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人類選別  作者: 輝井真《てるいまこと》
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「オハヨウゴザイマス。只今ノ時刻AM6:00デス。オハヨウ……」

ぼくはデジタル目覚ましを止めた。

さっきまでなんだかおぞましく、しかし懐かしさと安らぎを感じる場所にいた気がする。それは夢だったと思うが、もう景色や登場人物の顔もはっきりと思い出せない。

ただ「人類選別」という単語だけが脳裏に焼き付いている。

「シァハ、今日の予定は?」

全体的に丸いフォルムの生活サポートロボに聞く。世界中の人々大半に、このフォルムはリラックス効果をもたらす。もちろん、ぼくもその例外ではない。倒れても起きあがる起き上がり小法師の要領を踏まえている点にも健気さを感じる。

「ハイ。本日ハ大方様ラ計3名様ノ大佐昇格式典ガ催サレマス。スタートAM9:00カラ。場所ハ首相軍指揮館。タクシーヲ呼ビマスカ?」

「まだいいよ。今日の全国ニュースをつけて」

「ハイ。現在ノ世界ニュースヲ表示シマス。」

シァハの丸くて大きな瞳から平面映像が映し出された。

そのまま、ぼくはキッチンに立った。

食事は自分で作る派だ。最近ではめっきり戦場が多いから、作っている余裕はなかったが、作れるときは自分で作ようにしている。

テレビからは朝にぴったりなクラッシック音楽が流れていた。シァハにこの曲の名前を聞くと「クロイツェル」というらしい。

ゆったりと音楽に浸っているとパンの香ばしい香りがした。出来上がったスクランブルエッグとミルク多めのコーヒーそしてトーストをテーブルに置き、クロイツェルを聞きながらほっと一息つく。


元々家具というか、ものが少ない家だから風の流れや光などの自然が直接入ってくる。それはカタチを変えてぼくの身体の一部になる。

大きな窓にはおだやかな日の光が入っきて、窓を開ければレースのカーテンがゆっくりと、しかし規則的にゆれる。カーテンの揺れが曲と合っていたから、外の風もこの曲を聴きながらつかの間の安らぎを感じているのかな、なんて考えていた。


ぼくも風と同じだ。この平和はほんのつかの間。風はその場にとどまることなく、滞りなく流れる。

それは上昇気流と下降気流の影響であり、自然現象のほかならない。

しかし、風は自然現象という枠組みにとらえられていながら、なにより自由だ。

ぼくと風とはそこがちがう。

18歳のあの日、ぼくは情報部特別調査派遣班という軍の枠組みにとらえられた。いや、100%とらえられたとはいえない。自分から足を踏み込んだともいえる。幾分か自分の意思が入っているのに、自由を求めている自分がいる。

とても、自己中心的だと思う。自分で決めたことに欲求不満を感じるのは自分勝手だ。分かっている。

……だからこそぼくは平和で自由なこの時を愛している。


テレビのモニターに目をやればエジプトの紛争映像がやっていた。「次は仕事場はここかな」なんて独り言を発する。

むごいことを言ったと思った。ちっぽけで誰も気に止めないであろう、しかし恐ろしく冷淡な独り言をコーヒーとともに自分の中へ流し込んだ。


この甘ったるいコーヒーもあの地域の人は飲むことが出来ない。

コーヒーの存在を知らずに死んでいく子供だっている。


なんの力も持たない女子供を殺していく残虐な奴らを止めるのが情報部特別調査派遣班の仕事だ。良いことでも悪いことでもこの世界で起こっている出来事にはかならず根っこがある。そして、それが人為的に行われたことなのであれば、その根っこはかなりの確率でヒトである可能性が高い。

ぼくの主な仕事はそんな根っこ《ボス》を殺すことだ。あいつらの厄介なところは自らの手を汚さずに、巧妙に、間接的に人を殺させるところだ。あいつらは人の弱みにすんなりと漬け込む。

悪だ。

悪を殲滅するのに感情なんて要らない。

──そう、大切な人を守るためにもぼくは感情を殺し続けないといけない。


「大方様AM8:00デス。出発ノ準備ヲシテクダサイ。ホーム機能ヲ発動シマス。」

窓が閉まり風の流れが止まった。
















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