予期せぬ発案
たく、今年の五月はどうなってるんだ。
夏みたいに三十度を超えるほど暑くなったと思えば、いきなり二十度を下回るし。
温度変化があまりに激しすぎる。
そのせいで、レンレンがよくお腹を壊すし、僕もいろんなことにあんまり集中できない。
また、あの生徒会に行かないといけないのか。
僕の大切な居場所だから嫌じゃないんだけど、あれがいると、どうにもちょっと居心地が悪いんだよな。
新生徒会が動き出す前日にハルさんに呼ばれて、生徒会に行ったわけだけど、そこで言われた二人が、生徒会にある意味最適とも思えるやつだったからな。
片方は、女子力高め男子、もう一方は俺様キャ全開なやつ。
一応、誰が信用できるか判断するためにほぼすべての生徒の名前と顔は覚えてるけど、あんな二人いたっけな。
だから、顔も知らないやつの名前なんて全く覚えられない。
そうそう、ハルさんに言われた『恋愛をしろ』ってやつだけど、何をすれば良いのか全く分からなかったから、いっくんに相談したら、「好きなように適当に突き進んでいればいつか答えは見つかるから大丈夫」って言われた。
せっかくいっくんの初恋の話を聞けると思ったのに、全然教えてくれないし。
「だーかーら、エアコンはつけないでって言ってるでしょ。それに、僕の机の上にコーヒーを置かないで。置くなら紅茶にして」
「俺様の特製ブラックコーヒーだ。味には自信があるから飲め」
「誰が作ったのでも、コーヒーは飲めないの。カフェラテすら飲めないのに、コーヒーが飲めるわけないでしょ」
「コイと同じか。明日からは紅茶を置いといてやる」
いや、別に朝から置いといてくれなくて良いし。
それに、僕にはいいとしても、ハルさんにまで敬語を使わないかな。
僕は別にしても、ハルさんは誰よりもいろいろ上だと思うけど。
ちなみに、俺様キャラなのが、スバルだ。
一番腹が立つのは、俺様キャラのくせに、顔が良いから僕があんまり文句を言えない。
さっきのだって、言いたいことのほんの一部だし。
エアコンをつけるなっていうのは、僕もだけどレンレンがすぐにお腹を壊す。
僕がお腹を壊しても全然問題ないけど、レンレンだと話は別だ。
イクというのは、スバルよりはましだけど、女子力がそれなりに高いと思う。
僕は男子だから女子力というのがどういうものか完全には分からないけど、とりあえず生徒会のイクの机を見て思ったのは、基本ピンクだらけ。
椅子のカバーも、携帯も、筆記用具に、時計も。
多分、コイの家はピンクだらけなんだろうな。
「ハル、ミーティングの時間だ。早く始めろ」
「了解。えっとそれじゃあ、文化祭の予算は全部活決まった」
「はい。前年度の試合と大会などの成績、部員数、過去の文化祭での使用用途から、算出しました」
「基本的には、問題ないんだが、カケル、最後の特別枠というのは何だ」
「それはまだ確定事項ではないので詳細は言えませんが、今年度は生徒会も文化祭に出店します」
「てことは、屋台とかできるのか。俺様特製焼肉とかも出せるんだよな。よっしゃ、気合入ってきた」
「せっかくなら、舞台とかも楽しそうだし、ミュージカルみたいなのも楽しそうじゃない?」
「いっくん、ここにいる人で歌うまいのとダンスできる人いると思うの」
「それは分かってる。それができるのは、ハルさんだけだってことは」
「一応だけど、俺も踊れるよ。ダンスと歌は得意だし。一応、持ち歌あるよ」
「あ!思い出した。コイって、あの作曲の天才中学生のコイか。なんで気付かなかったんだろ」
「そんなにすごいの?なんか歌聞かせてよ」
「ごめん、今はもう歌えない。でも、曲なら何曲かあるし、一から考えなくていいから大丈夫」
そりゃ、歌えなくなるよね。
一時期ニュースになったかと思えば、あっという間にネットでたたかれる。
作曲もできないくせに、一発屋だとか、才能無い、所詮中学生だとか言ってるやつもいた。
僕は、それでも、コイの歌は好きだった。
CDは全部あるし、多分一番長いこと好きな歌だと思う。
「えっと確かここに...ほら、コイくんのCD全部あるよ。ちなみに、僕がいつも聴いてるのもコイくんの曲だし」
「それは、うれしいよ。でも、それなら僕が今歌を歌えない理由は分かってるでしょ」
「怖いんだね」
「どういうこと?歌うのは慣れてるから怖くないでしょ」
「歌うのはね。僕ができないのは作曲をすること」
「くだらない。なぜお前のことをよく知らないやつが言ったことを気にするんだ。生徒会のやつならまだわかるが。お前は誰の言うことでも気にするのか」
「ちょっと、レンレン言い過ぎ。せめていうなら少し、優しく言ったらどう?」
「そうだ、俺様なんか、誰がなんて言おうと、まったく気にしないぜ」
「あんたはポジティブすぎるだけ。ま、確かにレンの言うとおりだな。俺はコイのことはあまりよく知らないけど、そんなことをいちいち気にしてたらしたいこともできなくなるぞ」
「そうそう、気にするのはいいけど、気にしすぎたら意味がない。誰が何と言おうと、自分の好きなようにすればいい。スバルみたいに好き勝手されるとさすがに困るけど」
「俺様がそんな好き勝手したことあるか」
「まさか、自覚無いの?多分ここにいる中で一番好き勝手にしてると思うよ。その代わりやることは全部やってるから誰も文句は言わないけど」
スバルは俺様キャラだから、何でも好き勝手にして、生徒会に仕事はあんまりしないもんだと思ってた。
でも、仕事は全部丁寧にこなしてるし、僕やレンレンよりも早くできるから、よく手伝ってもらってる。
「よーし。一回だけやってみる。あの曲が最後じゃ満足できてなかったし。これが本当の最後だって思ってやってみる」
「最後っていうのは残念だけど、期待してるよ。コイは一人じゃないんだから。いつも隣にいるんだから、相談してよ」
「じゃあ、一週間だけ待って。テーマはこの生徒会についてでいいかな。それ以外特に今なにもないし」
「うん、それでいいよ。それができたらさ、余裕があれば僕とレンレンのデュエット曲を作ってくれない?文化祭で使いたいから」
「じゃあ、その二曲を作ればいいだね。よっしゃー、ハルさんのために作るぞー」
いや、生徒会のために作ってよ。
それに、僕とレンレンのデュエットにはハルさんは全く関係ないし。
とりあえず、何でも歌をっ作ってくれればいいんだけど。
ハルさんは、さすが生徒会長というべきか、歌もダンスもかなり上手い。
それに比べ、僕なんか全然できてないと思う。
レンレンとカラオケで一緒に歌った時だって、レンレンは上手いのに、僕が下手だからかなり足を引っ張ったと思う。
どうせ、僕は何も普通にできないんだから、全然気にしないんだけど。
僕の隣にレンレンがいればそれでいい。
「そうだ、カケル。文化祭は何をするんだ。俺は歌でも構わないが、お前はろくに歌えないだろ」
「そうだけど、コイが頑張ってるんだから、僕も頑張る。だから、レンレンも手伝って」
「イク、カケルの歌はそんなにひどいのか。普段の話し声を聞いてると、歌を歌えばとてもきれいに聞こえると思うんだけど」
「多分、ハルさんの想像以上のひどさですよ。カラオケでは八十点は絶対に越えないし、ひどいときは五十点台連発しますから」
「そういうことなら、俺様が歌い方を教えてやる。カケル、今日から特訓だ」
「いや、レンレンに教えてもらうから別にいいよ」
「カケルはスバルに教えてもらえ。俺よりうまくなれる」
うー、レンレンに教えてもらいたいのに。
スバルが歌を上手いのはよくわかってる。
ここに来る前にどっかの芸能事務所からスカウトされて断ったらしいし。
そんな奴と僕が一緒にいるのもどうかとは思うけど、レンレンと一緒にいることで少し、下手さが目立たなくなってると思たんだけど、そういうわけにもいかないか。
どうすれば僕でも歌が上手くなるんだろ。
やっぱり、レンレンに言われた通り手遅れなんだろうか。
「一回カケルの好きな曲を歌ってみろ。どの程度ひどいのかそれで決める」
別に、ふざける必要も、本気を出す必要もなく、何をしたところで何も変わらないのはよく知っている。
僕が歌詞をきちんと知っている曲はコイの曲しかないから、それを選ぶけど、僕には難しいのはよくわかってる。
音程を外すのは外すんだが、どっちかというと、音程がずっと同じで変化がない。
上げたり下げたりということが僕にはできない。
「イクが言うだけのことはあるな。できるだけのことはしてやるが、レンや俺様みたいになる保証はない」
「そりゃそうだろうな。そうなったらこっちが引くな」
「今週一週間は歌の特訓だけをして構わないよ。どうせ暇だし、何かあってもレンとイクで片づけれそうだし」
歌は歌えないし、ダンスも踊れないのに、文化祭で何かできるとは思えない。
僕は舞台に立つよりは、マネージメントの方が好きなんだけど。
それに、僕を除く生徒会五人でした方が人数的にもいいような気がする。
やっぱ、六人って多いと思うし、五人なら僕が抜けるだけで済む。
どちらにしろ、一週間だけ頑張ってみるか。
今回を逃したら、もう歌の練習なんてする機会はないだろうし。
ー一週間後ー
僕的にはこの一週間生徒会の仕事をせずに歌の練習をしたわけだから、レンレンほどじゃなくてもある程度はうまくなっていてほしい。
多分コイだって、僕なんかよりも曲を頑張って作ってくれてるんだし、何か成果をあげないと、コイに悪い。
「遅くなってごめん。一応、これが生徒会の曲。こっちはカケルとレンのデュエット。歌詞に不満があったら言ってほしいんだけど」
「ほら、できるじゃん。コイのことを貶してた人たちは何を考えてるのかよくわからない。よし、スバルはピアノ引けたよな。僕の方の成果も見せないとでしょ。スバルお願い」
「おう、俺様に出来ないことなんかないぜ。いつでも大丈夫だぜ」
「あんなにひどかったカケルがどこまでましになったのかな。期待はしたいけど、あれだけひどいとどうにもね」
「あ、レンレン一緒に歌って。デュエットだからレンレンいないと物足りなくなるから」
歌詞は見ながらだけど、初耳の曲だから正確に歌える自信はない。
でも、レンレンが一緒に歌ってくれるなら、失敗なんてするはずがない。
レンレンと出会ってから失敗ということをすることが一切なくなった。
もともと、失敗したと思うことはあんまりなかったけど、さすがに全くではなかった。
別に無くなったからと言って、レンレンが何かをしているというわけではない。
ただ、僕のそばにいるだけなんだけど、なぜかそれだけで失敗を出来なくなった。
「ハルさんほどじゃないが、確かに上達したね」
「生徒会の仕事をしなかっただけのことはあるな」
「カケル、もっと自信を持って歌ったらどう?全然悪くないし、自信を持たないと、せっかくのその声がもったいないよ」
「僕が歌を作ったかいがあってよかった。歌は作ったけど、歌ってくれなかったらどうしようと思ってたけど、そんな心配いらなかったね」
「そりゃ、スバルにあれだけ一日中ずっと練習させられたら、嫌でもうまくなるよ」
ろくに休憩時間はなかったし、朝は六時から夜の日付が変わるころまで毎日練習させられたし。
そのおかげでほかにもできることが増えたんだけど。
「その程度まで上達してれば、文化祭のころには何とか大丈夫だろう。カケル、この前考えてくれた企画なんだが、何とかできそうだ」
企画というのは文化祭でただ生徒会が歌ったり踊ったりするだけじゃつまらないから、ほかにもいろいろグループを作って歌ってもらおうというものだ。
一応、各グループ一人作曲を出来る人を入れることにはしている。
普通は前もって与えられた予算内で何らかの企画をするが、この企画に参加する場合はすべて生徒会が全額負担することにした。
去年の生徒会が異常なほど予算を残したために、今年の生徒会に繰り越しされて使い道に困っていた。
どうせ置いてあっても年々たまっていくし、使う方がいい。
「ほんとにいいの?じゃあ、舞台の設営もするってこと?」
「ああ、ちょうど新しく生徒会の建物を建てるから、ここを改良して、舞台を作れるようにすればいい」
この生徒会がある建物は、五年前に臨時建設した建物だから、そこまで地震などに強くない。
そこで、今年は新しく作り直すことにした。
さすがに、古いのをそのまま壊してしまうのはもったいないから、今年中は置いといてもらうことにした。
どうせ解体するのにも金も時間もかかるし、それにまだ使い道はある。
「他のグループのメンバーはどうするの?カケルのことだから、そこまで考えてなかったでしょ」
「だって考える必要ないんだもん。生徒会でオーディションをすればいいの。まあ、目を付けてるのもいるし」
「面白そうだし、俺様はやるぜ。レンはやんねえの?」
「俺はカケルについていくだけだ。俺には拒否権はないだろ。な、カケル」
「いや、あるけど、レンレンの好きなようにしてくれればいいよ。僕が何かをしたせいで、レンレンの行動が制限されるのは嫌だから」
「イク、俺たちも一緒にやろう。オーディションを受けるのは簡単だけど、することってめったにないからさ」
「珍しく、こいくんがやる気を出してる。何か良いことあった?」
「そうじゃなくて、ほかのグループができたら、グループごとに作曲する人がいるわけでしょ。そうすれば作曲の腕を競えるなって思って、ちょっと興奮してるだけだよ」
「僕はもちろんするよ。今僕が浮かんでる人で何人かいいのがいるし」
「グループの人数だけど、僕とレンレンが六人、ハルさんは五人、いっくんたちは四人ずつね」
全部同じ人数のグループにするのも悪くはないんだけど、それじゃ面白くない。
だから、少なすぎず多すぎない、四から六人のグループにした。
「レン、一応確認しときたいんだけど、カケルがしてるのって、アニメに影響されたことじゃないよね」
「あいつは人には簡単には影響されないが、アニメだけには影響されやすい。特にあいつは、アイドル系と日常系には流されまくる。俺のことを好き好きいうのはそれが理由だ」
「俺と同じだ。やっぱアニメって現実と違うから面白いもんね」
「そういうことか。それであいつの机にはアニメキャラがそれなりにあったんだな」
「カケルがアニメ好きなのは分かったが、そのオーディションはいつやるんだ」
「今からのつもりだけど、ダメかな」
「あ゛?そんな暇あるのか」
「ちょうど、午後から生徒会の仕事は無いんだった。午後は暇だけど、何かしようかと考えてたんだけど」
「ハルさん、オーディションすること知ってたでしょ。午前中が暇なら分かるけど、午後から暇なんてありえないし」
「どうせ、ハイレベルな授業で疲れてるでしょ。午後からたまには休憩ってのも悪くないかと思ってんな」
生徒会役員は特別にハイレベルな授業を受けさせられる。
レンレンは多分余裕だろうけど、生徒会の仕事で授業を全部受けられないから、ハイスピードでその上レベルも高い授業を受けている。
いくら生徒会役員だからといっても、定期考査で成績が一定の基準に達しなかった場合は短くても一週間、長いと半年以上役員から外されることがあるらしい。
『ただいまより、今年度文化祭、生徒会主催特別枠の生徒選抜を行います。内容は各階掲示板に掲示されているとおりです。オーディション開始時刻は13:00開始です』
「これ、本当に来るのかな。来たとしても、変な奴ばっか来そうだけど」
「ま、そうだろうね。審査基準はどうするの」
「自分が作りたいグループのイメージに合わせてくれれば基本なんでもいいよ。ただし、各グループ一人は作曲ができる人を入れること」
「男子だけ女子だけでも、男女混合でもいいの?」
「できるだけ男子だけか女子だけにしてほしんだけど、無理だったらいいよ。男女混合だと、仲悪くなる率が高くなるかもって思っただけだし」
「ちなみに、生徒会が男子だけなのも同じ理由ですよ」
「乙女会という名を崩さないようにも、でしょ。さすが、生徒会って感じ」
「オトメカイ、とはなんだ?」
「乙女会というのは、生徒会のことなんだけど...」
一応、生徒会のことではあるんだけど、毎年生徒会役員には王子様的な男子か、レンレンみたいな可愛い男の娘しかいないから、乙女会と呼ばれるようになった。
僕はどちらでもないから、どう考えてもイレギュラーだし、生徒会にいるとまだそれほど実感できていない。
文化祭で僕のしたいことが出来るなら、それはそれで文句も何もないからいいんだけど。
「始まるまであと十分だから、もう行かないとね。あと、これ。オーディション参加予定生徒の過去成績。これで、ある程度合否決めれるかなって思って作っといたんだけど、いる?」
「役立つ可能性があるならもらいます」
乙女会にはそんなことまでできる権利があったのか。
さすがうちの生徒会ってかんじだだけど、こういうのって、暴走しないかが一番心配。
ハルさんと僕だけじゃなくて、レンレンもイクやコイもいるから大丈夫に違いないけど。
それよりも、オーディションに合格できるような生徒がいるかが心配だ。