第1話 0との出逢いそして転生
意識が覚醒していくのを俺は感じた。
そして程なくして目が覚めた。
そこは真っ暗で部屋の中央にパソコンが置いてあるだけの部屋だった。
灯りもパソコンのディスプレイの光だけしかない。
「あれ、俺は勇者として異世界に召喚されたはずじゃ」
そこまで考えたとき、意識を失う前の記憶がよみがえってきた。
「そういえば、閃光に包まれる瞬間に頭の中に声が響いたと思ったら弾かれる感じがしたけどそれのせいなのか?」
俺が疑問を口に出したとき、急にパソコンのディスプレイに文字が表示された。
『その通りさ。斑鳩総司君、僕が君を呼んだんだよ』
「お前は誰なんだ?なんで俺なんだ?」
俺はその文字を表示させているやつはこの場にいないが会話は成立すると確信して問いかけた。
『僕は0何者にもなれない者さ。そしてそんな僕が、君に希望を見たから呼んだのさ』
「何者にもなれない者っていったいなんなんだよ。それに俺にどんな希望を見たんだ?」
『総司君、僕は君の疑問に答えるためにここに呼んだんじゃないのさ。君に力を授けるために呼んだのさ』
明らかにはぐらかされたようだったが、ここがどこかすら分かっていない現状だと0の言うことを聞く以外に選択肢はない状態だと判断して一旦疑問を放置して話を聞くことにした。
「それで俺にどんな力を授けるんだ?」
『そうだね、僕が君に授けるのは力と新たな体さ』
0が言った言葉の中で理解出来ないことがあった俺は、それについて問いただした。
「力は分かるが新たな体ってなんだ!?」
『まあまあ落ち着きなよ。ちゃんと説明するからさ。それにしても君って他の召喚された勇者と一緒にいたときはもっと口調が丁寧じゃなかった?』
「ああ、それは俺って素だとこの口調なんだけど知り合いがいるとどうしても丁寧な口調になっちゃうんだよな」
なんか癖みたいなもんでそうなっちゃってるんだよな。
哲にもゲームの中で俺がこの口調になってて驚かれたもんな。
『そうなんだ。まあそれはいいとしてさ、取り敢えず新しい体を与えるっていうか与えなくちゃいけない理由について説明するね』
「頼む」
『まず君の体には今、神アグネストによって与えられた力が宿っているのさ。その体に僕が新たに力を授けようとしても容量オーバーみたいな感じで与えられないのともう1つ、こっちのほうが重要なんだけど神って自分が力を与えた存在の居場所や行動なんかとか色々分かっちゃうのさ。つまり、君についてアグネストに把握されちゃうってことで、僕の目的のためにこれは邪魔なんだよね。ということで、君に新しい体を授けてその体に僕が力も授けてあげようってことさ』
0の説明は確かに理由を聞けば正しいのかもしれない、俺の意見を考慮しなければ。
「理由は分かった。だけどそれで、はいそうですかって自分の体を捨てるやつがいると思っているのか?」
他人の目的のために自分の体を捨てるやつがいるとはとても思えない。
『ああ、それについては本当に申し訳ないと思っているさ。でも、君もそうするしか選択肢がないのも事実だよ?』
「おい、それはどうい……う?」
俺は疑問を問おうとしたときにあることに気づいてしまった。
今になるまで何故気づかなかったのか不思議なこと。
「まさかっ!?」
五感の感触がないつまり自分の体が存在しないことに。
『そのまさかさ。君は今ここに意識のみ、つまり精神体みたいな状態でいるのさ』
「な、なんでなんだよ!?」
自分の体がないという異常事態に混乱する俺の問いに対する答えは非情なものだった。
『さっきも説明した通り君の体にはアグネストの力が宿っているのさ。だから、体を連れてきちゃうと僕の存在がバレてしまうから仕方なくね』
そんな身勝手な理由だった。
『僕だって悪いとは思っているんだよ。でも、そうするしかなかったのさ』
「……悪いと思っているなら元の俺の体に戻してくれ」
俺は怒りを抑えながら戻してくれと頼んだ。
『それは無理なんだ。一度精神体を引き剥がされた体にその引き剥がした精神体を戻すことは出来ないのさ』
その言葉を聞いた瞬間怒りが爆発した。
「ふざけるなー!!なんでお前の身勝手な理由で体を捨てなくちゃいけないんだ!そもそもお前がやらなければ俺が体を捨てなくちゃいけないことにはならなかったんだ!俺の体を返せよ!……返してくれよ!」
後半は泣きながら怒鳴り散らした。
それでも0には思いが通じたようには感じなかった。
それからしばらくの間俺は、0に対して泣きながら当たり散らした。
それが無意味なものだと分かっていながらも。
『もう気がすんだかい?』
俺の激情が落ち着いたのを感じとったのか0が話しかけてきた。
「……ああ、気持ちの整理をつけることは出来たよ」
取り敢えず言いたいことを吐き出しきって気持ちの整理をつけた俺は、まだ思うことはあるが現状を受け入れることにした。
『そうしてもらえると助かるよ。僕は人の感情っていうものがいまいちよく分からないからさ』
「そうだろうな。分かってたらこんなことはしないだろうし。で、俺の新しい体ってのはどんなのなんだ?」
気持ちの整理をつけたっていってもやはりまだ思うことがある俺は、さっさと0とのやり取りを終わらせるために話を進めることにした。
『それなんだけどね、せめてものお詫びってことで君に選んでもらうことにしたよ。この中から選んでくれいいさ』
そう言って0はパソコンのディスプレイに種族らしきものを表示した。
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・ヒューマン
・ビーストマン
・エルフ
・ドワーフ
・ホビット
・マーマン
・マーメイド
・フリューゲル
・ランダム
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「これは異世界の種族なのか?」
『そうさ、これは君のクラスメイトが召喚された異世界にいる種族で君にも同じ異世界に転生してもらうからその中から選んでもらいたいね』
「分かった。ならもう1つだけ聞きたいんだが、このランダムってなんだ?」
俺はこの種族一覧を見て意味がよく分からなかったランダムについて聞いてみた。
『ああ、それはそのままの意味さ。君が転生する種族がランダムで決まるっていうね。ちなみに容姿やスキルも全部ランダムで決まっちゃうっていう迷惑なオマケ付きだよ』
「なるほど、ならランダムにしてくれ」
ランダムの意味を理解した俺は迷わずランダムを選んだ。
『えっ?本当に?』
「本当にだ」
驚いている0に俺は即答で答えた。
『分かったよ。なら僕としてはそれでいいさ。じゃあ転生させるよ』
0が転生させると言った瞬間頭の中にあの時の声が響いた。
―――汝、我が力を授かりし者よ
―――汝に新たなる生を授ける
その言葉を聞いたら体が光に包まれて新たな何かに変わっていくのを感じた。
そして、しばらくして俺は光の繭から解き放たれた。
『おめでとう。君はフリューゲルになったみたいだね』
文字と一緒に今の俺の姿がディスプレイに映し出された。
そこには、純白の翼を持ち銀髪碧眼の俺がいた。
「これが俺……」
『そうさ、この姿が今の君の姿だよ。あとどんなスキルを手に入れたのかステータスを確かめるといいさ』
俺も気になったので言われた通りにしてみた。
「ステータス」
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名前:
年齢:17
種族:フリューゲル(帝王種)
レベル:1
HP:5000
MP:10000
STR:2000
DEF:1500
INT:4000
MEN:3500
AGI:9000
DEX:1500
スキル:《刀術》《鑑定》《空間収納》
固有スキル:《天下五剣》
称号:《転生者》
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「これって滅茶苦茶強くないか?」
俺は自分のステータスに唖然としてしまった。
『確かに君以外の召喚された勇者と比べたら天と地ほどの差だね。まあ、君は帝王種だからこれぐらいが普通だと思うよ。多少は他の帝王種よりはレベル1の時点では強いだろうけどさ』
どうやらこれが俺の転生した種族関係なく、帝王種とやらでは普通らしかった。
『それよりも君の固有スキルのほうが僕は興味あるな。こんなスキル見たの初めてさ』
一応自分を納得させた俺は0も見たことがないという固有スキル《天下五剣》のほうに意識を向けた。
『スキルなんかは自分で詳細を知りたいって念じれば分かるよ』
詳細を念じてみれば確かに頭の中にスキルについての情報が入ってきた。
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固有スキル《天下五剣》
・童子切安綱、鬼丸國綱、三日月宗近、大典太光世、数珠丸恒次の5本の刀を作り出し使うことができる。
・使い手の強さに比例して刀も強くなる。
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俺は今とてつもなく興奮していた。
『なんか固有スキルとしては期待外れじゃないかな』
0は分かっていない俺の刀に対する憧れを!
「よっしゃー!」
嬉しさのあまり俺は叫び声を我慢できずにあげてしまった。
『ど、どうしたのさ』
「俺は昔から刀に憧れてたんだよ!だからあの天下五剣を自分で使えるなんて嬉しすぎるんだ!」
『そ、それはよかったね』
なんか引かれている気もしなくなかったが、今の俺はそんなことは特に気にならなかった。
『えっと話を進めていいかな?』
何故か0が遠慮気味に聞いてきたけどどうしたんだろうな。
「ああ、いいぞ」
『じゃあ、最後に僕から君に名前を授けるよ』
「そういえばステータスの名前の欄が空欄だったな」
『それはね、新しい君の体はまだ名付けをされてないからなんだよ』
「なるほどな。なら頼む」
俺は名付けを0に任せた。
『なら、名付けさせてもらうね』
―――汝、我がその体に名を授ける
―――ヘルシャフト
0が名前を告げたとき俺の中に何かが刻まれたのを感じた。
多分これが名付けされたって感覚なんだろう。
それにしてもヘルシャフトか、意味はドイツ語で支配者だったかな。
『君にそうなってもらいたくて名付けたのさ』
「じゃあ、俺も期待に答えられるように頑張らないとな」
『いや、君は好きなようにあっちで生きてくれればいいさ』
「ならそうさせてもらう」
『じゃあそろそろ異世界に送るね』
「またな0」
そして俺は光に包まれた。
『また会えるさ。君ならね』
0が何かを言っているのを朧気に聞きながら意識は落ちていった。