ただでさえ狭い道というのは人に恐怖心を植えつけるのに、それが暗い闇の中であれば尚更だ。いつ終わるのかもわからない永遠の闇。そんなものを連想させられる。
さっきから肩にあたっているものが本なのか箱なのか、はたまた生き物なのか確認することすら出来ないのであれば、もう恐怖心なんてものは別の次元にいってしまう。
元々、この廊下は大柄の男性3人が歩いていても余裕のある広さだった。
それが今では、電子レンジという人がスイッチを押すことによって中の皿がまわり自分が食べたかったり飲みたいものなどを温める道具や、灯油という石油の原油を蒸留する際に出る油をエネルギーにして部屋を温めるストーブ、その灯油を入れておくドラム缶など、とにかく幅をとる大型であり、かつ今では重要文化財となった物をかためているからこんなにも狭くなった。(もちろんそれだけではなく、こけしや鬼瓦、鎧なんてものもある。日本の物が多いようだ。)
しかし、1番場所を取っているのは他にある。「ハムレット」から「ガリバー旅行記」
「銀河鉄道の夜」「ガルガンチュワとパンタグリュエルの物語」など、もう数え切れないほどの本が無造作に積み上げられている。下にある本はこれからも読まれることはないだろう。
古本の枯れ葉にもよく似た、しかし本にしか出せない哀愁であり、愛執をも生まれるあの香りは人の足を止めてしまう形のない力がある。ハニートラップとでも言うのだろうか。一度足を止めればそのまま座り込み別の世界に惹き込まれ、時が経つ。
その本たちは互いに重なり合っていたからだろう。接触していた部分の色はまだホコリがほとんど被らず、鮮やかな色をしている……いや、やはり時は流れているため、色はたしかにあせているがもろに空気が触れていた部分と比べれば断然鮮やかだった。
─君はこの本全てに触れていたのだろうか。この数多くの本に。
そもそも本なんて久しく見た。
紙という概念は忘れ去られてしまったからだ。空間投影に搭載されている視点判別システムにより、昔でいえば人がページをめくろうとするタイミングでページが変わるようになった。いや、スライドと言うべきだな。
人類は自分の手で何かを成し遂げる必要がなくなった。
物理的なはなしでいえば、人類はペンを持つ必要もない。脳でイメージするだけで文章をおこすことができる。それは、赤ん坊のときに埋め込まれた体内式ナンバーAIによって可能になった。
そういえば、先日みたテレビ番組ではシャープペンシルの使い方が分からず尖ったペン先を指に刺してしまう、という場面があった。
全く笑えなかった。
小学生でも当たり前に使えていた文房具が使えない大人。今まで出来ていたことが出来なくなっている。あの、シャープペンシルを指に刺していた人は恥にすら気づいていないだろう。それが、当たり前なのだから。人類というのはこうも簡単に退化していくのだと思うと、永遠に続く闇とたいして変わらないと思った。
ただただゆったりと時は流れている。
今の世界はとてつもなく平和だ。
自然災害なんてものは、歴史書にこのような事がありました程度で書かれている。すでに過去の出来事なのだ。これから起こることのない過去。
それは、戦争も内戦も紛争も同じことが言える。
人類は、死に対して酷く鈍感になった。
今なら直前まで死をも恐れない最強の兵ができるかもしれない。それぐらい今の人類は死に意識が向かない。
空間投影も体内式AIも天災にの歴史も最強の兵も、
すべてこの平和がつくりだした。
ここで、勘違いをしないで欲しい。ぼくは今まで平和に対して割と批判的な発言をしてきたが、決して平和が嫌などとは思っていない。むしろ、守っていくべき世界だ。あの頃とは違う。
ただ─
暗くて狭いこの廊下の先にこれまた薄気味悪い扉が目の前に現れた。ドアノブを引くとギィと音をたてた。
その部屋には廊下とは違う“無”の恐怖がある。一つの窓が月の光を部屋にもたらしている。今日は三日月だ。余談だが、ぼくは暗い部屋より真っ白な部屋の方が耐えられないと思う。
そんな“無”の部屋にひとつの立体投影装置と全面ガラスで覆われたカプセルがある。立体投影装置の下には「平和な世界がきたら」と、人の手で力でペンでそして今はほとんど使われることのなくなった紙で書かれた力強い文字がある。時間が経ちすぎて平和な世界がきたらの続きが読めなくなっているが、ぼくにはわかる。
この文字を見るのも50年ぶりになる。
全面ガラス張りのカプセルの中に君は眠っている。
あきらか人工的に着色された青色のローションのような液体が月の光に照らされ、いっそう妖美に見える。重苦しいその液体に包まれ目をつぶり小さな気泡を一定のテンポで吐く彼の、うなじには1本の管が繋がれている。その管は何かの装置につながれている。彼に聞いた訳では無いから信憑性にはかけるが、おそらくこれが彼の命を繋いでいるのだと思う。
ガラス越しに君へ触れてみた。
─生きている。このカプセルの中で。君はこの世界をどう思うのだろうか。
君が欲しくて欲しくて想い続けても手を伸ばしても届くことのなかった、平和なこの世界を見て何を思う?
ぼくは君の物語が読みたい。
そして立体投影装置の起動スイッチを押した。
皆さんこんにちは!輝井真です!
軽く自己紹介でも…
・学生・アニメ、漫画が大好きです
・尊敬している作家様は伊藤計劃先生です
初めて小説を投稿しましたのですが…言葉を扱うのって難しいですよね……書いていくうちに(とはいってもまだはじめてばかりですが)どんどん自分の勉強不足を感じます…(笑)
まだまだはなしの構成的にも内容的にも幼く、読んでいてヒヤヒヤすることもあると思いますが、あたたかく見守っていただけると幸いです。
これから不定期ですがゆっくりと投稿していきます!もし良ければレビューや感想お待ちしています!
※極度の機械音痴なので返信(?)等が上手くいかない事がありますがご了承ください…