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4-12

 爆煙が立ち込める玉座。

 先程の炸裂は黒い風が吹き荒れ、掻き消す。


 そこで野太刀の黒色が消え、元通りの空色に戻っている。吸収した【マナ】が切れてしまい、【鬼道丸】の意識も鞘に戻る。


 煙が晴れた時、そこにはクスフィーの妖精族の特徴の虫の翅が無くなり、黒髪から突き出た長く尖った耳が印象的なエルフに変わっていた。


 【フォークロア】には【変身】というスキル、モンスターやNPCに姿を変えるスキルがある。だが、外見は決められておりプレイヤーが種族を変えても、細部を自由に変更することは出来ない。


「どうなって……」

 姿形を自由に設定できる【独自技芸術(オリジナルアーツ)】だったとして、ここでそのスキルを使って来る理由が分からない。


 いや、そうではない。

 アカザは直感でクスフィーが種族を変更したのだと悟る。


 例えば、一旦ログアウトしてキャラクターをチェンジするように。現に【ステータススキャン】で表示されている名前はクスフィーから、ルーレアへと変更されている。


 先程与えたダメージ、それどころか消費していた【マナ】の各ゲージは満タンになっている。


 その状態を見た時、アカザは一つの考えを出す。


 変わり身。

 体を入れ替えて、先程までの戦闘の消費を帳消しにした。

 名付けるなら【個体切替(キャラクターシフト)】だろうか。


「……幾ら何でもチート過ぎるだろ」

「でも、もっとこれでアカ君と本気で戦えるの。お姉ちゃんはこんなスキルが発現してよかったと思うよ? それにお姉ちゃん、最初からクスフィーでこの世界に居たわけじゃないよ?」


 発言から、恐らく最初はルーレアでこの世界に来たのだろう。そして、キャラクターチェンジできる【独自技芸術(オリジナルアーツ)】を習得した。


 それからクスフィーで過ごし、いざとなったらルーレアになって先程のダメージを無効化したり、姿を誤魔化したりできる。


 そして、もし姉がキャラクターが何十、何百体も作って課金サービスによるコンバートを(おこな)っていた場合、一々中途半端に攻撃したところで、キャラクターチェンジされて無駄に終わってしまう。


「大丈夫だよ。キャラチェンジはこれで終わり」

「……なんで?」


 もう、姉がアカザの思考を読んでいることに驚きはしない。


「そうね。もうキャラクターが居ないってことじゃないけど、やっぱり使い慣れている方がいいから。だから――」


 自身の腹に、おもむろに手に持った2本のレイピアを突き刺すルーレア。


 流石にその光景には驚き、アカザは鳥肌が立った。

 【ステータススキャン】でも、どんどん【生命力】のゲージが減少していく。


「さっきの【生命力】まで減らすから、ちょっと待っていてね? ああ、アカ君も加わってくれていいよ?」

「……別にいい」

「別に【生命力】、そのまま減らしてくれてもいいんだよ?」

「そうやって勝ちたい訳じゃない」


 アカザは先程負ったダメージはそのままで、ルーレアが【生命力】を減らすまで待つことにした。ただ、淡々と自傷行為を繰り返すルーレアを見ていると、その姿が痛々しく見えてしまい、目を少し逸らしたくなってしまった。


 だが、アカザは逸らさない。

 これから戦う相手なのだから、目を背ける訳にはいかない。

 そうして数十秒立った後、クスフィーの残存【生命力】まで削り終えた。


「お待たせ」

「そう。じゃあ、ぶっちぎっる」

「できるかしら?」


 アカザは野太刀を構え、ルーレアもレイピアを構える。

 一呼吸の後、両者が激突しラウンド2がスタート。




 アカザはスキル群【侍】の【疾風迅雷】を発動。


 【マナ】で変換させた電撃が体中から溢れ出す。そして背中から電流を放出し、電気推進する。まき散らされるアーク放電の青白い光は莫大で、一瞬にして玉座を真っ白な光で包み込む。背中で爆発でも起きたかのような、加圧で駆け出したアカザ。


 対してルーレアはスキル群【種族】、【エレメンタルドライブ】を発動。

 虹色の光が体を包み、同じ色の光粒が背中から噴出し、爆発的な加速を得るルーレア。光粒はジェット噴射のような勢いで放出され続け、一気に玉座を虹色の粒で満たす。加速 Gなど全く気にせず、アカザへと向かって一気に駆ける。


 そんな加速で2人は正面衝突。

 野太刀とレイピアが全くの同時に相手の身体を突き刺さる。


 そして深々と刺さった後、電流を纏った体と虹色で包まれた体がぶつかり合い、お互い反動で後方に吹っ飛ぶ。


 2人とも【受け身】で即座に立て直し、今度はアカザだけが突進。ルーレアは前方に魔法陣を展開し、迎撃態勢に移る。


 アカザは魔法陣が目に入り、すぐにルーレアの直上に跳躍。勢いよく飛んだアカザは天井を足場として蹴り、一気に降下。ついでに【兜割り】も発動させ、更に効果速度を上げる。


 だが、幾ら速くても直線的な軌道は見切りやすい。すぐに魔法陣を上に向け放つ。

 魔法陣から生まれたのは青白い電撃、【ライトニングストレート】。直線に走る電撃は、同じく直進して来るアカザへと向かう。


 アカザは【暗鬼鞘】を向かって来る目の眩むような強い光を放つ電撃に向ける。瞬間、鞘の鯉口から吸い込まれるようにして、【ライトニングストレート】が無力化される。


 そのまま無力化しながら、ルーレアの居る場に野太刀を振り下ろす。


 だが、その場にルーレアは居ない。


 先程の【ライトニングストレート】の光を目眩ましに、放った後移動していた。

 そして、着地するアカザにタイミングを計ってレイピアを向け、【並列行動(パラレル・アクション)】で【スタンバイタイム】と【チャージタイム】を終えた【アイススピア】を放つ。


 アカザの死角から撃たれた、氷の槍は10本。ショットガン化しており、逃げ場がない。

 背後から強襲してくる氷の槍に気付かないアカザ。殺気や気配など探知できず、だが、気付ける者は他に居る。


【後ろだ!】

 【鬼道丸】の声に反応し、咄嗟に振り下ろす野太刀の軌道を変え、強引に空中で体を振り向かる。目の前には凄まじい勢いで飛んで来る10本の氷の槍。


 振り向きざまに【暗鬼鞘】を盾とするアカザ。

 突貫して来る【アイススピア】10本を鯉口で呑み込む【鬼道丸】。


 強引に体を移動させたことで、バランスが取れなくなってしまったが【受け身】を再度使い、隙をカバーし着地する。


 一瞬、肝が冷えた。だが、安堵している暇はない。

 アカザに息を付く暇も与えないかのように、レイピアで突き掛かって来るルーレア。アカザが地面に着地し、衝撃を膝で曲げることで緩和する一瞬の隙を逃さない。


 もう避けられないことを悟ったアカザは、野太刀を【暗鬼鞘】に納刀。


 スキル群【武器《二刀流》】の【デュアルラッシュ】が炸裂。

 通常攻撃による倒れる回数分の×3倍の攻撃回数が一瞬にしてアカザを襲う。【ティターニアレイピア《フェアリーフェンサー》】と【オーベロンサーブル《エルフルーラー》】の攻撃可能数は共に5回。


 両手だと10回攻撃できることとなり、計30回の刺突が一気に破裂。

 滅多刺しになる。


 痛覚が破裂したような痛みがアカザの全身に駆け巡る。

 そして、それはまだコンボの途中に過ぎない。


 続くルーレアの攻撃。


 アカザは痛みからか、ゲーム法則のノックバック(仰け反り)からか動けず、スキル群【武器《二刀流》】、【スラッシュストーム】を喰らう。


 刺突が余りにも速いため、アカザの目でも細剣が何十本にも見える。その威力は筋力(STR)が劣っているエルフとは思えない程に。


 そして、最後に【アヴァランチシーケンシャル】。突きという攻撃の点が両手から幾多にも放たれ、壁のような圧力となり、アカザへと突き刺さる。


 名前の通り雪崩の勢いで放たれる突きに、アカザは後方に吹き飛ばされる。


 何千回の突き刺さる痛覚。

 脳内での痛覚への変換が間に合わず、ただ全身が熱く感じる。


 だが、体はしっかりとダメージを受け、口の中で血の味がした。

 それでも、【受け身】を使い体を立て直し、抜刀。


 抜き放つと鯉口から黒い風が吹き荒れ、【天叢雲剣《剣之神器》】の空色の刀身が黒く染まる。


 刀身を後ろの方に回し、黒の【マナ】が噴流。

 大気が破裂し、とてつもない速さで駆け巡る。


 アカザが通った後は黒の【マナ】の放出によって、嵐でも起きたかのような惨状になってしまう。


 突進してくるアカザに対し、スキル群【武器《片手剣》】のカウンター系スキル、【フル・ヴォルテ】で迎撃の態勢を取るルーレア。


 相手の攻撃を正面から切っ先を向けて、いなし無力化した後、体を回転させ相手の背中から突きを入れるモーション。この時、背後からの攻撃によってクリティカル補正とダメージの増大効果がある。


 だが、アカザはルーレアの手前で野太刀を振るい、黒い噴流と野太刀を床に叩き付ける。大理石は砕かれ、黒い風によって巻き上がり飛礫となってルーレアに襲い掛かった。

 カウンター系スキルの殆どが、遠距離攻撃に弱い。特殊なカウンター系スキルなら返すことも可能だが、今度は近接攻撃は返せないといったことになる。


 近接攻撃と思われた行動が、一瞬にして変化した。常人なら突然の行動に反応できず、飛礫が散弾のように体に当たり、スキルの構えが解かれたところに1撃を貰い負ける。


 だが、ルーレアは超人である。


 その行動を予期していたかのように【フル・ヴォルテ】を解除し、前面に【センチネルバリア】を張る。魔法陣が描かれた防壁は、飛礫も黒い【マナ】の暴風も跳ね返す。


 その防壁を突破するためにアカザはスキル群【忍術】、【分身殺法】を発動。

 いきなりルーレアの周りを実体のある分身が9体現れ、取り囲み四方八方から突撃攻撃を行う。別方向からの連続攻撃に対し、回避スキルや防御スキルを使うと思われた。


 だが、ルーレアはレイピアを上に掲げる。そこから【アイスボルト】の10個の握り拳程の大きさの氷塊が、別々の方向にいるアカザ本人と分身めがけて飛散する。


 本来、【アイスボルト】や【ファイアボルト】はそれぞれの特徴があり、ましてや別々に飛散することも、ショットガンのように同時に魔弾が発射されることもない。


 名付けるとしたら【独自技芸術(オリジナルアーツ)】、【同時発射マルチロックオン】。スットク式のスキルを任意の方向に分散させ放つスキルなのだろう。


 攻撃することしかできない分身は、防御や避けるなどの行動を取れず、氷塊に貫かれ散り散りになった。


 アカザ本人は右に【ステップ】を使うことで回避できたが、もう片手に持っているレイピアの先端が、回避先を予想していたらしく向けられていた。


 【並列行動(パラレル・アクション)】によって、【スタンバイタイム】は終了している。だが、剣先から放たれるのは魔法ではない。


 スキル群【戦闘】、【ソードウェブ】。

 【魔法】スキルが鞘に吸収されてしまうのは分かっている。それならば【魔法】ではなく、剣技や物理攻撃でダメージを与えればいいだけの話。


 突き出されたレイピアから出て来た衝撃波はアカザを貫く。


 いや、すり抜けた。


 スキル群【暗黒騎士】、【ドッペルゲンガー】。

 使用者の分身を呼び出し、自身の行動を分身に追従することが可能なスキル。


 そこことが分かったルーレアは、すぐに真上から来る殺意を感じ取り、上に目を向け視界に入った間地かに迫るアカザを迎撃する。


 だが、いつ?

 いつ入れ替わったのか。その疑問がルーレアに過ぎり、高速で回答を得る。


 まず【分身殺法】と一緒に【融技(フュージョンスキル)】で【ドッペルゲンガー】を混ぜた後、移動系スキル【ディメンション】や【キャスリング】でワープし分身と位置を入れ替える。


 そして、先程倒したのは【影分身の術】による幻影。本体はルーレアの攻撃を【ステップ】で避けさせる。その後、【ドッペルゲンガー】の追従する行動タイミングをずらし、すぐに【ジャンプ】して上空を取った。


 そして、奇襲はほぼ成功。

 だが、それが彼女に通じるかと言われれば否。


 即座に迎撃態勢を整えたルーレアは、野太刀を受け流し、もう片方の細剣でアカザの喉を突き刺してくる。


 その一瞬の刹那、彼らの間にリンゴが落ちて来る。


 赤く熟れたリンゴ。

 誰しもがこう考えるだろう。


 なんで? と。


 答えはアカザが空中に飛んだ時に、取り出して落とした。

 たったそれだけである。


 だが、疑問が一瞬だけ頭を過ぎる。


 何でこんな殺し合いの最中に、何も関係ない物が転がり込んで来るのかと。


 どんな人間でも思考し、行動をしている限り疑問は持つ。


 瞬きにも等しい時間だけ、アカザの意味不明な行動にルーレアの思考を別方向に向ける。

 リンゴの形をした爆弾か、なぜ注意を引く効果を持っている【黄金のリンゴ】ではないのか、といった疑問が頭の中で過ぎってしまう。


 その刹那の隙に、振りかざした野太刀に残っている黒い【マナ】を全部吐き出させ、最後の一撃を行う。


 そのまま攻撃を行う為に突撃したため、喉にレイピアの鋭利な針が突き刺さりながらも進む。喉に異物が差し込まれる不快感と、窒息の苦しみと痛みに苛まれながらも迷わず、野太刀を振り下ろす。


 玉砕覚悟で振り下ろした一太刀を、真面(まとも)に喰らってしまったルーレア。


 アカザも、喉に突き刺さったレイピアによって【生命力】を減らす。


 クリティカルが発生したのか、【生命力】の減り方は通常より大きい。


 だが、【生命力】は1割残った。


 対してルーレアは黒い風が体内で暴れ廻り、ダメージはアカザと比較して大きかった。防御能力が低いエルフであった為、アカザの発動していた【手加減】がルーレアの【生命力】を1ポイントだけ残しただけに終わる。


 そのことを確認したルーレアは、アカザに突き刺さったレイピアを抜く。


「お姉ちゃん、負けちゃった。強くなったね行君」


 凄まじい痛みが身体を駆け巡っているはずなのに、彼女は微塵もそのようには振る舞わない。それどころか、アカザに微笑んで称賛すらし、自身の敗北を認めた。

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