始まりはプレゼントから
はあ、疲れた。なんでこんなことになってるんだろう。
わざわざカナダまで来たっていうのに、何をしに来たのかよく分からねえし。
春休みだから暇だったのと、ちょうど春休みに希望者のみカナダに短期留学に行けるというから、早く来たはずなんだが。
「レンレン、朝飯食ったら出かけるぞ」
「どこに行く。人混みは嫌いだ」
「大丈夫。レンレンにプレゼントあげるだけだから」
カナダに来て一週間がたって、久しぶりのカナダにも慣れてきたはずだった。
何でこいつが母さんの別荘にいるのかも不思議だが、理由がどうにせよ、不思議な奴だ。
ー1ー
カナダに来た本当の理由は、母さんからの呼び出しだった。
今まで日本に居て電話もメールも連絡を一切してこなかったくせに、今更何を言いたいんだ。
「カケル、こっちに来てさっそくなんだが、頑張れ」
あ?どういう意味だ。
頑張れって何を頑張るんだ。
努力はしてないとは思うが、頑張ってはいると思うんだが。
「お前の部屋は前のままおいてある。ついでにお前にプレゼントを置いといてある。お前の欲しそうなものだ」
「プレゼントって何?また変な物おいてるんじゃないだろうな」
昔、母さんと住んでた時は、誕生日プレゼントって言って、骨格標本だの、謎のミイラ人形だの、日本人形だの、訳の分からないものばっかもらった。
記憶にある限り、俺の欲しいものは一切なかったはずだ。
多分母さんは、感覚が普通の人とは異なってるのかもしれない。
子供が、そんなものを貰っても、どうしたらいいのか分からなくなるだけだってのに。
とりあえず、部屋に行くか。
「ギャー。なんだよ、物かと思ったら人か。母さん、これ誰?」
「レンだ。お前の家族だ。お前の五年分の誕生日プレゼントだ。何か不満か」
「いや、五年たっても母さんは変わってねえなと思っただけ。面倒だし素直に貰っておく」
貰っておくのはいいんだけど、どうしたらいいの。
俺の家族だって言ったって、どうしたらいいのか分からないし。
まあ、今回は人なだけ会話が出来るだけましだ。こういう時は本人に聞くしかないし。
「えっと、レン。What do you want to do?」
「英語で話す必要はない。お前がカケルか。彩から話は聞いている」
「どういうことか説明してくれる?僕の家族ってどういうこと」
「そのままの意味だ。何が分からない」
ちょっとレン、もっと長文で話してよ。
短文じゃ物足りないし。
日本語を話してくれるし、特に不便はないだろうけど、ちょっと不愛想な気がする。
「なんで、僕がレンに任されたのか分からないけど、それは置いといて。レン、何かしたいことある。なんでもいいけど」
「ない。お前が俺にしたいことをすればいい」
「じゃあ、何か好きなことか物ある」
「ない」
「もっと長文で話してくれない。僕と会話にならなくなりそうで嫌なんだけど」
「分かった。できるだけ長くする」
そういってるけど、かなり短文な気がするんだけど。
それより、もうこんな時間か。
ここ、田舎だから空港から遠いせいで、昼飯まだだったし。
「レン、昼食った」
「昼を食うとはどういう意味だ」
「そ、そうじゃなくて。昼ごはん食べたかって聞いてるの」
「まだだ。彩がお前にに作ってもらえと言っていた」
「そうか。じゃあ、昼ご飯はパスタだ。悪いが、その程度しか料理は出来ないんだ」
「構わない。お前が作ったものなら何でも食う。だが、食えるものを作れ」
僕をなんだと思ってるの。
作れる料理は少ないけど、その分味には自信あるんだから。
まあ、パスタなんかはさほど味が変わんないかもしれないけど。
「はい、出来たよ。食べてみて」
「うまい」
もう少し何か、感想が欲しいな。
パスタにそんなに長い感想はいらないけど、もう一言でいいから何か欲しい。
「明日の昼ごはんもこれでいい?今日の晩ごはんはハンバーグだけど、それでいい」
「さっきもいったが、お前の作ったものなら何でもいいと言った」
「はいはい」
最初は不愛想で生意気なやつだと思ったけど、いまもそうだけど、意外と可愛いところもある。
それに、聞いたことはちゃんと答えてくれるし、何も文句を言ってこないのが少しうれしい。
普通なら、まずいとか、要らないとか、文句を言ってくるだろうに、どうして何も言ってこないんだろう。
言われすぎるのも嫌だけど、全く言われないとそれはそれで、言いたいけど我慢してるんじゃないかとか、何か言えない理由があるんじゃないかと、逆に不安になる。
こんなに不愛想だけど、おとなしいんなら、母さんからのプレゼントとしてはまだましな方だろう。
一応、今は素直に喜んでもいいけど、なんか面倒なことが起きそうな気がしないわけでもない。
「おいレン、こんな時間にどこに行くの」
「寝に行くんだ。シングルに二人は狭いだろ」
「だからって、どこで寝る気。外と床はだめだからね」
「他にどこで寝ろというんだ」
「じゃあ、一人で寝るの寂しいから、一緒に寝てくれない?狭くても気にしないから」
「...分かった」
やったー。
でも、レンが一緒に寝てくれるとは思わなかったな。
嫌だって言われると思ったのに。
ちなみに僕は一人では寝れない。
日本にいるときだって、大型犬を飼ってたし――いやあれは一応狼か――修学旅行とかで泊まるときは必ずその犬を連れていた。
学校の先生にも何度も疑われた。
そのたびに、犬と離れて、二週間以上寝ずにいた。
何度もしてるうちにだいぶ慣れたが、最初のときは衰弱死寸前だった。
犬がいないと、寝れないし、二日以上寝ないと、食事がとれなくなる。
「...る...ける...ける、カケル!起きろ!」
「何時だと思ってる。俺は犬と遊んでくる」
「ちょっと待って、朝ごはんは食べたの。それに犬居るの」
「朝ごはんはいらない。犬が見たいなら早く来い」
まだ犬飼ってたんだ。
多分母さんの趣味だろうけど、食事が大変だっていって飼うの止めたんじゃなかったっけ。
もしかしたら、小型犬で飼いやすいのにしたのかな。
「こいつらだ。いつもこの時間に遊んでる」
「いや、レンレン、こんな時間から遊ぶのはいいとしても、これ犬じゃないよ。おもいっきり狼だと思うけど」
「彩が犬だと言っていた」
あいつ適当なことを教えたな。
母さんは家事とか一切しないし、仕事以外基本興味ないって感じの人だ。
まあそんな人がなぜレンレンを引き取ってるのか不思議だけど。
「カケル、ちょっと来てくれ。手伝ってほしいことがある」
「分かった。レンレン、昼ごはん作っとくから、食べるなら帰ってきて」
「暇があれば帰ってくる」
こんなところだから、レンレンが誘拐されるなんてことは無いだろうけど、怪我はしないとも限らない。
その場合は狼たちが連れて帰ってきてくれるだろうけど。
「カケル、まだか!」
「あ、今行く!」
完全に忘れてた。
レンレンを一人で行かしたの、母さんに呼ばれたからなのに。怒られる前に早く行くか。
多分レンレンなら何とかなるだろうけど、怒ったら危険だし。
「で、レンレンと楽しんでたのに、何の用」
「カケル、お前レンに何か余計なことを言ってないだろうな」
「余計なことって何?ご飯作ってあげるとか、一緒に寝たいとかしか言ってないけど」
「それなら、いいが。ちなみに言っておくが、お前レンの世話ができてると思ってるだろうが、昨日あいつ風呂に入ってないぞ」
「え、風呂に入れって言ったのに。何、なんか風呂が嫌いな理由でもあんの」
「さあな。あいつここに来て二か月経つが、いまだに一回しか風呂に入っていない。私が強引に入れただけだけどな」
まさか、レンレンが可愛いのに、不愛想なのって、母さんせいなのか。
喋り方も行動も母さんに影響されたんじゃないだろうな。
「ずっと疑問だったんだけど、俺を半分捨てたような人が、どうしてレンを引き取ったわけ。まさか、今更寂しいとか、もっと愛情をこめればよかったとか思ったんじゃないだろうな」
「そんなわけないだろ。お前は私がこんなところにいるより、日本に行く方が良いと思ったから行けと言っただけだ。向こうでの生活も悪くなかっただろ」
「そりゃ、英語を勉強しないで良い分楽だったけど、それ以外面倒なことの方が多かったよ。校則で髪の色は黒って決まってるのに、元が黒じゃないから、校長に許可貰わないといけないし、髪の色が違うと目立つし、そんなに留学生が珍しいのか、人が集まってくるし。なんかいろいろ大変だったよ」
「へえ、カケルが苦労したんだ。なんか意外だな。カケルなら、苦労することなんて無いもんだと思ってたけど」
「そんなわけないだろ。そんなことより、なんでレンレンを引き取ったの」
「そんなに知りたいか。お前のためだ。いつまでも犬に頼って生活できるとも限らないだろ。カケルのことだから、彼女なんていたとしてもいないようなものだろうし、それなら一緒にいてくれる家族がいれば大丈夫だろ。私は無理だから、レンレンを連れてきた。何か問題ある」
「そうだな、あるとすれば、飼っていた犬は先週死んだ。ここに来たのも半分はそのせいだ。まあ、少なくともレンレンがいるから、文句はないけど」
「レンはどう?カケルの前では話してるようだけど、あれでもよく話してる方だ。ここに来た頃はしゃべらないし、暴れるし、私に噛みついてくるんだ。怒った狼みたいだったけど」
「へえ、あのレンレンがそんなことするんだ。そうそう、最初に言ってた余計なことってなんだ」
「それか。あいつ、親に捨てられたようなんだ。だから、家族に関しては聞いてやるな。あと、あいつ誕生日しか覚えていないらしいから。覚えてないのか、言いたくないのか分からないが、とにかく名前は施設の管理番号を使った。あいつの番号がすべてゼロだったから、名前は『零』の字を使ってレンだ」
「よかった。それだけなら大丈夫だ。聞くかどうか迷ってたところだったし」
僕の前では短文でもよくしゃべってくれるのに、母さんの前では喋らないって、レンレンに何かしたのかな。
普通なら、母さんには懐いてよくしゃべるけど、僕には噛みついて暴れるのが普通だと思うけど。
レンレンはどこで遊んでるんだろ。
よく考えたら、犬と一緒に遊んできていいとは言ったけど、どこで遊んでるのか聞くのを忘れたな。
「母さん、レンレンどこで遊んでるか知ってる」
「裏の森を抜けたところの川にたいていいる。どうした、レンがいないと寂しいか」
「そうじゃないけど、一人で大丈夫か心配なだけ」
「過保護だな。犬もいるんだし大丈夫だ。もうすぐ帰ってくるだろうから、行く必要はないと思うが」
「じゃあ、この近くでレンレン待ってる」
レンレン、本当に一人で大丈夫なのかな。
そりゃあ、少しは過保護にもなるよ。
母さん以外の家族なんてレンレン以外いないんだし。
僕と母さんが二人でいたところで、何にも楽しくないし。
今はレンレンがいるから楽しいだけだ。
「あ、レンレンおかえり。レンレン、なんで裸足なわけ」
「犬が靴を履かないのに、なぜ俺が履かないといけない」
「レンレンは犬じゃない。明日からは靴を履け。僕もお腹減ったし昼ごはん食べよう」
「またパスタか」
「パスタじゃないよ。焼きそばだよ」
「同じだ」
「明日は弁当作るから、持って行ってね」
「いらない」
「じゃあ、犬にあげて良いから。一応犬が食べれるように作っとくから」
そういえば、完全に春休み終わったら日本に帰るつもりだったけど、レンレンはどうするつもりなんだろう。
もし、レンレンがこっちに残るんなら、僕もこっちの学校に行かないといけないし。
「レンレン、僕と日本に行くか、母さんとこっちで過ごすかどっちがいい」
「お前が好きな方を選べばいい」
「僕はどっちでもいいから。レンレンがどうしたいのかが大事なの」
「俺はお前と一緒にいれるならそれでいい」
「レンレン可愛い!もう一回僕に言って」
「いやだ。それとくっつくな。昨日も寝てるとき苦しかった」
「それはごめん。でも、ずっとそれを僕に言って」
「俺がお前のそばにいる限り、言ってほしい時はいつでも言ってやる」
レンレン、本当に可愛い。
僕が誰か何かを可愛いと思ったのは久しぶりだ。
最近、可愛いと思うどころか、何かに興味を持つということさえなかった。
友達なんていてもいなくても同じだし、彼女なんて欲しいと思ったことも無い。
今まで、こんなに楽しいとか幸せなんて感じたことは無いはずだ。
何をしてもすぐ飽きて、ろくに長続きしない。
彼女を欲しいと思ったことがないのも同じ理由だ。
どうせ付き合ったところで、どうでもよくなってすぐ別れるだけだ。
友達だって、いたところで大量にいるわけだし、いなくてもさほど変わらない。
それに、いるだけならまだしも、何かと邪魔をされることが多いし、どちらかというといない方が楽だ。
でも、レンレンには飽きることもないし、いなくてもいいとも思わない。
何というか、特別な存在のように感じる。
でも、なんでほかの人と違うのかが分からない。
「今日も出かけるの。それなら靴を履いて行って」
「いやだ。犬は履かないのに俺が履く理由はない」
「じゃあ、レンレンを置いて日本に帰ろうかな。レンレンそんなに僕に靴を履けって言われるの嫌?僕はレンレンが嫌ならもう言わない。ほら、レンレンに嫌われたくないし。やっぱレンレンは僕より彩に言われる方がいいかも――って」
「――…じゃない。嫌だなんて一度も思ったことは無い。カケル、靴履いて行ってくる」
「いつも通り、昼には帰って来いよ。今日はそばだよ。僕も食べるの初めてだから楽しみ」
よし、レンレン靴履いてくれたし、あとはどうにか風呂に入れるだけか。
最終、僕とレンレンが一緒に風呂に入ってもいいかもしれないけど、そのあとの母さんの反応が気になる。
何言われるか分かったもんじゃないし。
〈数日後〉
まだ、一度も風呂に入れれてない。
最初は入ったふりをしたり、風呂の時間には家の中にいなかったりした。
最近は僕を蹴り飛ばしてでも風呂に入ろうとしない。
靴は素直にはいてくれたのに、風呂はどうして入ってくれないんだろう。
「ねえ、レンレン。どうしてそんなに風呂に入りたくないの。僕でも入ってるのに」
「あそこは暗いし、狭い」
「え、怖いの?じゃあ、僕と一緒に入る?」
「ほう、カケルがレンと一緒に風呂に入るのか。それは見物だな。入ってから、出るまでずっとけられっぱなしだろうな」
「大丈夫だ。レンレンに蹴られまくってそれなりに耐性はついた。ね、レンレン」
「風呂にははいらない。絶対に」
またどうせ、母さんが何かしたんだろ。
ほんと、母さんレンレンに風呂場で何をしたの。
レンレンが怖がるってよっぽどだと思うけど。
まさか、レンレンを風呂場に一人にして数時間忘れてたとかじゃないよね。
母さんなら無くはないだろうけど。
一応僕は何回かされたことがある。
最初は怖かったけど、慣れたら全然だ。
どうせまただろうな、とか考えてられるくらいだし。
「じゃあ、レンレン、僕の身長を当てれたら風呂に入らなくていいっていうのはどう?」
「162㎝だ。正確には161.7だろうけど」
え、なんで分かるの。レンレンどういう特技持ってんの?
「せっかくだからお前に教えてやる。ただの数学だ」
「ああ、そういうこと。僕と最初にあったときに周囲のものと比べて身長を測ったんだ。さすが。じゃあ、僕の番ね。えっと、レンレンの身長は158.9㎝。レンレン、もっと食べないと身長、僕に勝てないよ」
「うるさい。合ってるが、勘だろ」
よく分かったね。
レンレンと会ってまだ一週間経ってないのに、考えずに勘だってどうして分かるのかな。
うれしいような、悲しいような、よく分からないけど、僕がそれだけ単純って事には違いないんだろうな。
「あ、そうだカケル、言い忘れてたが今日の昼飯自分で何とかしろ。私は仕事で今から出かける。レン、カケルの面倒よろしく」
は?
どう考えても逆だろ。
何で僕がレンレンに面倒みられなきゃいけないんだ。
僕は一人暮らしできるんだし、面倒みられる覚えは無いんだけど。
「レンレン、今日もどっかに遊びに行くんでしょ。弁当持って行って。ほら、食べないと小さいまんまだよ」
「分かった。小さいとか言ったら次は蹴る」
そりゃ、残念。
ま、わざわざ蹴られるほど僕もバカじゃないし、レンレンもかわいそうだし言うのはやめとこう。
でも、このままレンレンが僕より小さいのは、ちょっと...いや、このままでいいか。
レンレンは小さい方が可愛いし、何より僕を抜かさないでほしい。
僕の場合は小学校のときからずっと小さかったからあんまり気にしてないけど、レンレンは何か違う気がする。
大体、母さんが養子を引き取るって事すら珍しい。
あの母さんでも引き取るような理由があったのかな。
また一人か。
何にもすることがない。
昔ならレンレンが連れていった犬と遊んでたけど、レンレンがいるとそういうわけにもいかない。
そうだ、せっかくだしレンレンの所に行ってみるのもいいか。
って、あいついつもどこで遊んでるんだ。
いつも、遊びに行くときは何も聞かないからなあ。
どうせ何かあってもあの犬たちがいれば何とかなるだろうし。
暇だし探しに行くか。
適当に探して見つかればそれはそれで面白いし。
「おーい、レン!どこにいるんだ」
当たり前だけど、そう簡単に見つかるはずがない。
僕があの犬たちと遊んでた時、かなり遠くまで行ってたし、ほとんど移動しっぱなしだったから返事が返ってこればそれはただの偶然だ。
もちろん、こういう時のためにすぐに見つけられる方法がある。
僕がこっちに来た時にいつも首からかけている笛は犬を戻すためのものだ。
これさえあれば、どこにいても大体は帰ってくる。
ほら帰ってきた、帰ってきた。
「レンレン!いつもどこに言ってる――っえ?ギャー。こら、お前ら久々だからってやめろ」
さすがに大型犬二頭(いや正確には狼二頭か)も上に乗られたら重い。
昔からいつもこうだった。
いつも川の近くで遊んで、しばらくしたら笛で呼び戻して家に帰る。
これの繰り返しだった。
遊ぶのがそんなにうれしいのか、呼び戻すともっと遊べと言わんばかりに僕を押し倒して上に乗って顔をなめてくる。
「なんで...なんですぐに懐くんだ。俺でも一週間以上かかったのに」
「ふはは、そういうことか。不思議そうな顔をしてるからどうしたのかと思ったら。この犬たちは昔、僕がここにいた時に一緒に遊んでたんだよ。レンレンはどうか知らないけど、いつも川で遊んでたんだよね」
「そうか。お前と同じ場所だな」
レンレンもあそこで遊んでたのか。
そりゃ、あの犬たちのことだから、勝手にレンレンをそこに連れて行ったんだろうけど。
何にせよ、明日からでも一緒について行ってあげよう。
僕だって一人でいても暇だし、寂しいし。
何よりレンレンがそばにいるのが一番だ。
僕は中三まで好きだとか付き合いたいと思ったことがなかった。
一応何度か告られたことはあったけど、その時は意味わかんなかったし、すべて断っていた。
大体好きでもないのに付き合うとか無理に決まってると思うけど。
僕の初恋は自分で言うのもどうかと思うけど、惨めなものだった。
その相手が、偶然にもレンにそっくりで、それにその相手は近所の同級生だった。
恋愛はもちろん初めてだったから、何をどうすればいいのかよく分からなかった。
とりあえず、周りに気付かれなければいいかと思って、普段の会話はすべて英語だった。
確かに、その方が目立つだろうけど、大半の人は格好付けたいだけだと思うだろうと思っていた。
実際ほぼ全員がそう思ってくれたおかげで約一年続いたが、唯一一人だけ気付いたやつがいた。
別に英語が分かるというわけでもなく、勘で気づいたようだった。
だから、しばらくカナダに行って会えなくなるということで別れることにした。
まあ、最初は別れたことを後悔はしたけど、今は全然気にしない。
だって、レンレンがいつもそばにいてくれるんだから。
「電話?母さんか、どうしたの」
『カケル、一つ言ってなかったが、レンは満月の夜には外に逃げ出す。私的には外に出ても構わないが、こんな森の中を迷われたらこっちが困るから、ずっと見張っとけ』
「それはいいけど、僕の体力でレンレンに追いつくか分からないよ」
『そうか、それはお前に任せる。あと一時間で戻るから。じゃ、頑張って』
「前に言ってたけど、レンレンは僕と一緒にいれれば大丈夫でしょ。せっかくならこんな山奥よりもっと都会なところに行かない?日本なら大体は分かるから、そこでどう?」
「それは必要なことなのか」
「僕がしたいの。別にいいでしょ。あ、でもレンレンが人混みとか騒音とかが大丈夫ならいいんだけど」
「そうか...考えとく」
やった。
レンレンと一緒に日本にいれるなんて夢みたい。
「レンレン、せっかくなら僕と一緒に寝てくれない。一人じゃ寂しいからさ」
「分かった...カケル、お前が来てくれてうれしい。彩は俺を引き取ってくれたが、そのせいで仕事の時間が減った。夕食を作ってくれたり、休みの日は一緒に遊んでくれた。でも、カケルが来てくれたおかげで彩は仕事を満足いくまでできるようになった」
「そっか、僕もレンレンと会えて嬉しい。レンレン、可愛いし小さいし、大好き」
「お前はいつまでカナダにいれるんだ」
「十二月までだったはず。じゃあ、それから一緒に日本で住もう」
僕は別に明日からでもいいんだけど、さすがにそれじゃあレンレンも大変か。
レンレンと一緒に住めると思うと、興奮して夜も眠れなくなりそうだ。
でも、レンとした約束をあんなことで忘れてしまうとは想像もできなかった。
十二月になり、僕は日本に帰ることになった。
残念ながらレンレンは母さんと何かをしないといけないようだったから、僕だけ先に帰った。
レンレンは、三月にはお前の所に行く、と言ってくれたからうれしかったけど、せっかくなら一緒に飛行機に乗りたかったな。
日本に戻ったら、レンレンの生活場所を用意しとかないと。
それに、レンレンを通わす学校も探さないといけないし。
一番大変なのは、母さんにも最初日本で暮らすときに言われたけど、日本での生活費とその他学費はすべて自分で稼がないといけない。
そんな状況で、レンレンの学費も、ってなると少し僕にはきつい。
「あれ、もしかして椿さん?」
「カナダはどうだった。レンと何をした」
「え、なんでレンレンの事知ってんの」
「彩とは友達だからね」
椿さんは母さんと同じような正確で、多分二人の間に秘密は無いんだろうな。
それより、もう高校生なんだし空港まで迎えに来なくても一人で帰れるってのに、なんで迎えに来るかな。
「細かいことは車で話そう。早く家に帰りたいし」
三ヵ月後にはレンレンと過ごせるもんだと思っていた。
一番大事なレンレンとした約束なのに、あんなことで忘れてしまうとは思ってもいなかった。