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5-1

 【常春】から矢のような速度で飛び出すアカザ。それを追従するシャム。


「……問い、アカザ、行動、不明」

「あの里の住人はトゥルーを厄介払いしたいってずっと思ってた連中が多いんだ。今更呼び出しの手紙が来るなんてありえない」

「……理解、認識、トゥルー?」

「あいつもそう感じてはいる。だけど、仲の良い師匠が居るから、手紙の差出人を偽って呼び出されたのなら、戻りに行ってもおかしくはない!」


 【エチゴ】の入口、大門のところまで戻って来たアカザ。すぐに【ペットウィンドウ】から【サンダーバード】を出現させる。巨大な4枚の翼と電流が迸る尾羽を持つ大鳥に跨る。

 シャムも飛び乗って来る。ゲームらなら定員オーバーのはずなのだが、アカザに体を密着させることで無理矢理引っ付き、鞍に跨った。


「……いや、降りてくれない?」

「……出発進行」

「足は引っ張るなよ」

「……了解」


 少々【サンダーバード】が人数が増えたことに嫌そうな顔をするが、飛行行動には問題ないらしく翼を広げ、夜天に飛び立つ。が、【サンダーバード】の特徴であった【フライサンダーブースト】による高速移動の速度が、定員オーバーのためか落ちている。

 それでも通常のペットより速く飛行し、エルフの里へと向かって行く。



 

 1時間後、【サンダーバード】の身体が透けて見える。そろそろ制限時間になって【サンダーバード】が消えてしまうため、一旦地上に降りるアカザたち。


 前に【サンダーバード】から落下した地点より、3~5㎞ほど離れていると思われる場所。【地図】で確認し、これからは歩きでエルフの里へと向かうことにした。


 森は月明りがあっても、周りは薄暗い。モンスター以外の何か出てきそうな雰囲気で、子供なら怖くて歩けないだろう。アカザも多少風で揺れる木々の騒めきに、ビクついてしまうほどに薄気味悪い。シャムも耳をピンと張り詰め、顔を引き攣った。


 慣れた道ですら、夜は昼間と全く違うように見えてしまう。


 【インベントリウィンドウ】から【魔光ランタン】を取り出す。中にあるのは火の付いた蝋燭(ロウソク)ではなく、光る魔石が入っており辺りをオレンジ色に淡く照らし始めた。


 この魔石は作成時に選択することが可能で、青色や緑色にも発光する。アカザが使っているのは加工され、宝石のように磨かれた【超高純度魔石《朱》】。


 しかし、明かりが出来たとしても、初め来たも同然の場所で、暗闇の中を歩くのは神経をとがらせてしまう。かと言って空から行くとしても、エルフの里では空も結界が張られ、【見破る】などのスキルで判断できるか怪しい。


 【地図】を注意深く見て、【索敵】によって表示されるモンスターが近くに居ないかと警戒しながら先に進む。


 アカザは記憶を頼りに北へと移動。エルフの里があった地点は、ぼんやりとだが覚えているので方向はあっていると思われた。




 だが、それから1時間経過した。


 依然としてエルフの里へとたどり着けず、アカザとシャムは暗然たる森を歩き続けていた。30分辺りからは道を間違えたのかと【地図】を見ていたものの、進行方向に間違いはなかった。


 それからはせめて方向は間違えないようにと、【地図】を大陸の形が分かるくらい拡大し、移動している途中に気付いた。


「何度も同じ場所に戻っているな……」

 アカザとシャムを表すマークが、ある程度進むと【地図】で強制移動する。


 ある場所から一定距離進むと、特定の場所に戻されてしまっている。


 ゲームだとフィールドに出入口がある。都市の門だったり、谷の間、草原と森の間の区画など。だが、その出入口は設定されている。他のところから回り込んだり、近道しようとしても見えない壁で進めない、入れたとしても強制的に移動させられてしまう。


 アカザたちが体験しているのはそう言ったゲームのシステム的な、見えない転移装置、機能によって強制的に戻されているようなもの。このままではエルフの里に辿り着けないため、結界の手掛かりを見つけるために【見破る】を発動する。


 だが、アカザの目には何も見えない。

 そもそも、【見破る】は隠れている相手や設置された罠などを見つけるスキル。


 森を覆っている結界は、防御壁や出入口のような物で危険性はない。故にアカザには何も見えないと思われる。


「だとしても、先に来たトゥルーやクゥカは入れたんだよな?」

「……飛行中、擦れ違い発生」

「その可能性は少ない。【索敵】で道中、人は感知できなかった。遠回りする理由も殆どないはずだ」


 街道沿いに現れるモンスターの脅威は、【地獄門】を破壊してから遭遇頻度が減っており、通常になりつつあるため、モンスターで足止めをする可能性は低い。


「あ」

「……何?」

「【ランク証】で連絡取ればいいじゃないか」

「…………今更」


 動揺を引き起こしたアカザは、ど忘れして最初になんでその行動をしなかったのか、我ながら呆れた。まるで電話の悪質な詐欺にあったおじいちゃん、おばあちゃんもこのような心境になるのだろう。なんで最初にそう思わなかった、と。


 理由はリアルで友達が居ないボッチの慣れか、今時携帯すら持っていない現実のためか、はたまた、【フレンドチャット】ではパーティ応募くらいしか使わなかったためか。ともかくど忘れていたアカザ。


 ただ、【ランク証】を取り出しトゥルーへと【フレンドチャット】をしている途中、恐らくだがトゥルーは出ないだろうとアカザは思った。


 案の定、数十秒立っても【ランク証】からトゥルーの声は聞こえなかった。

「……ダメだ」


 アカザは他の手段で結界の中に入れなか、トゥルーたちと連絡が取れないかと頭を回転させる。


 空にも結界が張られているとはいえ、限界高度から落ちて結界内に入れないか。

 騒ぎを起こして結界の中に居るエルフたちをおびき出すことは可能か。

 最終手段として、火属性の極級魔法で森を薙ぎ払うところまで考えてみたアカザ。


 そんな時、シャムが提案する。

「……私、トゥルー、匂い、追跡、可能」

「あ、そうか」


 少なくとも陸路で来たら、トゥルーたちはこの森の中に入って足跡や体臭が残っているはずである。獣人であるシャムなら人間種のアカザより目や鼻、耳などの感覚は鋭いかもしれない。


「いや、何時間経過したか知らんが、匂いって早々残るものか?」

「……スンスン。……現在、匂い、発見、ならず」

「……自分で言っておいてそれか?」

「……失礼」


 てへぺろと舌でも出していれば、殴り掛かるところだが、申し訳なく謝るシャムに追い打ちを掛ける気もない。


「……結界がスキルの【魔法】に属するなら、【ディススペル】とかで無効化できるか? ……いや待てよ」


 アカザは腰に差している【暗鬼鞘】を見る。刀を抜いて鞘にある意識、【鬼道丸】に話しかける。


「おい、お前なら結界を吸収して、無力化できたりしないか?」

【その結界がどのくらいの規模化によるな。それよりも手っ取り早く結界に穴を開けた方がいいだろうな。そちらの方が手っ取り早い】

「は? そんな機能あるのか?」


 【鬼道丸】に戸惑いの声で問うアカザ。アイテムの説明文(フレイバーテキスト)では魔を吸収し力を得るといった内容。他には何も書かれていないが、まだ他にギミックがあるらしい。


【我の機能は知っておろうに】

「【マナ】を吸収して、お前が武器に移って【マナ】を放出できるようになるんだよな」

【ああ、だが私の力が、それだけに終わると思うか?】

「だったら、何で姉さんとの戦闘の時には使わなかったんだよ」

【意味がない。あれは直接攻撃を加える手段ではないからな】


 【鬼道丸】の説明によると攻撃といった手段ではないらしく、補助的なものらしい。それで結界に穴を開けるという単語が出て来た。いったいどんな能力になるのか、多少気になり出すアカザは急かす。


「そんなに便利な方法があるなら、早く教えてくれよ」

【否】

「え?」

 【鬼道丸】が仮にも持ち主であるアカザに拒否を申し出たことに、少し戸惑った。


【……この鞘に憑依してから散々無視され、強制的に黙らされることもしばしば。その小娘には弄りまわされ威厳も何もない。前回の戦闘辺り日の目があるかと思いきや、貴様の姉の存在感に全て持っていかれ目立たず……。待遇改善を要求する!】

「俺の知った事か」


 手に持っていた刀は地面に差し、【暗鬼鞘】の両端を持ち、力を入れ始めるアカザ。今は【鬼道丸】の戯言に付き合っている暇はない。


【イデデデデデ!? 腰! 腰は卑怯だぞ!?】

「鞘に腰なんてあるかよ。あるのは面倒になった魂だ」


 だが折って壊す訳にはいかないので、力加減を調節して【鬼道丸】に苦痛(本人曰く、腰痛)を与えるアカザ。だが、泣き叫んでもうるさいだけなので、両手の力を徐々に抜く。


「さぁ、吐け」

【例え身体を傷つけ、甚振られようと、心まで屈すると思うな!】

「そうかい、ふん!」


 軽くUの字まで曲がる【暗鬼鞘】。意外としなやかに曲がり、柔軟。が、【鬼道丸】にとってはたまったものではなく、凄まじい音量の悲鳴が切羽から生まれる。


【ギャアアアアア!】

 暗い森で男の悲鳴が木魂する。女性ならホラー、サスペンスと豊富な候補があるものの、男性だとホモ映像ぐらいしか思い浮かばない。


 流石にこれ以上力を入れると折れそうで怖くなり、力を緩めるアカザ。


「言う気になったか?」

【負けぬ……。このような理不尽に負けはせぬ】

(面倒臭い……。もういっそのこと折るか?)


 アカザは【鬼道丸】の反抗に付き合ってられなくなり、とうとう、破棄しようと考え始める。そうアカザが考えていることを顔の具合から気付いたのか、シャムが【暗鬼鞘】に手を差し伸べて来る。


「……ダメ」

【じゅ、獣人の小娘よ。手を差し伸べてくれるのか?】

「……それ、不可思議。アカザ、不要、私、欲する……玩具、として」

【畜生がああああ!】


 どうやらシャムの感覚からして【暗鬼鞘】は珍しいおもちゃ程度の物らしい。アカザは何の躊躇いもなくシャムに【暗鬼鞘】を渡す。手にしたそばから、切羽や鯉口を遠慮なく弄り回すシャム。


【お、おい! 相棒! 助けろ!】

「相棒と思っているなら最初から方法を教えろや、駄鞘」


 よほどシャムに触られるのは嫌いなのか、先程力任せに曲げたことも祟って鞘がくねくねと動き出し、声を荒上げる。


【分かった。教えるから助けてください!】

 その叫びは豪傑としての威厳もあった物ではなかった。




 【暗鬼鞘】の鯉口の部分が変形する。それは、奇妙な形をした傘のようにも見える。鯉口はアカザをすっぽり覆う程に大きくなり、鯉口から結界を吸い込み穴を開けた。


 傘を盾にするように進行するアカザとシャムは、結界の力に阻まれず中に入る事ができた。


 【暗鬼鞘】は装備によって形を変える。アカザが2つ刀を装備すれば鞘は2つとなり、大剣や野太刀を装備すれば鞘はサイズに合わせ変形する。変形ギミックは自身で設定しているらしく、自由に変形できたらしい。


 なので、一部を大きくしたり、伸ばすことも可能と言う。

「西遊記の如意棒じゃあるまいし」

【……ぐずん】

「……可哀想」


 シャムが言ってはならないとアカザは思うが、【鬼道丸】は突っ込む気にはならずしくしくと泣き続けた。威厳、貫禄、キャラなど様々なものが崩壊していた。

 ともかく、エルフの里へと急ぐ。

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