3
「まさか日本人がなぁ」
手に3つの皿を持ち、フィッシュフィンガーをくわえた男がこっちに来た。
アーレックだ。
「行儀が悪すぎやしないか」
呆れて言うと、アーレックはアメリカ人お決まりのオーバーリアクションをとる。
「この会場には、お前のように箸を使う文化をもつ民族もいれば手で食い物をわしづかみする民族だっているんだぜ」
「だから、3つの皿を両手にのせて歩き回り、フィッシュフィンガーをくわえながら、友人に話しかける民族がいてもいいと?」
アーレックは口ごもり「かなわねぇな」と、苦笑いした。
「ロム、ネヴアールちょっと来てくれ」そう言って呼ぶと3つのの皿を後輩に渡した。
「食っていいぞ。大方に叱られちまった」
「はは、相変わらずですね。ありがたくょうだい致します」
「アーレック大佐、その見た目に似合わず盛り付けお上手ですね!」
その見た目に似合わずか。確かにアーレックの189cmのがっしりとした体型からは想像できない、繊細な盛り付け方だった。皿の中心に少しだけ盛り付ける、まるで高級レストランの盛り付け方だ。
だからこそ、今日ぼくの目の前にやってきたアーレックは、上品なのか下品なのかよく分からない異様な雰囲気をかもし出していた。
「人は見かけによらねぇんだよ」
口調はきついが、アーレックははにかんだように笑う。
よく笑うやつだ。無意識でも人を惹き付ける力がある。無愛想なぼくには、習得しがたい難しい魅力だ。
羨ましくないといえば嘘になる。
「それにしても、このおれたちが大佐か…」
後輩達は帰り二人きりになった。
「大方くん。思い出話にでも花をさかせないかい?」
芝居じみた言い方でぼくをベランダに誘った。