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少年は空を仰いでいた。本日は曇天だが、少年の真上のみ青空を拝むことができる。まるで、ぽっかりと空に穴があいたようだ。
その雲と同じように少年の腹もぽっかりと穴があいている。
空は青だが、少年の腹はすでにどす黒くなっていて、青との対比が出来るほどの鮮血ではない。器に留まることができなかった内臓は外にずり落ちていた。
その近くには女性が、抱いていた彼女の子供と思われる幼子とともに串刺しになっていた。女性の目は閉じることもなく空虚であった。子も母すでに腕は力なく垂れ下がり、もう2人を繋げているのはその銛だけである。
母子ははじめへその緒で繋がっているが、今では銛こそまさにへその緒としての仕事を担っているように見えた。
足に当たったのは人の腕だった。その20mほど先にその腕の持ち主であろう恰幅のいい男性が転げている。顔は下を向いているのに胸は上を向いている。ねじ曲がっている首を見ると缶を潰した時とそっくりだと思った。
見渡す限りの死体。
人というのはとてつもなく恐ろしい出来事でも、慣れてしまえば何も感じなくなる。
冷静。無関心。客観的。
どんなに衝撃を受けても、慣れてしまえぼくのように状況を的確に、なおかつわかりやすく人に伝えることも出来る。
戦場で人が死んでいくのは悲しいことだが、どこかで「当たり前」だと、「仕方の無いことだ」だと、思ってしまう。
そう思っている自分に気づいたとき、ぼくは罪悪感にかられる。
「その罪の意識が人を惑わす」
近くに転がっていた少女の頭がそう呟いた。
「自分がまず何をするべきか、考えねばならぬ」
「罪の意識に逃げるな」
「貴様のとるべき行動はなんだ」
少女の呟きを筆頭にさっきの少年のや母子、男性の死体がぼくに語りかけた。
その言葉でふと我に返る。
「ぼくは軍人さ。本来、罪を償うべき人物を捕獲しないといけない」
「その犯人はもう見つけたの?」
頭が半分吹っ飛んだ少年はぼくの裾を引っ張って聞く。
「あぁ。すぐに見つけた。なんせ、そいつはぼくの目の前で人を撃った。」
「なんでそいつは捕獲で済むの?ぼくは死んだのに、罪人はなんで生きていられるの?」
「殺すよ」
ぼくは微笑んだ。子供に童話をきかせる父のように、優しく。
すると少年は嬉しそうに笑って「だよね」と言った。
「世界にいらない人間なんていない、なんて嘘だ。人類はいつか選別されなければならない」
ぼくが言うと、死者たちは
「さぁ、今から人類選別を行う」
と、声をそろえて言った。