第1話 『俺、転生?』
僕、眞道亀吉。
どこにでも居る普通の高校生二年生とはちょっと違う、所謂変人だ。
元々は小中と陰キャ、無気力で過ごした僕だが、受験勉強でここぞとばかりにハッスル、
不可能と言われた進学校へと入学した。
そこでせっかくだし高校デビューをしようと試みた、陽キャの知り合いに力を借りた。
だが、結果は『普通』の高校デビューとは様相が異なる物になった。
高校一年の自己紹介ではネットで流行っていた外山常一とかいう変な奴の政見放送をマネしてちょっとした話題になったのだ。
『諸君、私が眞道亀吉である。諸君、私に建設的な自己紹介は一切ない! 』
そして少し気が触れているキャラが案外ウケて高校デビューに成功したのだ。
うん、我ならが気が触れている。
その勢いで彼女を作るも当然速攻フラれ、何故かその勢いで生徒会に入ってしまったんだ。
何故彼女に振られたから生徒会に入ったか? 合理的な説明は一切無い。
あえて言うならば、まともな人間へと路線変更しようとしたのだろう、がそれも無駄だっ
た。
今度は学校祭の実行委員長の座席を巡る出来レースで僕が選出されてしまったのだ。
そう、学校祭実行委員長の座についた事で僕は学年を飛び越えた変人有名人になった。
つまり、元陰キャの変人高校デビューがついに学校中での評価としては微妙な名声を勝ち取れたと言える。
今はその学校祭実行委員の仕事をこなして、夏バテ気味で信号青になるのを待っている。
暑い、がそれに文句を付ける気はない、北海道の夏は乾いていて案外悪くない。
僕が手に持っているのは月刊誌の『丸』、所謂軍事雑誌だ。
そう僕こと亀吉はミリオタでもある、宿泊学習では迷彩服を着込み『一部の』層にウケた。
ちなみに『丸』は年間購読契約をしている、書店で買うより少しだけお安くなるのが嬉しい。
だが、最近読んでいる雑誌がちょっと方向性が違うかなと思い始めた。
実は『丸』のメインであるWW2特に太平洋戦争の海戦、航空機にあまり興味がわかない。
本当に関心があるのはWW2ドイツ戦車や現代の主力戦車だ。
むしろ現代の軍事情勢に興味がある。
だから『月刊軍事研究』に切り替えようかと思っている。
『丸』と『月刊軍事研究』どちらも買うことは出来ない、高校生の小遣いは有限だ。
バイト? 残念ながら進学校の生徒にその暇は無いのだ。
この学校祭が終わると三年生は受験モードに突入する、二年もその前哨戦に突入する。
そんな絶妙な時期を迎え、学校祭の仕事をこなした僕が演習に参加している74式戦車のグラビアページをパラパラと流し見している時だった。
「助けてー! 」
幼い叫び声が響く、はっと僕はあたりを見渡す、下校時刻の筈なのだが不思議と人気がない。
声の主は横断歩道の真ん中でうずくまっている幼女から発せられたものだった。
なんてこった、軽トラックが迫っている、ドライバーが幼女に気が付く様子は無い。
そして当の幼女は転んでけがでもしたのか動けないようだ。
当然、僕は躊躇った、信号無視をして飛び出した子供を命をかけてまで助ける義務は無い。
ドライなようだが、助けに行って両方とも死ぬ様なシチュエーションもあり得るととっさに判断したのだ。
だが、その判断も直ぐさまコペルニクス的転回を見せる、幼女は眼鏡っ娘だったのだ。
そう僕は生粋の眼鏡っ娘好きだったのだ、元カノは性格の相性も考えず眼鏡っ娘だから好きなったレベルだ。
覚醒の時きたれり、一切の合理が此岸へと追いやられ、即時に体が動く。
「眼鏡ちゃんが危ない! 」
軽トラが幼女を轢くまで時間的猶予は全くといっていいほど無い。
僕は読んでいた『丸』を投げだし、幼女をスライディングで蹴り飛ばす。
そ5行為の僕への対価は猛スピードの軽トラによる致命的打撃だ、僕は無意識に目をぎゅっと閉じた。
だが、衝撃はいつまで経っても襲ってこない、スライディングの擦れた痛みすらない。
目を開くと軽トラは音もせずピタリと止まっていた、どういう事だろう。
僕は立ち上がり、あたりを見回す、はてどうした事だろう。
「貴方は真の英雄的行為を成し遂げました。どうか一つ話を聞いてくださいませんか」
突如として穏やかな女性の声が響く、否聴覚を無視し脳に直接響く。
「ここです、私はここに居ます」
声に指向性が帯びた、声の主は先ほどの眼鏡っ娘の幼女であった。
「少々お待ちください、私の本来の姿に戻りますので」
幼女はすくと立ち上がり、信じられないことに急速に『成長』する。
背が伸びて彼女の制服が引きちぎれる、すると体から『生えた』スーツが体を包み込む、
黒髪は腰まで伸びる内に金髪へと変化し、やがてショートパーマのかかった短髪へと生ま
れ変わり、黄色人種の肌は白人へと塗り替えられる。肉体は過剰な主張こそしないが、豊
かでくびれのあるものへと変化する。そして肝心の眼鏡の方はラウンド型の眼鏡は骨格拡
大により真っ二つに引き裂かれ、オーバル型の紅い眼鏡が顕現する。
何という事だろう、僕にとって理想的な『知的白人二十代後半』型眼鏡っ娘が現れたのだ。
「私は、とある世界の女神です」
残念ながら僕は神話や宗教に疎いのだ、知っているのは地元の神社と檀家である浄土真宗の念仏の冒頭部分だと言うものだ。
そんな事より僕の関心事はある一点に集められる。
「とある世界の眼鏡? 」
「女の神、女神です。嗚呼、貴方こそ我が世界の勇者にふさわしい」
はぁ、そうですか、という冷静な反応能力は僕にはない。
なにせ素晴らしい眼鏡っ娘が僕に語りかけているのだから、自然と興奮状態になる。
ついさっきまで軽トラに突っ込んだことな一切合切脳裏には無いのである。
「失礼ですが、貴女の目的は一体何なのでしょうか」
僕は普段のキャラ、即ち気が触れているキャラクターを脱ぎ捨て至極丁寧な口調で問いか
ける。
「私は勇者を探しているのです。私の世界は惑星の霊長たるヒトにとある問題がありその
発展が遅れているのです、それを解決してくださる勇者を探しているのです」
ふむ、理解が追いつかない、たかが気の触れたキャラの一高校生に異世界のヒトを救えと
言うのだろうか。
どこかの英雄願望のある軍人でも捕まえて依頼した方がいいのではないか。
「失礼ですが、私は勇者には興味がありません。勇者は蛮勇をもって難事に望み、その問
題を解決したごく一部の幸運なヒトを指す言葉でしょう。残念ながら私は蛮勇を持ち合わ
せてはいません。それに私は一高校生に過ぎません、大層な能力など持ち合わせては居ないのです」
「いえ、貴方がこちらの世界にいらっしゃってくだされば、勇気は目覚めましょう。今の幼子を救った行為が正にそれです」
ふむ、眼鏡の女神様は僕という人間を誤解されているようだ。
「これまた失礼ながらお答えさせて頂きますと、私の先ほどの行為の動機は対象が眼鏡っ娘だったからこそであります。そもそも博愛主義者ではないのです」
「いいえ、『だからこそ』貴方は私の世界の勇者にふさわしい」
自称女神を語る眼鏡っ娘は優しく語りかける。
「なぜなら私たちの世界は眼鏡を求めているからです」
なんということだろう、世界が眼鏡を欲している。僕は少しこの話をまともに聞いてみよ
うと言う気になった。