鱗を手に入れるくらい貴重でありえないこととして扱われている。

 この地図は、魔王の城の宝物庫に保管されていたものだ。

 由来は分からないが、とても珍しいものなので頂戴してきた次第である。


「改めて、異世界に戻るなんて夢みたいな話だよね。手掛かりもゼロ。ほんとやんなってくる」


 思えば、魔王を倒すという無茶な旅の最中には、こんな風に途方に暮れることなんてなかった。

 だってやるべきことがずっと目の前に見えていたから。

 魔王を倒して日本に帰る。それだけが縋ることのできる目標で、私の全てだった。

 だから今更日本に帰る方法を一から探せと言われても、どうしていいか分からなくなってしまうのである。

 ほんと返す返すも、クレファンディウス王のやりようは汚いしありえないと思う。


「とりあえず、アレクかクィンに相談してみようかな。困ったことがあったら言えって言ってくれたし」


 名前を挙げた二人は、旅に同行した仲間である。

 アレクは前述したようにこの国の王子で、クィンは様々な魔術に通じる魔導士だ。

 私とライナス、それにターニャとアレク、クィンことクェンティンが、魔王を倒した五人であり冒険者ギルド認定の白金クラスホルダーということになる。


「ただ、頼るにしてもアレクは王子様だからな~。会うのも簡単じゃなさそうだよね」


 とにかくクレファンディウスから逃げることだけ考えてこのグランシア王国まで来たものの、このあとはどうすればいいのかと途方に暮れてしまう。

 旅の仲間を頼ろうにも、王都にそびえたつ城の威容を見てしまうと気後れしてしまうのだ。


「なら行ったことのない国はどうだ? そこになら異世界へ至る手掛かりがあるかもしれないぞ」


 ライナスの発言に、驚いて彼を見る。

 彼がこんな風に旅の行先について意見を述べるのは初めてのことだ。


「急にどうしたの? 今までは気が進まないみたいだったのに」


「いや、アレクシスに会うのにも時間がかかりそうだからな。さっさと移動した方がいいのではないかと思っただけだ。今日の一件で顔が知られたかもしれないからな」


 ライナスが言っているのは、昼間のタチアナの件だろう。確かに白金クラスのターニャと一緒にいたことで、私たちも白金クラスの冒険者だと覚えられてしまった可能性がある。

 白金クラスというのは恥じるようなことではなくむしろ名誉なことなのだが、目立つとどうしても強盗に狙われやすくなったりギルドから厄介な依頼を頼まれたりとマイナス要因も少なくない。

 それでも冒険者ギルドに登録しているのは、今回クレファンディウスからかばってもらっていることを筆頭に様々なバックアップが受けられるからだ。他の国や街に入る際にも、ギルド発行のタグは優れた身分証明として利用できる。

 もはやクレファンディウスの戸籍がなくなった私は、この上冒険者ギルドの登録タグまでなくしたら国を出入国できなくなってしまうのだ。

 というわけで、ライナスの提案は筋が通っている。

 前回は一直線に魔王の元へ向かったので、地図の上には行ったことがない国も少なくない。

 彼の提案を受け入れようかと考えていると、突然部屋のドアが激しくノックされた。

 驚いた私は、ライナスと顔を見合わせる。

 私たちがここに宿泊していることを知っているのは今のところターニャぐらいだ。

 またタチアナと何かあったのだろうかと思いながらドアを開けるべく立ち上がると、ライナスに手で制された。

 軽く睨まれたのは、どうやら少しは警戒しろという意味らしい。

 少しの緊張を覚えつつ対処をライナスに任せると、私は緊急時に備えて先ほどまとめた荷物に小走りで近づいた。

 そしてライナスが扉を開けると、そこに立っていたのは重そうな鎧を着こんだ騎士たちだった。



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