13 仲間との再会
大陸全土に支部を持つ冒険者ギルドは、国に引けを取らない影響力と情報網を持つ。
藁をもつかむような気持ちで問いかけると、ブレインは不思議そうに首を傾げた。
「それは、どういうことですかな?」
そこで、私はクレファンディウスの王と交わしていた約束についてや、魔王を倒して戻ってからのかの国の対応について詳しい話をした。
私たちが追われていることは知っていてもそこまでは知らなかったようで、短くはない話が終わるとブレインは大きなため息をついた。
「なんともまあ、あきれ果てますな。偽りの契約で無理難題を押し付けた上に、達成報酬も踏み倒すとは。それどころか英雄である聖女様を罪人扱い。前々から悪い噂のある方でしたが、そこまでだったとは」
私たちは顔を見合わせてため息をついた。
やっぱり他の人から見ても、クレファンディウスの王のやり様は常識を逸脱しているらしい。
「今のお話は、ギルド上層部に報告させていただきます。このままあの国に好き勝手させるわけにはいきません。誰に喧嘩を売ったのか思い知っていただきましょう」
ブレインが口元に不敵な笑みを浮かべる。
笑い皴こそ寄っているが、その目はちっとも笑っていない。
「それはそうとさっきの情報についてなんですが……」
その妙な気迫に押されつつ、私は慌てて話題を元に戻した。あの王がどれほど人でなしかということよりも、日本に帰る方法があるかどうかということの方が私にとっては百倍大事だ。
「そんな方法あるのか?」
今までずっと黙りこくっていたライナスが、不機嫌そうに吐き捨てた。
まるでそんな方法あるはずがないとでも言わんばかりだ。
普段あまり感情を外に出さない彼がそんな態度を取ることは珍しいので、私は驚いてしまった。
「ああ、そうでしたね。これは失敬。ですが、それは少し難しいですね。まずあなたを召喚したという術式すら、外部には伝わっていません。おそらくはクレファンディウスのごく一部にのみ伝わる秘伝なのでしょう」
その答えに、私はがっくりと肩を落とした。
予想はしていたが、一瞬期待してしまっただけに失望も大きい。
「お役に立てず申し訳ない」
申し訳なさそうにブレインが肩をすくめる。
勝手に期待したのはこちらなのに、謝られるとなんだか申し訳ない気持ちになった。
「いえ、難しいことは分かっていましたから……」
とにかく、これで再び日本へ帰る方法探しは振出しに戻った。
先ほどまで不機嫌だったライナスが妙に上機嫌になっているのが、やけに腹立たしい。さっきから一体何なのだ。
そんな性格ではないと思っていたが、ライナスも多くの魔族がそうであるように人が困ったり悲しんだりしていると喜ぶ性質でもあるのだろうか。
ぼんやりそんなことを考えていたら、突然部屋のドアが壊れそうな音を立てて勢いよく開かれた。私は驚いて慌ててそちらに目をやる。
すわ敵襲かと身構えたが、扉の向こうには見覚えのある人物が立っていた。
「アズサが来てるって本当かい!?」
その声は、私にとってなじみ深いものだった。
「ターニャ!?」
咄嗟に立ち上がり、その名を呼ぶ。
扉のすぐ向こうに、小麦色の肌を持つ健康的な美女が仁王立ちしていた。
真っ赤な髪を一つに束ねて後ろに流し、猫を思わせるしなやかな肢体に動きやすいよう黒くぴっちりとした服を纏っている。
メリハリのある体は同性である私ですら思わず赤面してしまうような完璧な比率で、嫉妬なんて抱きようもないような圧倒的な存在感だ。
吊り目気味な目はまるで宝石のような緑色。
まるで全身から生命力があふれ出ているようなその姿に、私は思わず圧倒されてしまう。
「アズサ!」
ターニャは私の存在を確認すると、それこそ猫のように飛び掛かってきた。逃げる隙も無く抱きしめられる。深い谷間に挟まれ、一瞬呼吸すらできなくなった。
ギブアップと伝えるべく、筋肉で引き締まった二の腕をべしべしと叩く。
「うぐぅ」
「離せターニャ。アズサが苦しがっているだろう」
ライナスのとりなしもあって、私はなんとか窒息前に彼女の腕から脱することができた。私も彼女のことは大好きだけれど、たまにこうやって殺されかけるのが玉に瑕だ。
「ライナスも久しぶりだねっ」
ターニャは笑ってこそいるが、その目は少しだけ潤んでいた。
「二人が追われてるって聞いて、アタシ心配で心配で……」
どうやら彼女の熱烈歓迎は、クレファンディウスでのことが伝わっていたかららしい。
「心配かけてごめんね」
感極まった様子のターニャに思わず謝ると、彼女はそっと目尻を拭い破顔した。
「こういう時は『ありがとう』って言うの!」