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大男たちのお礼参りを難無く撃破し、大門に復活した彼らがまた襲って来るかと思いきや、生気を失ったたまま呆然と虚ろな瞳で俯いているだけで、襲ってくる様子はない。
すこし物足りなさを感じながらもアカザはクエストを遂行しようと【大地移動】をする。出て来た【世界地図】の海域をタッチして一番近い所から行こうとして、現実でのタタール海峡を押そうとしたが辞めた。
タタール海峡を押して飛ぶところはロシアのマガダン州と呼ばれるところの近くにある町【マルトガ】である。
どちらにしろそこからペットに乗って移動する。
そして、世界地図で見るとほぼ目的地の【ムツ】と同じ距離にある。【ムツ】は現実での北海道と青森の間。津軽海峡に存在するフィールド。
そして、最短で行くとしたら飛行能力があるペットが適切だと考え、【ペットウィンドウ】を目の前に表示し、指でスライドさせ一回タッチして決定【呼び出し】のボタンを押す。
小麦粉が目の前にどっさりと落ちてきたように、白い粉が辺りに舞う。その中から6翼の翼を持ち、尾羽の付け根から放出している紫色の電流が特徴的な幻獣。
【サンダーバード】がアカザの目の前に現れる。
ペットを手に入れる手段は運営の課金サービスで買う方法とイベントやクエスト、レイド《大規模戦闘》の報酬の2通り。【サンダーバード】は後者であり、死んだ者をアンデットとして活用させる存在として【死終夜叉】に捕らえられ、助けたことから協力関係になった。
一人乗り専用ではあるが、飛行速度が他のペットと比べても最高峰で使用時間が1時間と長い。
巨体がチクチクしていそうな毛並で覆われており、【サンダーバード】が羽ばたきをするだけで周りに静電気が放出されバジバジと音を鳴らす。
グラフィックでもアカザの身長ぐらいに高さがあったが、実際に目の前で見るとその巨体に圧倒される。
アカザは【サンダーバード】の背中にある鞍に跨る。アカザの背丈ほどもある巨体だが、ステータスの恩恵か、飛び乗るのにさほど苦労はなかった。
だがここで迷ってしまう。ゲームではキーボードの入力で捜査していたものだから、現実の馬の騎乗の仕方など知らない。ましてや、アカザは前の世界で大型の鳥に乗って飛ぶことなどない。
どうすればいいか分からず、投げ出してしまおうと鞍の後ろに倒れ込んでしまう。落ちないように手綱を握った時、いきなり頭に【騎乗】の情報が入ってきた。
「うぉ!?」
いきなり頭の中に情報を思い出したため、思わず後に下がろうとしたアカザ。すると【サンダーバード】がいきなり後退し始め、鞍の上に倒れ込んでいたアカザは慌てて元の体勢に戻す。すると、【サンダーバード】も後退を辞めた。
スキル【騎乗マスタリ】はペットに乗った時の戦闘に発揮され、乗馬移動しながらの弓矢の命中率やランスの突進攻撃にも影響を与える。
アカザは手綱の操作で【サンダーバード】が動くことを薄々感じ始めた。取り合えず今度は【サンダーバード】にしがみ付くように前傾姿勢を取ると、【サンダーバード】が前に走り出す。
そこから一気に飛べと念じながら手綱を引き上げると今度は翼を羽ばたかせ、一気に上昇し離陸する。
速度と風に一瞬目を瞑ってしまったアカザ。しかし前方確認しないわけにもいかないため恐る恐る目を開ける。
そこには蒼が広がっていた。
澄み渡る蒼が視界いっぱいに広がり、アカザに恐怖や興奮に似た高ぶった感情を与える。
「うぉぉぉおおお!」
堪えることができずアカザは叫ぶ。
飛行機の窓から見る風景とは違う。
プロの写真家が撮った空を見るのとは違う。
吹きつける冷たい大気。湿気を含んだ、しかしジメジメとした感覚はない空間。一面のどこまでも続く澄んだ蒼。
それもこれも経験したことがない体験。
飛行機でもなく、グライダーでもなく、自分が空を飛ぶと言う刺激にアカザは叫ばずにいられなかった。
「おお、お? おおおぉぉおおお!?」
が、興奮の叫びは続かずうろたえてしまう。
いきなり空気の層を破らん勢いで加速しだした【サンダーバード】。滑空飛行から尾の電流を強く輝かせ推進力としたのだ。
【サンダーバード】の飛行速度が最高峰に数えられる理由。
【マナ】【スタミナ】消費なしでの【フライサンダーブースト】がその理由である。
ゲームでは10秒間飛んでいると尾の電流が一瞬爆発し紫色の軌跡を出しながら、ドーナツ状の白い煙を一瞬纏った後【サンダーバード】が加速し、集中線などがエフェクトとして表示される。
そして、発動してからの【フライサンダーブースト】は一度止まらないと解除はできない。理由は常時発動型というパッシブスキルであり、一旦発動すると手動で止めることはできない。
ドーナツ状の白い煙は現実での戦闘機が音速を超えた時に起こす現象。ベイパーコーンと呼ばれているらしい。それを体で感じるアカザは生身でその風に耐えるのだ。ステータスや【騎乗】のスキルの恩恵がなければ今頃、【サンダーバード】に振り下ろされていただろう。
別のペットを呼び出す思考の余裕はなく、数分【フライサンダーブースト】の推進力に振り回され、北へと旅立ったアカザ。
【フライサンダーブースト】の推進力から落ちないように【サンダーバード】にしがみ付いていると、何とかアカザは【フライサンダーブースト】の速度に慣れつつあった。
風景は草原が広がっていた【エチゴ】の大門からだいぶ変わり、強大な湖が見える所をアカザは飛んでいた。
その湖の隣にある、遠くからでも見えるほどににそびえ立つ連山は日本海溝であり、【フォークロア】設定通りの逆転世界であった。
今どの辺なのか【地図】を表示し、左下にある拡大縮小ボタンの縮小を何回か押す。
そうして湖となった日本列島の秋田辺りを進行していた。
【時計】を表示すると【エチゴ】を飛び立って1時間くらいたっていた。後30分もあれば目的地の【ムツ】に行けると思うと同時に、何か忘れているような気がした。
【フォークロア】では1日が現実の1時間である。故にゲームでは日を跨ごうが【サンダーバード】は存続できた。ゲームの1時間は現実での2,5分。
だが、ここはもう現実になりつつある。
攻撃や破壊ができなかったオブジェは破壊できるようになり、NPCは人間性を帯びている。もし【サンダーバード】の呼び出し限界時間が2,5分の【フォークロア】の時間ではなく、アカザが体感するこの世界の1時間であったのなら―――。
【サンダーバード】の体がいきなり白い霧となって消えてしまった。
「へ?」
いきなり大空に放り出されたアカザは、一瞬のことで思考が回らず落下する。
「うそぉおおお!?」
急いで何か打開策がないかと考えるが、パニック状態の思考なため空回りしてしまう。
「だぁあああああ!」
そのまま減速する手段が思いつかず、地面に激突したアカザ。一瞬周りの木々が揺れる。
森の奥に落ちたらしく、繁々と育った木々は大樹であり光を遮り少し薄暗い。湿り気と木々の匂いが充満しており鼻にくる。
「ああぁ……あれ?」
上空から地面に叩き付けられたはずなのに、アカザはいつも通りに動け、骨折や打撲による痛みもない。精々全身がピリピリと痺れる程度だった。
「やべぇ。ステータス万能すぎ」
高高度から落ちた恐怖から回復したためか、それとも何ともないことに対する自嘲なのか、苦笑が出て来るアカザ。
取りあえず近くの陸地を目指し始めるアカザ。
【サンダーバード】のように他に飛行できるペットを呼び出そうとした時、横から声を掛けられる。
「怪しい奴! ここから立ち去って!」
アカザが首を横に向けるとそこには小柄な少女が居た。
羽織っているスカーフ以外の葉っぱを模った民族衣装は、かなり生地が薄い。だが色気は感じず、どちらかというと暑いから半袖半ズボンで夏を過ごす子供みたいに、活動的に思えた。
童顔と小さな背丈、活力に満ちた大きな瞳がさらに歳が低く見える。だが、腰に差した鉈と今構えている弓矢は、一流の狩人みたいでさまになっていた。
髪が邪魔にならないようにしているのか、長い茶髪を1本に纏めたお下げが後ろに垂れている。
だが、最も特徴的なのは茶髪から垂れながら出ている尖った耳だろう。
ゲームやファンタジー小説で、お馴染みのエルフ族である。
そのエルフ族の少女が弓を構えこちらに向けているというのに、アカザは歓喜していた。
(エルフっこ来たぁああああ!)
思わずニヒルな笑みが零れてしまう。
元々は妖精・神族の1種だったが、現代では多作品によって長い耳と弓や魔法が得意といったイメージに固められた。【フォークロア】でもそうであり、イメージに反さずDEX/AGI/INTが高く設定され、弓の通常攻撃は矢を2本消費しての同時発射や【魔法】スキルの使用の際マナ消費が幾分か低い。反面【生命力】やstr/defが低いといった短所もある。
そして、なんといっても特徴的なのは長く尖った耳である。
【フォークロア】でのキャラメイク(最初にキャラの種族や外見を選択し、選択肢の中から自分の気に入ったプレイヤーキャラクターを作り出すこと)でっも獣人やエルフの種族特徴である耳は多数存在し、垂れ耳、ナイフのように尖った耳、短くとも鋭く尖った耳がある。
そして、アカザは大のエルフ好きであった。
クールな性格、凛とした表情。
しなやかな曲線の太腿、華奢な体つき、美人揃いであり、これでもう高貴な性格をしているとアカザの好みにドストライクであった。
エルフの同人誌など何度見直したか覚えていない。
なら自分がエルフのキャラクターでゲームをプレイしろと言われるかもしれないが、エルフが実装されたのは【フォークロア】の3年目のバージョンアップ。
無論、エルフのサブキャラを作成しプレイしていたが、次々とスキルやダンジョンの追加が来たので、攻略するためにサブキャラの育成はそれ程労力を割かなかった。
話が脱線しつつあるが、要は夢でエルフの美女のお嫁さんを見るほどに好きな種族である。
そんな憧れの存在が目の前に現れたので、思わず笑みを零してしまったのだ。
冴えない顔での卑しい笑顔を。そして、勘違いが起こる。
「あなた! 奴隷商人!」
「え」
「ここから、出てって!」
そう言うと同時に構えた弓矢を放つエルフ少女。放たれた2つの矢はアカザの足元に突き刺さる。
「いやいや! いくらなんでも職業奴隷商人はないんじゃないのか!?」
「じゃあ何しに来たの!」
「えっと」
「口ごもった! やっぱり奴隷商人!」
今度はアカザの耳横にある木に矢が突き刺さる。
「……いや、ああ、もう分かったから。出ていくから」
誤解を解こうとしたが、口下手なアカザが説明しても分かってくれないだろうと思い早々に立ち去ろうとする。出ていけと警告しているのだ。問答無用で暴力を振るってくる奴や、いきなり馬鹿にしてくる奴らよりは数段マシであった。
そのまま【ペットウィンドウ】から、飛行能力を持ったペットを呼び出そうとするアカザ。だが、突風が森に吹き荒れる。
その突風は熱を帯び咆哮を上げる。
「ギュルガァアアアア!」
機敏なエルフの少女はいち早くその場から飛び退き、間抜けなアカザは何だと振り返る。
「危ない!」
未だその場に留まっていたアカザにエルフの少女が叫ぶ。
アカザの目に映ったのは炎。真っ赤な目の前いっぱいに広がり自身に向かって来る。
「うわぁああああ!?」
なす術なく悲鳴を上げ、炎に飲み込まれるアカザ。
周りにある木々も巻き込まれ、赤い炎に黒焦げにされる。
着弾点は燃え盛り、ガソリンや油でも含んでいるのか火炎がすぐに消えることはない。
空から降りて来た巨大な赤い鱗のトカゲに、コウモリの翼を背中から生やし、後脚が鳥のように趾が付いたような生物。
【レッドワイバーン】が襲来してきた。
彼には気の毒だが、あの炎の中にエルフの少女は入ることができないので、無事を祈るしかない。
今は最近この森に現れ、暴れ回る【レッドワイバーン】の処理に専念するエルフの少女。【レッドワイバーン】から距離を取り、森の茂みに隠れ弓を構える。
「って、あつぅう!? くない? 【ジャンプ】!」
そんな中、先ほどの放たれた火炎の中から出て来るアカザ。
ひりっと肌が痺れた程度で、ダメージがそれほどないことに気付くとすぐに反撃に転じる。
即座に腰に差した刀【膝丸《薄緑》】を抜刀。
燃え盛る炎の海を軽々と跳び越え、【レッドワイバーン】に迫った。
もう一度火炎を浴びせてやろうと、【レッドワイバーン】の獰猛な口が大きく開く。
だが、その予備動作を見逃すアカザではない。
「【エアハック】!」
【マナ】を消費して作られた薄い板を足場にして、更に高く跳びし【レッドワイバーン】に肉薄し、刀を振るう。
すれ違いざまに【レッドワイバーン】の【生命力】がなくなり、黒い霧となって散った。
そのまま着地しようとしたアカザは、目をひん剥いた。
アカザの落下を狙って、上空に居た他の【レッドワイバーン】が火炎を吹き出す。
(1体じゃなかった!? ってか、なんでこの辺に【レッドワイバーン】が出るんだよ!)
「【見切り】!」
咄嗟に防御スキルを発動させ、火炎を凌ぐ。
気で覆われた刀が、火炎をアカザの一歩手前で切り裂き、散らす。
炎を払い視界が戻った時、アカザの目に【レッドワイバーン】の数が映る。
赤と水色のまばら色。
夕日のような黄昏ではなく、空一面に血を垂らしたような色が広がる。
森の上には【レッドワイバーン】の層があるように、空を埋め尽くしていた。
思わずポカンとするアカザ。
そんなアカザに向かって火炎を放つ【レッドワイバーン】たち。
彼らの咢から放たれる炎の大喝采がアカザを迎えた。
ここで一つ訂正があるのだが、【サンダーバード】が消えた原因は限界時間に来たからではない。限界時間が5分前に来ると半透明になり消えるのだ。
しかし、【サンダーバード】はいきなり白い灰となって消えた。
つまり、【生命力】がなくなり死んだのだ。
アカザは【フライサンダーブースト】の高速移動による風圧で、目を開けることは困難であった。その間に【レッドワイバーン】の遠距離攻撃を受けた事すら、気づいていなかった。
幾らレアなペットとはいえ、【サンダーバード】は飛行移動能力に特化したペット。
戦闘用ペットではないため、【生命力】は100もない。
火焔はアカザを飲み込む。
幾らステータスが並外れていると言っても、アカザにも限界はある。【フォークロア】ではどんなに防御力が高くとも、攻撃を受ければダメージが1と表示される。幾ら【生命力】が並外れているのだとしても、複数なら無視できないダメージ量となる。
【レッドワイバーン】たちの火炎弾の一斉放射によって、蓄積したダメージが火傷と言う形でアカザに現れ始める。
「あぢぢぢ!?」
思わず痛みから体勢が崩れ、地面に背中から落下してしまう。
引きこもり生活を送って、刺激のなかったアカザには無視できない痛み。
ゴロゴロと転がり、痛みにうずめくアカザに狙いを定めた【レッドワイバーン】たち。
何匹かが急降下し突撃して行く。
全長が5メートル程の質量なら十分な攻撃になる。
アカザが傷を負ったことからステータスの恩恵も無敵ではないと、分かってしまい動けなくなる。
いくら復活すると頭で分かっていっても、アカザだって死ぬのは怖い。
それに前の世界の常識で、死んだらそれまでという意識や自分が未だに死んで蘇ることが、確証できないことからもある。
そして、その死を与える存在が人間ではなく化物。下手なお化け屋敷より怖く、涙目になってしまう。
急速に迫る【レッドワイバーン】の鋭い爪に、唾液で濡れた凶悪な牙に、血走った目に足がすくんで動けなくなる。
そして、降下してきた【レッドワイバーン】の目に矢が突き刺さる。
期を見ていたエルフの少女が矢を放ち、【レッドワイバーン】に攻撃をする。
だが、威力が弱く絶命していない。
目に刺さった矢の痛みによってもがきながら落下し始める【レッドワイバーン】。
どちらにしろ、このままではアカザは押しつぶされる。
「ああああああ!」
恐怖から絶叫し、我武者羅に刀で落下してくる【レッドワイバーン】に叩き付ける。
例え刀の側面で叩くような使い方でも、高ステータスからはじき出される強力な一撃へと変換され、風船が破裂するように掻き消えた【レッドワイバーン】。
「はっぁ、はぁ」
だが、息をついている暇はなかった。
アカザを、エルフの少女を狙ったわけではない。
空を埋め尽くしている【レッドワイバーン】が森を焼く。
エルフの少女は健気に矢を上空に居る【レッドワイバーン】に放つ。だが、威力が弱く精々釣り(モンスターに遠距離攻撃をしておびき寄せる行為)をしているような物であった。
それで一体ずつ処理していくつもりなのか、降りて来た【レッドワイバーン】に腰に差していた鉈で攻撃する。
尻尾による薙ぎ払いや繰り出される爪などを躱し、10回も攻撃をしてやっと1体の【生命力】を削りきる。
だが、そんな戦果を無に帰すかのように上空の【レッドワイバーン】が悠々と、アカザたちを見下している。
まるで、竦んでいるアカザを笑うように。力がないエルフの少女をせせら笑うように。
そして、アカザたちに殺到する【レッドワイバーン】。
その雪崩のような突撃群に確実に死ぬと思ったアカザは、どうにかしなければならないと思考をフル回転させる。
「っ、イ、【インベントリウィンド】!」
アカザは急いで装備を変更する。
サブ装備の両手の刀からサード武装に変更し、大鎌をドラッグ。
そうして瞬間移動して腰に差された刀と入れ替わりに、大鎌槍【クロノスの鎌】が手に握られる。
それは余りに不可解な形をした鎌であった。
魔法の金属、アダマス鋼鉄で作られた刃。それがL字の刃になり、巻貝のようなシルエットから卍の文字を描くように3つ飛び出している。
そしてもう一つの特徴は複合武器。槍であり、鎌であり、杖である性能を持つ。
「【ライトニングストレート】!」
【クロノスの鎌】の先端から魔法陣が展開され、瞬時にそこから一直線に伸びる電撃が迸る。
一刻も早く相手の足を止めるためにチャージをせずに放つ。
それでも太い電撃が纏めて【レッドワイバーン】を貫通していき、薙ぎ払う。
そして、魔法は遠距離攻撃の他に広範囲攻撃が多い。
【クロノスの鎌】の矛先は上空へと向け、次の魔法を放つ。
「【チェーンキャスティング】! 【フレイムボマー】!」
【チェーンキャスティング】によって、一気に【フレイムボマー】のフルチャージを終了する。
握り拳程の火球が生まれ、空に飛んでいく。精々、小学生が投球したぐらいの速度しか持たないが、壁のように沢山いるため、適当に撃っても当たると思われた。
そして、一体の【レッドワイバーン】着弾。
瞬間、もう一つの太陽が空に生まれた。
熱風が地上にまで伝わり、火属性が高い【レッドワイバーン】たちを灰に返す。
それでも範囲外の【レッドワイバーン】たちは難を逃れ、脅威からアカザに向かうかと思われたが、撤退を開始しその場から離れていった。
「……て、たい?」
ゲームでのアクティブモンスターはプレイヤーを見つけ、戦闘態勢を取ると【!!】と頭上に表示され襲って来る。
そして、戦闘態勢に移り攻撃を開始した後はプレイヤーの【生命力】がなくなるまで攻撃し、スキルを駆使し続ける。
少なくともゲームのモンスターに撤退する思考はない。
だが、生物としての彼らは危機を感じ、割に合わないと感じれば逃げるだろう。
彼らだって痛いのは嫌なのだから。