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RKL  作者: 乙女恋
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記憶はなくても体は覚えてる

五月の初め。

サクラも散り、葉桜となってしばらくして、数年前よりも忙しくなっていた。

気付けばもう高二になっていて、来年は入試かと思うと、学費も今のうちに貯めておかないといけない。

最終、椿さんに頼めば、一年分くらいは何とかなりそうだけど、あんまり人には頼りたくはない。

人に頼むのは嫌いだし、頼んだら何かを求めてくるかもしれない。

そうじゃない人も中にはいるだろうけど、そういう人は多分僕の周りにはいないだろう。


「かけるん、もう帰るの」


「どっか遊びに行ってもいいけど、この辺何も遊ぶと来ないし」


僕の通っている学校があるのは都会(少なくとも田舎じゃないと思う)にあるけど、近くには高校生が遊べるような店は一つもない。

一番近いところでも、六駅くらい行かないとなかったと思う。


「そうじゃなくて、てかどうせ遊びに行かないでしょ、かけるんは。暇だったら家言ってもいい?晩飯作るからさ」


「そりゃいいけど、泊まれるほどスペースないよ」


稼ぎが少ない高校生に家賃となると、一万でも正直厳しい。

何とかいいところを探せたのは良いんだけど、友達なんか呼べるほど、きれいなとこじゃない。

外から見てもボロアパートだし、同じアパートに住んでた人たちはもう誰もいない。


誰だろ、メールなんか送ってくるのは。

うわ、椿さんだ。


「あ、ごめん。先行ってて、椿さんに呼ばれたから。鍵はいつもの所にあるから」


「待ってても良いけど、椿さんと話すんなら長そうだし先に行ってる」


なんで椿さんと会わないといけないんだろ。

母さんよりは怖くないけど、また別のオーラが出てるし。


ちなみに、さっき鍵を渡したのはイク。

僕の数少ない友達の一人だ。

別にできないわけじゃないけど、あんまり人を信用していないから、必要最低限にしているだけだ。


「遅い!いつまで待たせるつもりだ」


「分かってますよね、さっきまで学校だったんですよ」


「彩から贈り物だ」


「え、母さんから?また、変な物じゃないですよね


「『物』と言うより『人』だ」


「は?まさか許嫁じゃない...そんなわけないか。で、誰なんですか」


「名前はレン。お前の初めての彼女だ」


意味が分からない。

せめて、母さんが勝手に養子に引き取ったとか言われた方がまだ納得できる。


「彼女っていっても、男の子だよね。それでそんなこと言うわけ...」


「前にレンのことを男の子っていうよりは男の娘だなって言ってたみたいだけど」


うわ、止めて消えろ、僕の黒歴史。

なんかだんだん思い出してきた気がする。

カナダに行ったのは確かだし、なんかいろいろあったようだけど、レンのことは全く思い出せない。


「とりあえず、どんな理由であれ、カケルに扶養義務がある。法律上れっきとした弟だからな」



なんか強引に押し付けられたけど、どうしたらいいんだろう。

とりあえず、出来るだけ普通にふるまわないと。

説明しなかったせいで、変に思われても困るし。


「いっくん、たっだいま!」


「かけるん、おかえ...誰、その子」


「えっと...」


「レンだ。お前がイクか。椿から大体のことは聞いた」


ちょっと、勝手に話すのやめてくれない。

僕も隠したいことはあるんだから、弟だとか絶対に言わないでよ。


「かけるん、ちょっといい?レンくんが不愛想なのは良いとして、かねないって言ってたのに、なんで養子を引き取るの」


「なんで養子だってわかったの」


「椿さんの所に行ったってことはかけるんの母さん絡みの話でしょ。それなら、養子しかないでしょ」


「養子って言っても、母さんからの贈者だし。椿さんに言われたら断れないし」


「それは受け取らないわけにはいかないか。でも、かけるんの誕生日ってまだ半年以上あるよね」


「ほら、去年の十六のときのだよ。何か、僕が四月から一緒に住むって言ったみたいなんだけど、そのとこに事全く覚えてないんだよね。もちろんレンのことも」


「確か、学校休んでカナダに行くって言ってたよね。ってことは、かけるんの事だし、レンを見て不愛想なところとか可愛いとか適当なこと言って出来もしない約束をしたんじゃない」


いや、僕がこんな可愛げの無い不愛想な子供を可愛いなんて言うことあるかな。

さすがに、好きとまではいかなくても、可愛いと言うことも無いと思うんだけどな。


「イク、お前はどうしてそんなにカケルのことが分かるんだ」


「なんでだろうね。もしかしたら、幼馴染だからかもね。でも、かけるんひどいよね。約束したのに忘れるとか」


「僕にはその時の記憶が無いんだから仕方がないじゃん。でも、レンは家で一緒に暮らしていいよ。一応僕に扶養義務があるみたいだし。でも、欲しいものとか好きな物をなんでも買ってあげれるか、分かんないけど」


「忘れてても関係ない。約束は約束だ。俺はいつもお前のそばにいる」


本当にそんな約束をしたのかな。

まさか、レンが嘘を言うとは思わないし、思いたくはない。


「ねえ、いっくんはレンが嘘を言ってると思う?」


「嘘を言ってるのはどちらかと言うと、かけるんの方だと思う。記憶が無いからかもしれないけど、少なくともレンくんは嘘を言ってないと思う」


「くんは付けなくていい。それより、カケルがどうして記憶をなくしてるのか教えてほしい」


「正確なことは僕にも分からないんだけど、多分偶然にも不幸が重なったからじゃないかな。カケルの義父が亡くなって、それで僕がかけるんを責めてしまったからじゃないかな。どう考えても僕のせいだと思うんだけど」


「お前は悪くない。カケルを責めたことは良いかどうか分からないが、お前のせいだけで無いのに自分のせいだと思い込むな」


「ねえねえ、二人で何の話してるの。僕も混ぜてよ」


「お前は前と変わらずバカだという話だ。さっさと俺のことを思い出せ、このショタコンが」


ちょっ、僕何か悪いことした?思い出せって言われても、簡単に思い出せたら苦労しないんだけどな。


「レンくん、じゃなかった。レン、何か食べたいものある?晩御飯僕が作るけど」


「食べれるものなら何でもいい」


「それじゃあ、オムライスね。かけるんもそれでいいでしょ」


「いっくんの料理なら何でもおいしいからそれでいいよ。レンが喜んでくれるならなおさらだけど」


あ、そうか。

去年母さんの所に行った時に、レンと出会ったんだ。

さっきレンがショタコンって言ってた意味も分かった気がする。

やっぱり、初恋って叶わないものなのかな。


「かけるんは家族がいて良いよね。かけるんがレンを可愛いって言った理由が少しわかる気がする」


「貧乏なのに、弟が増えたら、苦労しか得れないんだからね。かけるんも、こっちにそんなに来るんだったら、ここに住めばいいのに」


「確かにそれはそうなんだけど...あ、ちょっと出かけてくる。卵切れてるの忘れてた」


「雨降ってるから気を付けてね」


別に、そこまでしてオムライスにする必要ないと思うんだけどな。


「レン、いっくんが帰ってくるまでの間、紅茶入れてあげる。ダージリンとアッサムどっちが良い?」


「俺はコーヒーがいい」


「うわ、じじくさっ。まあいいや。えっと、コーヒーはっと...あれ?」


コーヒーのボトルを取ろうとして、冷蔵庫を開けて気付いた。

卵のパックが丸々一つあるじゃない。

大体、一昨日買ったはずなのに、無いなんておかしいなとは思ったけど。

それに、いっくんと一緒に買いに行ったんだから知らないはずはないし。

まさか、この雨の中どっかに行ったんじゃないだろうな。

いや、いっくんのことだからありえなくはない。

すぐどうでもいいことで悩むし、少しは相談してっていつも言ってるんだけどな。


「カケル、どうした」


「レン、いっくんを探してくるから、この部屋から出るなよ」


「分かった」


いっくんどこ行ったんだろう。

もし走って行ったら、足速いし遠くに行ってるかもな。

いっくんの行きそうな場所ってこの辺ならどこにあるかな。

あいつ、俺には迷惑かけても良いって言ったけど、レンにまで迷惑かけるなよ。

ゲーセンに居ないし、カフェにも本屋にもいない。

もしかしたら、あそこにいるかもしれないけど、さすがにいっくんが行くとは到底思えない。

行くだけ行ってみるか。


「イク、何をしている」


「あ、いや、ちょっと寄り道してただけだよ」


「ここから近くの店まで十分はあるぞ」


「はあ、レンには隠し事は出来ないね。かけるんがあまりに幸せそうだったもんだから、僕もそうなりたいなと思ったんだけど、僕には到底無理だね。家族もいないし、大切にしてくれる人もいないし」


「何を言っている。お前には、家族も大切にしてくれる人もいるだろ。カケルがなぜお前を家に泊めてあげてるのか分かっているのか。あいつは、お前を家族同然に思っている。だから、大切にしたいから、いつでも家に泊めているんだ」


「レン...そうだね。僕はどこかで悩むことを間違えてたみたい。レン、僕に大切なことを教えてくれてありがとう」


まさか、レンに助けられるだなんて全く想像していなかった。

あんなに無口だったレンが、いきなり良く喋るとは思ってなかった。


「あれ、レン、カケルと一緒にいなくていいの?」


「部屋に居ろと言われたが、カケルにお前を見つけられるとは思わないから来ただけだ」


「あ!いっくんいた。レンレンも」


「えっ、かけるんが僕を探しに来てくれたの?」


「そりゃもちろん。いっくん、弟みたいなもんだし。レンレンといっくん以外だったらほっとくと思うけど」


僕はあんまり人を信用できない分、今の所レンレンといっくんとしか話さない。

信用して、裏切られるのが怖いからだと思うけど、どうにも血もつながっていない人を信用することが出来ない。


「雨降ってるし、早く戻ろう。僕、傘差してくるの忘れたし」


「ほんとだ。風邪ひいても知らないよ」


傘を差すのを忘れて雨の中に出るなんて、また僕の悪いところが出てしまった。

一つのことに夢中すると他の事には一切目がいかない。

いっくんを探さないといけないと考えて、傘を差す事なんか完全に忘れてた。

元々、あんまり雨でも傘を差さないから、ちょっとくらい濡れてもいけると思ってたのもあるけど。


「晩御飯作るから、ちょっと待ってね」


「いくらでも待つよ。じゃあ、僕は風呂に...」


あれ、体から力が抜けて...


「カケル、大丈夫か。イク、布団に寝させろ。熱がある」


「雨の中をびしょ濡れで出てくるからそうなるんだよ。レンは大丈夫だとは思うけど、かけるんみたいにならないでよ。悪運は強いけど、鈍感でバカだから」


「それは分かってる。イクを見ても、カケルがどんなに鈍感か誰でも分かる」


まあ、ひどい言われようだな。

かけるんに彼女ができないのは恋愛に興味がないっていうのもあるけど、それよりも鈍感だからだと思う。

かけるんは、なんでこれほど鈍感なのか不思議なものだが。

かけるんは生徒会からスカウトされるほど人気があるけど、かけるんの中では生徒会すら信用していない。

それほど、人を信用できなくなるのも、あんなことがあればしょうがないとは思うけど、もう少し信用してほしいといつも思う。

かけるんと普通に話せるようになるのもだいぶ大変だったし。


「ん?重い...ってレンレン?」


「起きたか。まだ少し熱いな。今日は外に出るな。大人しくしてろ」


「もう平気だよ」


「嘘を言うな。昨日熱高かった。きょうは俺も家にいる。イクは椿に呼ばれて出て行った。代わりに俺が飯を作る」


「いや、それは良いよ。レンレンが料理するのはちょっと想像するだけで怖いし」


レンレンにカナダで一緒にカレーを作ろうとしたら、ジャガイモや人参の皮も剥けないし手を切りそうになるし、鍋で調理させたら火傷をしそうになるし。

一人で料理させたら怖くてそんなことさせられない。


「それより、僕と一緒に寝てくれない。一人じゃあんまり眠れないからさ」


「俺は眠くない。それに、俺がいなくても寝れるだろ」


「いいじゃん。どうせ今日は休みなんだし。ほら、布団に入って」


レンレンには言えないけど、レンレンと出会って初めての休みの日くらい、一緒にいてほしい。

平日は、僕も学校があるし、レンレンには小遣いをあげてるから、本屋か図書館にでも行くと思う。

そういえば、一緒に暮らすのに、レンレンの事あんまり知らないな。

何でもかんでも聞いたら、何かまずいことでも聞きそうだけど、少しくらいならいいか。


「ねえ、レンレン。今何歳なの、それと誕生日いつ?」


「それは必要なことなのか」


「レンレンの学校を決めないといけないし、誕生日も知らないとせっかくの特別な日を祝えないじゃん」


「16だ。誕生日は分からない」


「分からないって,,,まあいいや。レンレン僕と同い年だったんだ。じゃあさ、隣接二項間とか極限、あとは無理関数とかも分かったりするの」


「当たり前だ。微積ぐらいは簡単にできる。化学と物理も彩に教えてもらったから、大学レベルまでは余裕で出来るはずだ」


大学レベルって,,,旧帝大とかじゃなくて、オックスフォードとかハーバードレベルだよね。

あの人、何を考えてそこまで教えたんだろう。

ほんと、意味が分からなすぎる。


「あ、そう。母さんにいい指導受けたんだ。レンレン、椿さんとも相談したんだけど、早かったら明後日くらいから学校僕と一緒に行かない?初めてだから分からないこともいろいろあるだろうけどさ」


「お前、金がないんじゃなかったのか」


「それは大丈夫。レンレンが賢いおかげで、レンレンは特待生だから授業料免除。それに入学金も椿さんのおかげで無しになったし」


「僕もかけるんと同じ学校だから一緒に行ける...もしかしてレンは違うことで悩んでる?かけるんに迷惑をかけないかとかさ。それなら大丈夫だよ。かけるんがレンと学校に行きたいだけだから。だから椿さんに頼んで、同じクラスにしてもらったんだから」


「カケル、本当にいいのか」


「レンレンが行きたいと思ってるなら、僕は一緒に行きたいよ」


「分かった。明後日から、お前と学校に行く。イクも付いて来てくれ。カケルだけでは少し不安だ」


レンレン、それどういう意味?

僕的には初めて学校に行くレンレンの方が不安だと思うけど。

それとも、僕を全く信用してないって言うんだったら、それはひどくない?


僕はまだあんまり入学手続きとかはよく分からないから、全部椿さんがやってくれることになった。

一応、僕の通ってる学校は、上から数えた方が早いくらいの坊ちゃん校だ。

そこの理事を椿がやってるからなのと、レンレンほどじゃないけど、特待生枠で何とか入れた。

とりあえず僕の学校に関して言えるのは、僕を含めて、どこの誰が見ても分かるくらい変な奴が集まっている。

特に生徒会なんかはその頂上に君臨している。

生徒会長は、イケメンで女子からはもちろん、男子からも人気がある。

それだけならあんまり問題ないんだけど、その生徒会長は、この一帯では一二を争うほどの大地主の一家だ。

副会長は、普段から何を考えてるかあんまり分からないし、異様なほど不気味なオーラをまとっている。

他にもいろんな意味で錚々たるメンバーで構成されている。

生徒会は前年の副会長が生徒会長になり、新生徒会長がほかのメンバーをすべて決める。

だからか、生徒会長が変な奴だと、ふつうに生徒会全体が変な生徒会になる。


「レンレン、明日生徒会の役員選抜がある。選抜時に在籍している生徒が対象だからレンレンも、生徒会に入れる間もね。それで、明日は授業が無いし、登校日でもないけど、レンレン学校行く?下見して慣れてる方が良いだろうし」


「そうか、それなら下見には行く。カケルは生徒会に入りたいとは思わないのか」


「そりゃ、入れたら卒業までの成績は保証されたようなもんだから入りたいけど、そう簡単に入れるもんじゃないからね。レンレンなら、その学力と可愛さで入れるかもしれないけど。ま、明日を楽しみにしとこう」



この時の僕はまさか、こんな小さなレンレンとの出会いが、運命を大きく変えるとは全く想像していなかった。

生徒会の陰謀とも知らずに、あんなことに巻き込まれるとは...

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